第33話 そこは現実世界③

 一触即発……!!

 と思ったらそうでもなかった。


 母が二人の間に割って入り、「まあまあ。ナリももう子どもじゃないんだから。あ、高校生はまだ子どもか」「やっぱり子どもじゃないか! 子どもをたぶらかすとは不届きな男め!」『たぶらかしてはいません。誠心誠意説得をしてですね』「詐欺じゃないか」


 仲裁してくれると思ったら火に油を注いでるじゃん!!

 ここに今度は、アメンボマシーンが『スイスイ』と割って入ったのだった。


「うわーっ、ロ、ロボット!!」


 両親が驚いて腰を抜かしたので、騒ぎは収まった。

 一番人間ができているのがアメンボとは……。


 その後、我が家で久しぶりの夕食をとりながら、ケミストリが両親に話をすることになった。


『僕は異世界の神なんですが』


「いきなりそんな突拍子も無いことを!」


『証拠をお見せしよう。ただ、こちらの世界には魔力が薄い。手品みたいな芸当しか見せられませんがね。ほいっ』


 父の寂しくなってきていた頭に、フサっと毛が生えた。


「あっ!!」


 母が仰天する。

 私が戻ってきた時くらい驚いてる。


「お、お、お父さん!」


「なんだね母さん」


「生えてる! 生えてる!!」


「えっ!!」


 父は真顔になると、立ち上がって洗面所まで走っていった。

 そして、「ウワーッ」という歓喜の叫びが聞こえてくる。


「ケミストリ、あれどうなってるの?」


『髪の毛そのものは今は作り物だけどね。毛根を刺激して育毛効果を発揮するようにした。僕の今の権能ではこれが限界だ』


「その力、こっちの世界で十分食べていけるよ……!」


 ちなみに、これはまだケミストリが、アルケイディアと繋がっており、そちらから引き出した力を用いているのだそうだ。

 アルケイディアには、今は使われなくなった人間のための技術が幾つも眠っているのだとか。


「ケミストリって、あっちの世界だと一番人間っぽいよね。トムのふりしてついてきてたのはいいけど、なんで力を使わないで毎回ピンチになってたの?」


『使えなかったんだよ。君を転生させるので力を使い切ったんだ。力の源であるエネルギーラインを封じられ、僕は力を失ってヒトデになっていたんだ』


「じゃあ、ケミストリってそもそもなんなの? スペースコロニーに神様っておかしくない?」


『コロニー・アルケイディアを管理するセントラルシステム、その生体端末が僕だ。故に、人間の姿を模して作られている。コロニー内に限って言えば、神といっていい権能を振るえるのさ』


 なるほどー。

 色々教えてくれた。

 謎はこれで全部解けたんじゃないか。


 あとは、魔王がどこかで動き出して、尻尾を出すのを待つばかり。

 父は髪の毛を生やしてもらったことで、一気に態度が軟化した。


「高校を卒業するまでは手出しはいかんが、清い交際は認めよう……」


 謎ルールだ!


「ちゃんと避妊するのよ」


「お母さんは話が飛躍しすぎなんだけど!!」


 なお、アメンボマシーンは居間の奥に鎮座して、テレビなど見ているのだった。

 我が家は都会の一軒家で、庭を作れるほどの土地がない。

 アメンボも中に入れるしか無いわけだ。


 車庫でもいいんだけどね。

 人格がありそうなアメンボなので、両親も家の中に上げたみたい。

 二人とも虫が大丈夫な人なので、「ペットができたみたいね」「犬猫と違って毛が飛び散らなくていいな」なんて言っているのだ。


 そんなアメンボが、テレビ番組の中に何かを見つけたようだった。


『スイスイ!』


 寄ってきて、口吻で私の肩を突付く。


「なあに」


『スイー』


 何があるらしい。

 振り返ってテレビを見れば、そこにはどでかいいちごのショートケーキになったビルディングの姿が。


「うわーっ、魔王じゃん!」


『もう動き出したか! こんな魔力が少ない場所でよくやる……。いや、もしかして、魔力は特定の場所に封印されているのか?』


 ケミストリが変なことをいい出した。


「どういうこと?」


『ナリさん、君の世界は異常なくらい魔力が少ないんだ。本来、魔力がなければ生命も発生しないし、知性も生まれない。だが、この世界は高度に発達している。それはつまり、かつて魔力が世界に満ちていたことを現している』


 立ち上がるケミストリ。


『食事をありがとう。人間が作った食べ物なんて、本当に久しぶりだった。僕は行かねばならない』


「おお……もう行くのか」


 なんか父が、名残惜しそうなんだけど。

 髪の毛の恩義は深いなあ。


「じゃ、私も行かなくちゃだよね」


「えっ、行くのか!?」


 今度は父親の目がつり上がった。


「いかんぞ。行くならそっちの男一人で行くといい」


「髪の毛の恩義、そこまではなかったかあ」


『世界が滅びてしまうので、ナリさんの力を借りないといけないんだ。分かってほしい!』


「分かっていても自分の娘を危険そうなところに送り出す親がどこにいる!」


 正論である。

 私はぐうの音も出なくなった。

 一回、やけ食いで死んでめちゃくちゃ悲しませてるからなあ……。


『むむむ……では、ご両親も一緒に来るというのは』


 とんでもない妥協案出してきたなあ!

 だけど、これは父の中ではアリだったらしい。


「世界の平和と娘の両方を取れる……分かった! 行こう! よく分からないが、何かビルをケーキに変えるようなのが相手なのか? 俺の草野球チームの仲間にも声を掛けておく」


「なんか明後日の方向に話が大きくなってきたぞ!」


『いや、悪くないやり方かもしれない。魔王が勢力を増すならこちらも勢力を増やして対抗するんだ』


 その増やした勢力が、父の草野球仲間なのか!


 テレビの中では、ケーキのビルが倒れ、お隣の建物がクリームまみれになっているところだった。

 阿鼻叫喚である。


 世界が混乱の中に叩き込まれそう。

 一刻の猶予も無いんだけど……。


 なんだろうなあ、この緊張感のなさは。


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次々に集うドリームチームが魔王を迎え撃つぞ!


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