第37話 こっちの世界で決戦だ②

『あはははははは! やっぱりあったじゃない、魔力! あたしはこれで完全体に羽化できるーっ!!』


 地面から吹き出してくる光。

 それを浴びながら、高笑いする魔王なのだ。


「ちょっと待てー!」


 私はアメンボに乗って突撃だ。

 手にしたマロンシューターをガンガンぶっ放す。


 栗のイガイガは、普通に魔王に刺さった。


『いった!? なんて凶悪な武器をつかってるのよ!! 反撃だわ!!』


 彼女はハンマーを振り回し、星を生み出してガンガン私にぶつけてくる。


「アメンボ、回避回避回避ー!! えっ、間に合わない!? じゃあ吸引!!」


 キュイイイイイイインッ!!


 星をまとめて吸い込んで、カウンタースターにして打ち返す。

 だけど、魔力を浴びてパワーアップしつつある魔王には通じないみたいだ。


 カウンタースターを食らっても、ニヤリと笑う。


『あたしは強くなるわよ!! この星を食らい付くしてやる! まずは周辺を全部スイーツに変えて……』


「ダメに決まってるでしょー!!」


 私、至近距離まで近づいてマロンシューターを連射する。

 パワーアップしても、栗のイガイガは痛いらしく、魔王は本気で避ける。


『なんでよ!! あんただって化け物みたいなもんじゃない! 世界がめちゃくちゃになったほうがいやすくない!?』


「いやすくない! 私は小市民なの! あまり派手なことをしないで、このまま地味に地味にテンプレ通りの人生を送るのが夢なの!」


「えっ」


 おいトム、えっ、てなんだ。


「なんでもありませんよ!」


 絶対何かある。

 だけど、今はそれを問いただしてる状況じゃない。


 魔王が振り回すハンマーを躱しつつ、私は彼女の懐に飛び込んだ。


「おりゃあ!」


『ウグワーッ!!』


 額にチョップ炸裂!

 魔王はふらふらと、魔力がほとばしる穴に落ちていった。


「チョップ通じるんですねえ。というか、ナリさんが魔王に近い存在になってるってことでもあるんですが」


「なにそれ!? 聞いてないんだけど! でも、今は追いかけるほうが先!」


 アメンボを飛翔させて、私は魔王の後を追う。

 球場の真ん中から吹き出す魔力の奔流。


 そこは、まさしく穴だった。

 飛び込んでみたら、色とりどりの何かよくわからないものが渦巻いている。


「うおおーッ! ナリさん、流されます!」


『スイスイ~!』


「じゃあ、吸引してなんとかしちゃおう!」


 キュイイイイイイインッ!!


◯お腹の中

 万色の魔力


◯レシピ

 お望みのものを


「何でも作れるの!? じゃあ……船!」


 私のお腹が輝き出す。

 飛び出してきたのは、この渦巻く魔力を制することが出来る、可愛いサイズの帆船だった。


「帆船なんだ……? 木造っぽくも見えるし……。どこかで見たことがあるなあ」


 なんだろう。

 デジャブを感じる。

 これは……この船は……。


「あ、七福神の宝船!」


 偶然なのか、何かの意図が働いてるのか。

 よく分からないけれど、宝船は魔力の奔流を悠然と漕ぎ渡っていく。


 遠くで、流されながらどんどん大きくなっていく魔王が見える。

 チョウチンアンコウの怪物みたいになってて、その疑似餌がさっきまでの魔王だ。


『あっはっはっはっは! 完全体だわ! これであたしは完全体になれるわ! なーんだ! あるところにはあるじゃない、魔力! 何もない星だと思ったけれど、この魔力を外まで吹き出させれば、あっという間に世界中をスイーツ化させられるわーっ!!』


「とんでもないこと言ってるなあいつ」


「魔王もとんでもないことになってるのに、ナリさん動じませんね?」


「だって慌てたって仕方ないじゃん。それに、的が大きくなったんだよ? 狙わなくていいのはめっちゃ楽!」


 マロンシューターを連射すると、それはサクサクと魔王に刺さった。

 どうも、マロンシューターは相手の強さとか大きさ関係なく、非常に痛いという効果があるらしい。


『あいたーっ!? 痛い! 超痛いんだけど!? あんた、ここまで追ってきたの!? どんだけ執念深いのよーっ!!』


「ここは私の世界だから、あんたにメチャクチャにされるわけにいかないの! さっさと倒されろ!」


 マロンシューターを連射するんだけど、どうやら限界が来たようで、最後に栗を三個くらい吐き出して、シューターは消えてしまった。


「あー、使用回数限界があった」


「相手を痛がらせるだけでダメージはそんなでもなさそうでしたからね」


「じゃあ、効きそうなのを調達しながら戦わないと!」


「どうやって調達するんです? この辺りには魔力しか無いですけど……」


「魔力は何にでも出来るでしょ。でも、それ以外で攻めるなら……一旦地上に出るしかないでしょ!」


 そこへ、魔王がガバっとチョウチンアンコウな口を開いて、ビームみたいなのを吐き出してきた。

 宝船が大きくターンしながら回避する。

 背後で、地面だと思われる天井が破壊されたのが分かった。


「よーし、まずは外に出よう!」


 ぴょーんと地底から飛び出す宝船。


『お待ち! 逃さないわよ!!』


 何故か追ってくる魔王!


「なんで追ってくるわけ?」


『あんたを逃したらあたしの身が危ないって魔王の勘が告げてるのよ!』


 勘が鋭いなあ。

 私は周囲をぐるっと見回す。


 乾燥した空気。

 差し込む日差し。

 ロードサイドに揺れるヤシの木と、私たちを目を丸くして見つめる、色々な人種の人々。


 日本じゃない。

 多分アメリカだ。


「ごめんね! 車をちょっといただきまーす!!」


 私は日本語で叫ぶと、周辺に路駐された車に向かって吸引をスタートした。


 キュイイイイイイイイインッ!!


◯お腹の中

 車(車種様々)

 カリフォルニアの日差し

 ヤシの木


◯レシピ

 カーモード


「カリフォルニアだったんだなあ……。私、海外って初めて来たんだけど。というか、魔力の渦に乗ってここまでふっとばされてきたってこと?」


「ナリさん、後ろ後ろーっ!! 魔王が飛び出してきました!」


 周囲から悲鳴が聞こえる。

 地面を食い破って、巨大チョウチンアンコウになった魔王が出現したのだ。

 だけど、振り返った私も既に錬成を終えている。


 宝船が、めちゃくちゃ大きな自動車に。

 何故か私とトムとアメンボは車の真上に乗ってるんだけど。


 車が勝手に走り出す。

 そして、真っ向から魔王と激突!


『ウグワーッ!?』


 魔王が吹っ飛んだ!

 車もスクラップになった!

 使い捨てかあ……。


 車の持ち主の人、ごめんね……!!


 私は謝りつつ、吹っ飛んでいく魔王を追いかけるのだった。

 =================

魔力の穴を通ることで、世界中のどこにでも出られるわけであります


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る