第34話 そこは現実世界④

 私とケミストリはアメンボマシーンで。

 両親は電車で移動することになった。


 普通に両親がついてくるんだよなあ。

 しかも、父の草野球仲間が途中から合流する予定。

 魔王相手に何をするつもりなんだ。


 私も友達に連絡をして、生存報告とかをしておきたいと思ったんだけれども……。


「どうやら私が死んじゃったから、スマホが解約されてるみたい。SNS見ない生活にも慣れたけど、あれが無いと誰とも連絡取れないんだよねえ……」


『こちらの世界も色々大変なんだなあ。連絡など、たまに出す手紙くらいでいいだろうに』


「文明的にはそっちの方が進んでるんだろうけど、行くところまで行ってリビングドールたちは牧歌的な暮らししてるじゃない? 私たちは今まさに、情報化社会の真っ只中にいるわけ」


 お出かけしたら、出先で動画を撮って投稿したりしないとなのだ。

 あるいはご飯やスイーツを撮影して、デコって投稿だ。


 私の世代は忙しいのだ。


『スイスイ』


 私たちを乗せて飛ぶアメンボは、理解できないという様子だ。

 彼の感覚も、アルケイディアのものなんだと思う。


 あっちは不便だけど、そこは楽だったなあ……。


『ナリさんの感じてる楽はあれだからね? あの雑な感じでは普通は生きられないからね……?』


 ケミストリは何を諭すみたいに言ってるんだ。

 私は繊細な生き方をしている……とはいえないけど、まあまあ自分なりに丁寧に生きてるつもりなんだけど。


 解せぬ、と思いながら飛ぶうちに、倒壊したイチゴショートケーキビルに到着した。

 下でたくさんの人が、わいわい騒いでいる報道ヘリがすぐ横にいた。


「ヘリだねー」


『この世界は普通に飛ぶ機械があるんだなあ。そうか、コロニー内じゃないから高度の制限が無いんだ』


「アルケイディアはそこまで空が高くないもんね」


『ああ。大体、居住区画の直径が300mでね……』


 空中で談笑する私たちを、ヘリに乗ったスタッフがポカーンとして見つめているのだ。

 手を振っておいた。


 レポーターとカメラはずっとショートケーキビルを映していて、空飛ぶ女子高生など撮影する余裕がないみたいだ。

 好都合。

 私たちは、適当な感じでカメラの前を横切っていった。


「えっ!?」


「えっ!?」


 ヘリから声が聞こえる。

 気にしないでいいからね。


『ナリさん、向こうもこちらの接近に気づいたようだ。迎撃に出てくるよ』


「ケミストリは何かできる?」


『僕がこの世界でやれるのは、ナリさんの能力の強化くらいじゃないかな。だけど、そのためには姿を変えないと……ふんっ』


 ポンッと音がして、後ろに掴まっていたケミストリの気配が無くなった。

 そして、ヒトデ型のぬいぐるみがポテポテと私の前まで走ってくる。

 ピョンと飛び上がり、私の胸元に収まった。


「おっ! トム形態!」


「なんだかこっちの姿の方が落ち着くようになってきましたね!」


 力を取り戻したケミストリがトムに戻ったわけで、それが私にくっついたら、なんだか力が溢れてくるような気がする。

 これならインプが幾ら来ても怖くないぞ!


「うおらー!! 近づくなー!」


「これから魔王様がケーキバイキングをなされるんだぞー!!」


 インプたちがとんでもないこと言ってる!!


「ちょっとー! ケーキになったから自重を支えられなくて崩れてるじゃん!」


「じじゅう……?」


「むずかしいことを言うやつだ! やっつけろ!!」


 うおーっと襲いかかるインプたち。

 ええい、とりあえず吸引だ!


 キュイイイイイイイインッ!!


「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」


 こっちに来たインプは吸い込んだ!

 そして、報道ヘリに襲いかかって、グラグラ揺らしてきているインプめがけて……。


「インプミサイル!」


 インプを錬成したミサイルをお腹からぶっ放した。

 ヘリの間近でミサイルが炸裂して、インプたちが「ウグワーッ!」とふっ飛ばされる。

 ヘリもグラグラ揺れた。


「こっちは危ないから! あんまり近づかないほうがいいよ!」


 私は間近で一声掛けて、それからケーキに向かって突き進んだ。

 あっ、私が見ている先で、立ち並ぶビル群が次々ケーキになっていく……!


 今度はチョコレートケーキで、固いチョコでコーティングされているお陰で崩れなかったようだ。

 だけど、太陽の熱でチョコが融けてきたら大変なことになりそうな……。


「いや、待てよ。っていうことは、近くに魔王がいるんじゃ……」


 そう思った矢先、チョコケーキビルから飛び立つ魔王。


『この世界の建物、お菓子にしても不味くて食べられたものじゃないわね! ほんとふざけてるわ!!』


 めちゃくちゃ勝手なこと言ってる!


「こら、待て魔王!!」


『げっ!! あんたどうやってあたしを見つけたのよ!? ウザいわー!! デーモン!!』


 魔王が叫んで、何かを放り投げた。

 それは、チョコレートの卵みたいなものだ。

 たくさんの卵が、一瞬でむくむくと大きくなり、デーモンに変わった。


 こうやって生み出してたのかー!


『この世界って殺風景じゃない? 魔力が少なくてイマイチ力を発揮できないけど、せめてあたしは、世界を美味しいスイーツで満たしてあげたいって思うわけよ。あ、魔力が封じられてるっぽいとこは見つけたわ』


「まずいですよ!! そこが解放されたら、魔王が完全体になります!!」


『マジ!? じゃあ解放するしかないじゃない!』


「トムー! このアホー!」


「ウグワー! 上から押しつぶさないで下さい!」


 トムがとんでもないヒントを魔王に与えてしまった!

 いや、時間の問題だった気もするけどね。


 そもそも、魔王をこっちに連れてきたのがトム……もといケミストリだったし!

 なんでこっちに連れてきたし。


 ま、私も戻ってこれたし両親も喜んでたし、結果オーライか!


「よっしゃー! じゃあ、結果オーライにするために、一気にやるよ!」


 向かってくるデーモン軍団を相手に、私は吸引の構えをするのだった。


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もうクライマックスが見えてきてしまったぞ。

早い早い、まだ十万文字行ってない

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