第39話 エーテル宇宙を草色に染めて①

『これで終わらせるわよーっ!』


 魔王がめちゃくちゃにハンマーを振り回してきた!

 彼女の攻撃は、振るだけで実体のある星みたいなものを生み出してくる。

 あれが何なのかよくわからなかったけど、多分金平糖の一種だ。


 私が吸引して錬成したら、普通サイズの金平糖になったもんね。

 それがビュンビュンと、猛烈な勢いで次々迫ってくる。


「アメンボ、回避ー!」


『スイスイ!』


 さすがのアメンボマシーンも必死で、ぐるぐる回りながら金平糖の流星雨をギリギリで避けている。


「ナリさん、ちょっとの我慢です! 今、強力な援軍がやってくるところですから!」


 トムが変なことを言った。


「援軍!? 援軍って、こんな宇宙にどうやって来るの!?」


「僕たちが向こうからこっちに移動して来れたんですから、向こうから来れる人だっていますよ! それにナリさんの力になるって言ってた人たちがいたじゃないですか!」


「そうだっけ? あ、そう言えば……」


 父の仲間の草野球チーム。

 来るって言ってたけど、来たら何かできるの……?


「おっと!! 吸引!」


 星を吸い込み、カウンタースターを錬成して魔王にぶつける。


『これっぽっちじゃ効かないわよ!! あたしは怒ってるんだからね!!』


「やばい、本気だ。今までみたいに簡単に怯みそうにない」


「あれ、ナリさんだからまともに相手できてますけど、普通は戦えるような相手じゃないですからね! 簡単に怯んでたのが異常だったんです!」


「そっか。ミサイル効かなかったもんね」


 つまり、魔王にダメージを与えるなら、インプやデーモンを呼び出させて、これを私が利用して攻撃するのが一番いいわけだ。

 だけど……魔王はそれを警戒して、手下を生み出してこない。


 ひたすら星をばらまいている。


『スイスイ~』


「アメンボが疲れてきた」


「ずっと動いてますからね! まずいですよ、ジリ貧です!」


「ぬぬぬぬぬ!」


 私はあたりを見回す。

 すると、ちょうどいいところに小惑星が浮いていた。

 そこに逃げ込む私たちなのだ。


 だけど、小惑星と言えど魔王の前では大した力を持たないみたい。

 襲いかかる金平糖の嵐が、小惑星をガリガリ削っていく。


「やばいやばいやばい! もう、草野球チームでも私のクラスメートでもいいから、さっさと出てきて!!」


 私が叫んだ時だ。

 さっき、私たちが現れたあたりがぼうっと輝いた。


 エーテル宇宙に穴が開く。

 その向こうに見えるのは、魔力の渦の輝きだ。


 出現するのは、宝船。

 私はカーモードになった時に乗り捨てたと思ったけど……また魔力の渦に戻ってたんだ。


「うおーっ! ナリー!! 助けに来たぞー!!」


「ナリちゃんかい!? ヒエーッ! 宇宙で喧嘩してるとは、威勢がいいねえ!!」


「宇宙って息ができないんじゃなかったっけ?」


「ばっか、俺らが会話できてるだろ。そんなことより、ナリちゃんを助けるぞ!」


 草野球チーム来たあ!

 何ができるんだ、あの人たち。


「よーし、ボールを打ち込めー!! ありったけだ、ありったけ!」


 父と草野球チームは、現れるや否や、魔王めがけてバッティングを始めた。

 半分がボールを放り投げ、バットを持った人がそれを魔王に打ち込む!


『うわーっ!! な、なんなのよお前たちーっ!? 痛っ!? アイタっ!?』


「嘘みたいだけど効いてる」


「ナリさんに近い人々ですから、繋がりができてるんです! だから、魔王と戦えるナリさんと親しければ、その人たちも魔王とちょっと戦えるわけです!」


「不思議な法則……!」


 私が驚いていたら、宝船から思わぬ人たちも顔を出した。

 私の友人たちだ。


「ナリ! 生きてたんだね! よかったー!!」


「浮気野郎を後でとっちめようね!!」


「ナリさん!! フリーになったんだよね! 俺、後で伝えたい事が……」


「フラグやめろ」


 わあわあ騒ぎながら、彼らも武器を取り出す。

 あれは……射撃ゲーム用のスポンジガンだ。


 大きなスポンジの弾を撃ち出して、標的に当てたりサバイバルゲームをしたりするやつ。

 動画で見たことがある。


 どうやら、友人の一人がスポンジガンを集めてたらしい。

 男子も女子も、このスポンジガンを構えてガンガンに撃ちまくる。


「チョウチンアンコウおばけめ!」


「喰らえ喰らえ喰らえ!!」


「な、なんでみんなも来てるの!?」


 そうしたら、私に向かってフラグを立てかけた男子がキョトンとした。


「え? だって俺の親父、ナリさんのお父さんと草野球チームなんだぜ」


「あ、そっか」


 妥当な繋がりだった!

 彼らは私とそこそこ近所の友達で、だからこそ、父親同士も草野球仲間だったりしたのだ。


 スマホが無くても、こう言うやり方で情報が伝わってたかあ。


「意外……! ナリさんモテますね!」


「意外とはなんだ意外とは!」


 トムをぎゅうぎゅう引っ張って、「ウグワー!」と言わせておいた。

 なお、父は後ろにいるフラグ立てた男子に、複雑そうな視線を向ける。

 そして彼の父親らしき草野球仲間に、


「後で話をつけような」


「いいぜ。バッティングセンターで勝負だ。俺が買ったらナリちゃんは息子の嫁にもらう」


「させねえ!!」


 とか盛り上がってる。

 一気に、エーテル宇宙が賑やかになってしまった……!!


 だけど、これはいけそう。

 かなりいけそうな感じがする。


 だって……。


 魔王は、突如現れたたくさんの相手に驚き、しかも彼らの攻撃が自分に通用しているものだから、みるみる怒りで顔を真っ赤に染めていった。


『ありえないでしょーっ! 何よ何よ何なのよこれーっ!! なんであの女の仲間がドバーッと増えるのよーっ! 信じられない! 許せない! ウザいウザいウザい!!』


 魔王は叫ぶと、ハンマーを振り回しつつ、叫んだ。


『デーモンたち! インプたち! 出ておいで!! あの邪魔者連中を片付けるのよーっ!!』


『かしこまり!!』


 魔王の体から、真っ黒な卵みたいなものがたくさん飛び出してきた。

 全てが、デーモンとインプに変わる。


「うわーっ、な、なんだありゃー!!」


 父が叫んだ。

 他の人達も驚き、怯んだみたい。


 だけどこれって最大のチャンス。


「ありがとうみんな! お陰で勝てるから!」


 私はデーモンたちの前に飛び込みながら、叫ぶのだった。


「吸引!」

 

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一気にキャラが増えてまいりました

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