第38話 こっちの世界で決戦だ③

『だったらこいつでどうだい! それそれ!』


 魔王が手近な建物を、だるま落としみたいにして、次々こっちに撃ち出してくる。

 私はこれをカーモードで回避して、避け切れなさそうなのを吸引!


 キュイイイイイイインッ!!


◯お腹の中

 中古アパートの四階

 家財道具

 カリフォルニアの日差し


◯レシピ

 選択して下さい


 選択……!

 魔王の攻撃をどんどん避けながら、私は高速で頭脳を回転させる。


 家財道具の中に、何かそれっぽいものが……あった!!

 なんであったのか分からないけれど、これは戦えるでしょ!


「錬成! ポップコーンマシーン!!」


 私の目の前に、ポップコーンマシーンが出現した。


「アメンボ、ハンドル任せた!」


『スイスイ!?』


 慌てて前足でハンドルを支えるアメンボ。

 その頭上にトムが乗って、「うおーっ、回避ですよーっ!」と飛び跳ねている。


 私はポップコーンマシーンに取り付いて、操作する。


「照準セット! 行け、ポップコーン!!」


 カーモードが魔王の周りをぐるぐる走り回り、連続してポップコーンを叩きつける。


『ウグワーッ!? あ、甘くないお菓子であたしのスイーツパワーを奪い取っていく!?』


 そんな効果がポップコーンに?

 だけど、実際にポップコーンは威力を発揮していた。

 ポコポコとぶつけられた魔王の表面に、明らかにダメージが残るのだ。


『ええい、しゃらくさいわ! 直接叩き潰して──』


 そう言って魔王が飛び上がった瞬間、横から飛んできたミサイルが魔王に炸裂した。

 爆発!

 だけど、爆煙の後から出てきた魔王は全然無傷。


『何よこれ? 概念の乗ってない物理兵器であたしをどうにかできるわけ無いじゃない』


 私がポップコーンを発射する。


『ウグワーッ! だから、あんたの攻撃は全部概念が乗ってくるからヤバいのよ! 魔王を倒せる能力者なんてのは最悪なんだからね!!』


 ミサイルより強いポップコーン!

 とにかく、ミサイルが効かなかった以上、魔王には普通の武器は全て通用しないって思ったほうが良さそうだ。


 上空を飛行機が飛んでいった。

 あれがミサイル発射したやつかな?

 スーッと通り過ぎていって、また私と魔王がワチャワチャ戦い始めたら、ミサイルをぶっ放してきたみたい。


「もう、迷惑だなあ! 邪魔なの! 吸引!」


 キュイイイイイイインッ!!


『あっ、まずいっ!!』


 魔王が慌てた。

 チョウチンアンコウボディがふわっと飛び上がる。


◯お腹の中

 空対地ミサイル

 カリフォルニアの日差し


◯レシピ

 本物ミサイル


「本物……? ああ! インプとかで作ったのとは違うんだ! よーし、錬成、本物ミサイル!!」


 お腹がピカッと光って飛び出したのは、カーモードの何倍もあるようなミサイルだった。

 なんか、横に私をキャラクター化したようなイラストが描いてある。


 これが、尻尾から火を吹きつつ魔王を追いかけた。

 猛烈な勢いで逃げる魔王!

 追いかけるミサイル!


 あっ、飛んできた飛行機と魔王が激突した。

 飛行機が粉々になって、パラシュートが降りてくる。


 魔王無傷。


「こっちの世界にいると、本当にヤバいかも! トム、あっちに帰ろう」


「えっ、正気ですか!? あんな状態の魔王が出てくるなんて、アルケイディアが壊れてしまいますよ!」


「的が大きくなったんだもの。いけるいける! それにこっちの世界なら壊れてもいいって道理はないでしょー!」


 トムをぐにぐに引っ張ると、トムが「ウグワーッ」と悲鳴をあげた。


 そうしたら、空で大きな爆発があって、『ウグワーッ』と悲鳴が聞こえた。

 あっ、黒焦げになった魔王が落ちてくる。

 あれはもう勝てるのでは?


 何発も攻撃を当てたのだけど、ちゃんと私の攻撃のダメージは蓄積されてるみたいだ。


『なーんだ! このあたり、あちこちに魔力があるじゃない!』


 黒焦げ魔王がまずそうな事を言った!

 突然海がパカっと開き、魔力の渦への扉になったのだ。

 どういうこと?


 もしかし日本はそれっぽい封印がされてたけど、こっちはそういう封印が甘いってことだろうか?

 それはよく分からない。

 このままだと、せっかく弱らせた魔王がまた魔力の渦で元気になってしまう。


「トム! ケミストリ! 早く!」


「わ、わ、分かりましたウグワーッ!」


 トムをぐいーっと伸ばしたら、彼はポンっと音を立ててケミストリに戻った。


『だが、戻るのはアルケイディアの中じゃない。宇宙でとどめを刺そう!』


「えっ、窒息しない?」


『宇宙はエーテルで満ちているので大丈夫!』


「エーテル……? 真空じゃなく?」


 疑問を解消している暇なんかない。

 ケミストリは力を使い、辺り一帯を異世界へ飛ばしたのだ。


『魔力の渦で、僕も力を得ていたようだ。なるほど、こちらの世界なら魔力が薄いから魔王を倒すにはいいと思ったが、魔力は封じられ凝縮されていたのか……。これはたしかに危険だった』


 結果オーライで魔王を現実世界に飛ばしたなー?


 私たちが現れたのは、赤とかオレンジとか黒の色彩に満ちた空間だった。


 背後には、巨大なドーナツ状の構造物があって、芯に合わせてぐるぐる回転している。

 あれがアルケイディアか。

 そして、周囲の空間、遠くには瞬く星が無数に見える。


 あー、息ができるできる。

 エーテル? とか言うのは吸えるんだねえ。


『お、おのれーっ! あと少しのところだったのに!』


 魔王がハンマーを振り回し、ぷりぷりと怒っていた。


「後少しでどうなるところだったのよ」


『世界中をスイーツに変えられる力を手にできたのよ! こうなったら、あんたたちを叩き潰してから、後ろのコロニーをまるごとスイーツにして、それから手近な星に降りて……』


「させるわけないでしょ! 私はあんたをここでやっつけて、家に帰るんだから!」


 睨み合う私と魔王。

 とうとう最後の決戦なのだ。


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次回あたりが魔王戦クライマックス!

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