第35話 そこは現実世界⑤

「吸引!」

 キュイイイイイインッ!!


『ウグワーッ!?』『我らが!?』『吸い込まれるう!!』


 パワーアップした私は、デーモン軍団だって吸引してしまえるのだ。


◯お腹の中

 デーモン軍団


◯レシピ

 デーモンミサイル群


「よーし、錬成!! デーモンミサイル!」


 真っ黒なミサイルがたくさん生まれ、魔王めがけて放たれる。


『な、何よそれーっ!!』


 魔王は悲鳴をあげながら、ハンマーを振り回した。

 デーモンミサイルを次々に粉砕していく。

 さすが、腐っても魔王。簡単にはいかないかあ。


『デーモンまで吸い込むとか、とんでもないわね! もったいなくて使えなくなったじゃない!』


 魔王は毒づくと、私に背を向けてビューンと飛び出した。


『あんたなんかとまともにやってるのがバカみたいじゃない! あたしはあたしで、魔力のにおいがするところを探してやるわよ! じゃあね!』


「じゃあねじゃなーい!!」


 猛烈な勢いで逃げ出す魔王、思い切りが良すぎでしょ!

 全力での逃走だから、速い速い!


 ええと、都内で魔力がありそうなところ……。

 もしかして、あそこかな?

 周りのビルや建物から、ここがどの辺りなのかを見当つける。


 魔王が向かってるのは、どうやら都内のど真ん中にある偉い人が住んでいる庭園みたいなところらしい。

 たぬきもたくさん生息しているんだって。


「ダメでしょそこは!」


 邪魔するインプをキュイイイイイインッ!と吸い込んで、魔王めがけて「インプミサイル!!」


『ウグワーッ!? お、おのれー! あたしの魔力が十分にあればこんな攻撃ー!!』


 ひゅるひゅる落ちていく魔王。

 ドーム状になった球場の屋根に、落下してボイーンと跳ねた。


 よーし、決戦だ、と私もアメンボを降下させる。


「ナリさん! 魔王がハンマーを振り回した時に星が生まれます! あれを吸引するんです!」


「なるほど、そういえば!」


『降りてきな! うりゃあ!!』


 魔王は大きなハンマーを振り回し、ドーム球場をぶん殴る。

 そうすると、たくさんの星が飛び出してきた。


 これは比喩的な描写ではなく、本当に質量のある固い星なので当たるとまずい。

 だけど、私にとっては武器にもなるわけだ。


 アメンボをホバリングさせながら、思いっきり吸い込む。

 キュイイイイイイインッ!!


◯お腹の中

 魔王のお星さま


◯レシピ

 カウンタースター


「錬成! カウンタースター!」


 お腹から飛び出すのは、猛烈な勢いの星。

 それが魔王に直撃し、ふっとばした。


『ウグワーッ!! 小癪な真似を~!!』


 魔王は吹っ飛びながら、めちゃくちゃにハンマーを振り回す。

 どうやら、お菓子化する魔力が込められた攻撃で、ドーム球場が巨大なメロンパンになってしまった。


 球場の中から、「ウグワー!」と声が聞こえる。

 メロンパンに閉じ込められた人たちが!


 ほんと、なんて迷惑な能力なんだろうか。

 魔王追跡は一旦ストップ!


 私は魔王が他に生み出した星を吸い込んで……。


「カウンタースター!」


 メロンパンに打ち込んだ。

 ビスケット生地が破裂して、下まで通じる穴になる。


「みんな、メロンパンの中を登ってきて! ビスケット生地はちょっとべたべたするから登りやすくなってるよ!」


 声を掛けたら、魔王追跡再開だ。


「ナリさんは雑ですが慈愛の人ですねえ」


「人に優しくするのは気分いいじゃん」


 アメンボマシーンでまた飛び始める。

 おっと、駅の方がわいわい騒がしくなってきた。

 魔王と戦うために集まった草野球チームが到着したかな?


 そもそも、草野球チームに何ができるんだろうって話なんだけど……。


 魔王は逃げながら、次々にインプを作り出しているみたい。

 よーし、偉い人が住んでる庭園みたいなところは諦めたか。


 私の追跡を鬱陶しがっている魔王は、星をばらまきながら飛んでいる。

 これ、全部が凶器みたいなもんだからね!


 どうやら材質は金平糖みたいなものみたい。

 食べられることは食べられるけど、このサイズの砂糖菓子にぶつかったら、痛いところじゃないでしょ。


 私はこれを吸引して……。

 カウンタースター以外のレシピ、求む!


◯レシピ

 金平糖


「よし! これくらい小さければ当たってもあんま痛くないでしょ!! 錬成錬成!!」


「小さくするだけですね、実質」


「いいじゃない。そんなの構ってられないって! 錬成錬成!」


 猛烈な勢いで、吸引と錬成を繰り返し、空から金平糖を大量にばらまきながら飛んでいく。

 地上からは、「いてっ!」「ウグワーッ! 滑るーっ!」キキーッ! ガシャーン!とか音がする。

 賑やかだなあ。


「小さい砂糖菓子、これはこれで危険なのでは」


「一番命の危険が少ないじゃない。あとはみんなに頑張ってもらうしか無い……! 私は魔王を追いかけて、ものっすごい迷惑が世界に掛かるのを防がなくちゃなの」


「それは確かにそうですね! 大事の前の小事! 英雄は細かいことにこだわらないものです! ゴーゴーゴーゴーゴー!」


 魔王を前にして野蛮モードのトムだ!

 これ、ケミストリはどういうテンションなの?


『スイスーイ!』


 おっと、アメンボから警戒音が!

 なんと、カップルが、落下してくる巨大な星に押しつぶされそうに……!


「あー、もう!! 相手の手数が多すぎるー!!」


 私はぶーたれながら、カップルを助けるために飛んだ。

 カップルなんかを助けるために!


「うーわー! たすけてー!!」


 ん?

 この間の抜けた声、どっかで聞いたことが……。


「吸引!! 錬成!」


 吸い込んだ星を、金平糖の雨に錬成した。

 バラバラと降り注ぐそれを受けて、カップルの男のほうが「ウグワーッ」と叫んだ。


 そして頭上を振り仰ぎ、私と目が合う。


「えっ……ナリ……!?」


「げっ」


 なんと、そこにいたのは……私を振ったあいつだったのだ。


 =================

転生する原因登場です 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る