第36話 こっちの世界で決戦だ①

 須方マイトというのが彼の名前で、私とそこそこ付き合いが長い男だ。

 いわゆる幼なじみに当たるのだけれど、中学の時に彼から告白してきて、高校になってから彼から振ってきた。


 後は御存知の通り、やけ食いからの異世界転生だったわけ。

 ええい、全ての元凶めー。


「マイト、この女が雑だったって言う元カノ? ……なんで空から降りてきたの……?」


「そんなことどうでもいいでしょ」


「よくなくない!?」


 マイトの今カノはあんまり重要じゃない事を言っているのでスルーした。

 私が今やることは一つ。


「ツアーッ!」


「ウグワーッ!!」


 マイトの額に脳天唐竹割りを打ち込んだ。

 頭を押さえてガックリ崩れ落ちるマイト。


「な、何を……」


「この世界に混乱をもたらした原因を誅したんだけど。時間がないから、今はこれで許してあげる」


「ちょっと! 何すんのよ暴力女!」


「ツアーッ!!」


「ウグワーッ!!」


 私の唐竹割りは相手を選ばないよ!!

 今カノは頭を押さえて倒れ込み、のたうち回った。

 言葉の暴力には物理の暴力で返す!!


 私はこれで、中学の頃に敵対していた女子グループを壊滅させたことがある。

 一人ひとり、順番に倒していけばいいだけなのだ。

 母からはよく、「ナリちゃんは男の子だったら捕まってたわねえ」とか言われたものだ。人聞きが悪い。


「さすがナリさん! 込み入った状況になりそうなのを雑に解決しましたね!」


「雑とか言わない!」


『スイスイ』


「あ、そうだった! アメンボの言う通り、魔王を追っかけなくちゃ!」


 私は再び、アメンボを飛翔させる。


「ま……待ってくれ!」


 立ち上がったマイト。

 額が赤くなってるくらいなので、さすがは男の子、打たれ強い。

 女子なら衝撃で十分は立ち上がれないのに。


「何よ」


「ナリ、一体君は何をしてるんだ……!? 俺は君が死んだって聞いたし、自分のせいじゃないかって自分を責めてた。だけど、そんな君がいきなり空から来て、それに魔王って……。周りもみんな大混乱だし、ビルは次々ケーキになるし、俺が元凶ってどういう」


「全部後で説明したげる。今は時間無いからね。あと、責任感じなくてよし! 禊は今のチョップで終わり! 以上!」


 私はアメンボを飛ばせる。


「ナ、ナリー!!」


「元彼さん! ナリさんは偉大なる使命があるのです! 自ら縁を切ったのならば関わらない方がいいですよ! しっしっ!!」


 私のフードに飛び乗ったトムが、ヒトデボディを動かして蠢いている。

 見えないけど、後頭部にヒトデアームがペチペチ当たるもんね。

 これは煽ってるのかな……?


 ケミストリ、トムになるとこう言う状況では野蛮になるからなあ。


 こうして、突然の再会は潜り抜けた。

 そっかそっか。

 私は死んだことになってるから、ああやって再会すると凄いショックを与えてしまうわけだ。


 異世界転生から戻ってきたらこうなるのね。

 気を取り直して、魔王追跡!


 マイトと再会したのが四ツ谷駅の辺りだから、魔王が向かったのはあっちで……。

 なんか球場とかある方向じゃない。


 すぐに見えてきた、外国の来賓を出迎える施設がまるごとケーキになっていた。

 中にたくさん人が閉じ込められているようで、「ウグワー! クリームが垂れてきた!」「ウグワーッ! スポンジに挟まれてウグワーッ!!」とか聞こえてくる。


「仕方ないなあ! 近づいて……吸引!!」


 キュイイイイイイインッ!!


 パワーアップした私は、吸引する範囲を多少限定できるようになった!

 施設の上半分を吸引したら、そこから閉じ込められていた人たちが飛び出してきたじゃないか。


「た、助かった!」


「ウワーッ! 施設が半分の大きさに!!」


 そこは後で立て直してほしい。


◯お腹の中

 ジャイアントモンブラン


◯レシピ

 マロンシューター


 おっと、新しい錬成のレシピが!


「錬成!」


 飛び出してきたのは、大きな銃の形をしたアイテムだ。

 後ろに袋がついている。


 そっか、さっきの施設がまるごとモンブランになっていたから、材料の栗が詰まった袋が生まれたのか。

 しかも明らかにイガイガが付いてるぞ。


『魔王様の邪魔はさせん! ケケーッ!』


 襲いかかるデーモン!


「マロンシューター!」


 イガイガを発射だ!

 すると、棘付きの栗がデーモンの頭にサクッと刺さり、『ウグワーッ!?』と撃ち落とした。


「ナリさん、これはどうやら、魔王の力を吸引してパワーアップできる武器を作れるようになったみたいですよ!」


「あ、そっか、今までは吸ったものをそのまま、別のものにして吐き出すだけだったもんね」


「はい! これはつまり、ナリさんが魔王の力を自分のものとして再利用できるようになったということなんです! まさにパワーアップですよ!」


 現実世界に戻ってきてから、私はどんどん強くなっているかもしれない。

 まあ、日常生活では使わなそうなパワーアップなんだけど。


『スイスイ!』


「どうしたのアメンボ? えっ、魔王がもうなんかヤバそうなことしてる!?」


 目を向けると、球場がある辺りで、地面が扉のように開いていくところだった。

 そこから溢れ出す、色の付いた空気みたいなもの。

 あれが魔力だったり?


「やばーい!!」


 やらせるわけにはいかないのだ!

 私、全速力で魔王に突進だ!

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だいたい千代田区、新宿区から港区あたりで戦ってますね!

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