第30話 魔王のお菓子工場③

「あの戻し方はあんまりでは?」


 トムから耳が痛くなりそうなご批判をちょうだいしたので、私は聞かなかったふりをした。

 そうしたら、目の前で積み上がった機械がガラガラガッシャーンと倒壊する。


「あーあ」


「何があーあよ。吸い込んだら一緒でしょ。ほら、他に吸引できるもの探さなくちゃ!」


「ナリさんは雑だけど、なんだかんだ常に前向きですよねえ」


「そうだよ。あのバカに振られたときだって、やけ食いしてから気分切り替えて明るく暮らそうとしてたんだから」


 私のモットーは、私の前に道ができる、私の後の道は消える、なのだ。後退なんてありえない!

 それが、やけ食いが縁でこんな能力を得て、スペースコロニーで魔王退治をしてるとは……。

 人生わからないものだなあ。


 そう言えばあのバカ、君は常に前進し続けてて付き合ってると疲れる、とか言っていたような。

 ええい、体力が足りないんじゃないか。


 私は思い出し怒りでプリプリしながら、大股で工場の中を歩き回った。

 冷静じゃないので何も見つからない。


 クール担当は、トムとアメンボがやってくれていた。


「頭を使う場面ではナリさんはあてにならないので、僕らで頑張ろう」


『スイスイ』


 ひどいことを言ってる!

 間違ってない気がするけど。


 結局何も探せなかった私、これは脳に糖分が足りていないのだと思いいたり、炉に腰掛けてブッシュドノエルをちぎり取った。

 うわっ、チョコの層が分厚い!


「たすけてくれえー」


「チョコが……チョコが……!」


 インプたちのうめき声が聞こえるなあ。

 私は、彼らをどうしたもんかなーと思いつつ、ブッシュドノエルの欠片を食べた。


 おお、甘い!

 この世界のエネルギーを変換したスイーツは美味しいなあ!

 まさしく禁断の味だ。


 そして脳内に糖分が巡ってきて、私の脳細胞が活性化してきた……ような気がする。


「よし、みんな! 私もこれから探すよー! 任せて!」


「ありました!」


『スイスイ!』


 出鼻をくじかれたぁ……。

 ちょっとしょんぼりしながら私が向かうと、トムがヒトデヘッドに丸い端末みたいなものを載せていた。


「なあに、これ」


「ナリさんがブッシュドノエルをぶっ放した時に、炉を管理していたコンピューターみたいなのが弾け飛んで転がったみたいですね」


「あー。なんか飛んだ気がしてた……ような気がする」


「やはり」


 やはり、じゃなーい。

 ブッシュドノエル、ちょっと豪快すぎたな……。


 行動に移る前に、少し考えた方がいい……?


『スイスイ』


 アメンボが私の肩をポンポンした。

 慰められてる……!


「ま、いいか! 結果オーライだよね。じゃあ、やろうかな! 二人ともどいててー。そうじゃないと、ブッシュドノエルに巻き込まれて奇怪なオブジェになったインプたちみたいになっちゃう」


「ワードセンスぅ!」


 トムがトテトテと走って私の股の間に移動した。

 アメンボはブーンと飛び、頭上を飛び越えていく。


「よし、吸引!」


 瓦礫の山と端末を並べて、一気に吸い込む……!!


◯お腹の中

 ベルトコンベアー×3

 トング×4

 プレス機×3

 管理端末


◯レシピ

 エネルギー調整弁


「不思議なのが出たなあ……。まあいいや、錬成!」


 光り輝くお腹から、飛び出してくる大型の機械。

 それはまるで、炉にすっぽり納めるためみたいなサイズをしていた。


 間に合せのブッシュドノエルはどうしよう?


「よし、炉の中に押し込んじゃおう」


「力任せな解決方法! 僕もそれでいいとは思いますがー」


『スイスイ』


 三人で、ブッシュドノエルの上に登り、ぎゅうぎゅうと炉の中に押し込んだ。

 インプたちがわあわあ言いながら炉に沈んでいった。


「なかなか恐ろしい光景ですねえ」


「そうだね……。悪いことはするもんじゃないよね」


「これを悪いことだと認識しておられない……? あ、インプだからセーフですよね」


『スイスイ』


 良心なんか感じてたら、世界は救えないのだ。

 そして、スッキリした炉にこの調整弁を押し込む。


 すごく大きいけど、下にコロがついているので、押すと動く。

 これを三人で押して炉まで持っていき……。


「そーれ!」


 最後のひと押し。

 調整弁が炉にすっぽりとはまり込んだ。


 そうすると……。

 お菓子でできた工場が、一瞬でばらばらになった。

 降り注ぐ、ビスケットとウェハース。


 あっという間に工場はなくなり、この周りにあったお菓子も普通の自然環境に変わってしまった。


 ここってもしかすると……。

 魔王が支配できたエネルギーラインの遺跡だったんじゃないだろうか。


 空を、ゆっくりと太陽二つが交差していく。

 強く銀色に光る太陽と、強い赤の輝きを放つ太陽だ。


「太陽も取り戻したし、ガラスの海も取り戻したし、これでエネルギーラインを自由に使えないようにしたわけでしょ? もう勝利では?」


「やりましたね……!! なんかもう、僕は感無量ですよ! 何度ダメかと思ったことか。何度、吸い込まれて一巻の終わりだと思ったことか」


「マイナスの印象に結構私が関わってない?」


『スイスイ』


 この工場跡から、少しずつ世界の姿が変わっていくのが分かる。

 お菓子が消え、自然環境になっていく。


 これ、コロニーにあった植物が、人間が消えたことで広がっていったものなんじゃないだろうか。

 よく見ると、朽ち果てたコンクリートとか、岸壁だと思ったらビルだったりとか。

 文明圏だった跡が見えるもの。


 そこは、街だった。

 だけど、緑に覆われていて、間違いなく自然環境だった。


「これは……勝ったな」


 私はやり遂げた感に浸りながら呟くのだった。


 =================

世界を取り戻したのだった。

あとは魔王だけ……なのか?

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