第31話 そこは現実世界①

 全ての遺跡を解放したから、世界が元の姿に戻っていく。

 魔王がやったことは、綺麗さっぱりなくなるわけだ。


 こうなったら、魔王はどうする?

 また世界を変えるのか、それとも……。


『うおーっ!!』


『魔王様ーっ! お待ちくださーい!』


 なんか凄い勢いで空を通過していった!

 大きなハンマーをぶら下げた魔王と、デーモンたちだ。


 私には気付かず、ぶーんと向こうへ飛んでいく。

 あれは、世界が元通りになってしまった事に怒ってるんだな。


「魔王はやっぱりやっつけないとダメなわけね」


「そうなりますね! 頑張ってくださいナリさん!!」


「他人事ー!」


「僕は無理なので」


『スイスイ』


 男子チームは私に頼り切りか!

 仕方ないなあ。


「ま、さっきも言った通り勝ったようなもんだからね! じゃあ魔王をやっつけに行こうか!」


「おー!」


『スイスイー!』


 アメンボマシーンにまたがり、空を飛んで魔王を追いかけることにするのだ。

 問題は、魔王にくっついてくるデーモンかな。

 あいつらは吸引できないから、どうにかしてやっつけないと。


 考えながら飛んでいたけど、なかなか追いつかない。

 アメンボマシーンが飛ぶ速度と、魔王が飛ぶ速度が同じくらいだからみたいだ。


 私、ちょっと考える。


「これ……コロニーはドーナツ型をしてるんだよね? だったら……アメンボ、ターン!」


『スイスイ!』


「うおーっ、ナリさん、何を考えてーっ」


「この世界がドーナツ型なら、逆方向に飛んでいけばいつかは会うわけじゃない!」


「あ、なるほど!!」


 トムも納得した。

 少しばかりぶいーんと飛んだら、すぐ向こうから魔王が来た。


「いたな!」


『いたなあ!!』


 空中で急ブレーキを掛ける、私と魔王。

 トムが吹っ飛んでいきかけて「ウグワーッ!?」と叫んだ。

 掴んで胸元に押し込む。


「むぎゅう」


「あんたで最後だからね、魔王!」


『やっぱりお前の仕業だったのね!! あたしがせっかく作ったスイーツな世界を! ニセモノの世界だけど、まあまあ気に入ってたのに!!』


「そりゃあ、私はこの世界を戻すために来たんだし? 仕事をしただけだし」


『ムカつく女ー! でーもんたち、やっておしまい!!』


『御意!』


 ぶんぶん飛んでくるデーモンたち。

 だけど、空をとぶのが得意じゃないらしく、そんなに早くない。

 私は彼らが手にしているハンマーとか槍とかを、すれ違いざまに吸引する。


 キュイイイイイイインッ!!


◯お腹の中

 デーモンハンマー

 デーモンソード

 デーモンスピア


◯レシピ

 デーモンのお星さま


「錬成、デーモンのお星さま!」


 なんかよく分からないものが生まれた!

 真っ黒い星型の巨大なカタマリだ。

 それは出現と同時にぶっ飛び、デーモンたちを巻き込んでどこまで突き進んでいった。


『ウグワーッ!!』


 デーモンたちの断末魔が聞こえて、遠くでどかーんと爆発したみたいだった。


『何それ!? おのれ! 意味わかんないことして!!』


 憤慨する魔王。

 彼女は周りを見回してから、ニヤリと笑った。


『だったらやけくそだわ。この世界ごとお菓子に変えて、あたしが粉々に割ってやる!! 全力で行くわよ!』


「えっ、やけくそは良くない」


『うるさいうるさい! お前が言うな!』


「それはそう」


『きいーっ!! 死ねえ! あたしごと死ねえ!』


「やけくそは良くない!」


 地面に向かって突撃する魔王。

 でっかいハンマーを振り上げ、それがギラギラと光りだす。


 やばいやばい。

 あれって、この世界ごとビスケットやクッキーにしちゃうような力が込められてるんじゃない!?


 私は思いっきり、それこそコロニーの地面ごと行くつもりで吸引する。


 大地が剥がれて、バリバリ音を立てて私に吸い込まれる。

 むき出しになるのは、世界の底を走るエネルギーのライン。


 私に向かって吹き上がってくる瓦礫を、魔王は力任せにはねのけながら、エネルギーラインにハンマーを向ける──!


 ということろで、『それは大変困るな。コロニー・アルケイディアはようやく、元の軌道を取り戻したのだから』


 聞き覚えのある落ち着いた感じの男の声が、私の胸元から聞こえた。

 トムを入れていたはずのところから、ビューンっと光が飛んでいき、魔王の目の前で実体化する。

 現れたのは、見覚えのある男性。


 彼は、私をこの世界に呼出した神様、ケミストリ。

 あれ?

 トム? トムがケミストリ!?


 突然空中に出現した彼は、魔王のハンマーを辺りの瓦礫を掴んでどうにか防御すると、『ウグワーッ』あっ、ふっ飛ばされた。

 腕力だと魔王に勝てないっぽい。


 あれはやっぱりトムだわ。


 だけど、彼も神様。

 勢いをつけて、跳ね起きた。

 かなり運動できるっぽい。


 トム……もとい、ケミストリは、チッチッチ、と指を揺らして格好をつけた。


『は!? 何よあんた!』

 

 空から見下ろす魔王。

 彼女に向かって、ケミストリが応じる。


『我が名はケミストリ。コロニー・アルケイディアを管理するメインコンピューターだ。僕が召喚した彼女、ナリさんは本当に素晴らしい働きをしてくれた。これで世界は救われた。あとは魔王、君をどうにかするだけなんだ』


 そう告げたケミストリの周りが、ぐにゃりと歪み始める。

 なんだなんだ。


 歪みがぐんぐん広がり、私と魔王とアメンボを巻き込んで……。


『こんな時のために、アルケイディアの力を蓄えていた! 魔王、君を異世界へと追放する! まあ、問題は僕やナリさんを隔離するほど力が溜まってなかったことで……』


 次の瞬間、パッと視界が切り替わった。

 そこは、見覚えのある場所。


 空中に現れたらしい、私たち。

 眼下に広がるのは街並み。

 ビルがあって、道路があって、お店があって、人がたくさん歩いていて。


「地球じゃん!!」


『地球だね! 君の暮らしていた世界だよ、ナリさん!』


 ケミストリ、もといトムは、腕組みして落下しながらそう告げるのだった。


 ちょいちょいちょい!

 落ちてる落ちてる!!


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舞台が切り替わり、現実世界へ!

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