第2話 ノックの音がした>大発明
ノックの音がした。
そりゃそうだ。わしが音を立てたんだから。この立派なスイカを、こう、こんこんと叩いての。
で、結構、上機嫌なのよ、わし。
何故って、そりゃあんた、長年の研究が昨日、ついに結実したんだねぃ。
発明というか、発見か。うーん、ま、理論だな。
頭の善し悪しを計測する理論を、構築したのだよ。
いやあ、気付いてみれば、実に簡単なことでねぃ。あんた達一般ピーポーも常日頃、特に夏場なんか、よくやっておることだよ。
ん? ピーポーって何だって? ばかもん、 people に決まっとるだろ。ついでに解説してやると、一般 people とは、一般人のことをいい、ぱんぴーと略す場合も……何? それぐらいは分かってる、だと? なら、最初から聞くな。
それよりも、どんな理論か、聞きたいじゃろ。
こう、叩くだけで分かるんだねぃ。それを録音し、解析するのだ。音の大きさとか反響とかをな。
そういう様々なデーターを……。最近は「データ」だと? うるさい! 意味が通じればいいのである。
こほん。
えー、様々なデーターを、コンピューターだかコンピュータだかに入力してだな。計算すれば答一発、頭の善し悪しが分かる訳だねぃ。
さっきやっただろ。スイカを叩いて味の見当を付ける。あれからの発想だよ。
理論の中身を教えろだと。馬鹿者。そんなことしたら、わしの苦労は水の泡になるじゃないか。
その代わりに、実験で見せてやろう。あんた、大学はどこの出だ?
ほう。さすが、一流雑誌社の人間は、一流の大学を出ておるな。
さて、頭を差し出すがよい。うむ。そこへ横になればいい。ちょっくら、叩かせてもらうがの。全然痛くないし、時間もかからん。
こら、どうして逃げる。
何々? 自分の脳味噌の出来ぐらい、よく分かってる。調べてもらわなくたっていい、だと。だからこそ、実験するんじゃないか。あんたが自分のことを分かっとるから、調べた結果と照合して、わしの理論の正しさが立証できる。
遠慮する? 何故だ。実験ができないじゃないか。全く、おまえさんとこだけに特ダネをやろうと、先んじて招いてやったというのに。
わし自身が実験台になればいい? なるほどの。分かった。やってやろうじゃないか。あんたにも手伝ってもらうぞ。実験器具の操作は簡単。素人にも、楽にできる。
わしは、そこの寝台に横になるから、動かんよう、バンドを回して固定してくれ。それから、計測用ヘッドギア、ほれ、そのコードがいっぱい延びておる奴、そいつをわしの頭に取り付ける。分かるな? そうしたら、この備え付けのハンマーを六十度の角度まで持ち上げ、手を離す。いいか、振り下ろしてはならん。自由落下のように、そっとやるんだ。角度の目盛りは、横の分度器で合わせるんだぞ。
飲み込めたか? ようし、では始めよう。
* *
<町の研究発明家、事故死?
X日の夜六時頃、**区の山川さん宅を訪れた町内会役員が、山川高太郎さん(五十九)が頭から血を流して死んでいるのを発見した。警察では、山川さんがベッドに固定された状態で、細工をした金槌によって頭部に打撃を受けていること等から、事故と他殺、さらに自殺の線も含めて捜査を慎重に進めている。
山川さんは独身、独り暮らしで、町内では発明家のおじいさんとして名が通っていた。近所の人の話によると、山川さんは最近、いくつものスイカを買い込んできては、一日中、叩き割っていたらしく、破裂音が夜な夜な聞こえてきたという。>
――めでたし、めでたし
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