第29話 魔王のお菓子工場②

 作戦会議だ。


「どうしたらいいかな?」


「ナリさん、いきなり丸投げして来ましたね」


『スイスイ』


 アメンボはスイスイしか言えないから、マスコット枠として……。

 私が相談できるのは、苦楽をともにしてきた相棒、トムだけなのだ!


「トム、何かいいアイデア出してよー」


「ナリさんは考えるの苦手系ですか! ええと……。ナリさんは吸い込んで錬成しますけど、範囲は結構大雑把ですよね」


「うん。近場にあるもの全部吸うね」


「ということは、ベルトコンベアーの上にエネルギーが載っていると、それを吸い込むから洋菓子が生まれてしまうわけです」


「ふんふん」


 原理はよく分からないけれど、必要な機材とエネルギーを一緒に吸い込むから、魔王の侵略アイテムである洋菓子になってしまう。

 これはよく分かる。

 あれ? つまり私の力って魔王と同源だったりするのでは?


 ま、いっか。


「今、ナリさんの中で葛藤が生まれて、一瞬で消え去った気がしますよ! そういうところですよ」


「細かい人だなあ」


「でもそれくらい図太いから魔王と戦うために呼ばれたのかも知れないですね」


「乙女に図太い言うな」


『スイスイ』


「話は戻りますけど、一緒に吸い込んだら魔王のようなことになってしまう。それならば、一緒に吸い込まないようにしたらいいんじゃないでしょうか」


「一緒に吸い込まない……? どうやって……?」


「ほら、エネルギーは中心の炉から汲み出されているでしょう」


 エネルギー炉みたいなのが工場の真ん中にあり、それは間違いなく、地下を流れるエネルギーラインに直結している。

 汲み出されたエネルギーを、どうしてトングでつまめるのかは謎だけど。


「あれを塞ぐんです」


「塞ぐ!? 結構な大きさだよ、あれ! あんなのを塞げるほどのもの、どうやって作る……」


 私はさっきのお腹の中身、そしてレシピを思い返した。


◯お腹の中

 インプ×3

 ベルトコンベアー

 トング×2

 プレス機

 エネルギー


◯錬成

 大型ケーキ


 大型ケーキ……。

 どれくらい大型?

 常識レベルくらい?


 いやいや。

 かなり大きな機械をまとめて吸い込んだんだよ?

 絶対、バカみたいな大きさのケーキが出てくる。


「行けそう。やろうか」


「見切り発車!! でも、そのスピード感がナリさんです! あまりに決断と実行が早すぎて、魔王がついてこれない!」


『スイスイ!』


 そりゃあ、できるかもと思ったことをイチイチ迷ってたら何もできなくなるじゃない。

 例え失敗するにしても、してから考えればいいのだ!

 やる前から失敗することを考えるやつがあるか、とは私の父が尊敬するレスラーの言葉だ。


 いいこと言うなあ。


「よし、突撃ー!!」


 私は立ち上がり、走った。

 このバンザイ突撃は完全に無策!


 だけど、それだけにインプやデーモンたちは心底びっくりしたらしい。


「誰か走ってきます!!」


「頭身が高いやつが走ってくるぞ!!」


「な、なんだあいつは!」


「バカなのか!? 迎え撃てー!!」


 わーっと持ち場から離れて飛びかかってくるインプとデーモンたち。

 私は走りながら、頭の中でイメージを固めた。


「よーし! ケーキ、錬成!!」


 私のお腹がピカッと光り輝いた。

 そして、生まれてくるのはチョコレート色の切り株みたいなケーキ。

 太さが樹齢四千年の大木くらいあるけど!


 超巨大ブッシュドノエルが、エネルギーを吹き出す炉をめがけてぶっ飛んでいったのだった。


「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」


 かなりたくさんのインプとデーモンを巻き込んだぞ!

 まるでブッシュドノエルを飾る砂糖菓子みたいな状況になりつつ、彼らはケーキごと炉に突っ込んでいった。


 そして狙いはバッチリ!

 ブッシュドノエルが炉に突き刺さる。

 エネルギーの湧出が止まった。

 出てくる隙間がなくなっただけなんだけど。


 その間も、ベルトコンベアーは動き続け……。

 乗っていたエネルギーが、全部床に落ちた。


 エネルギーってプルプルしているのね。


「今ですよ、ナリさん!」


「任せて!! 吸引!」


 キュイイイイイイイインッ!!


 どんどん吸い込む、エネルギーを洋菓子に変える機械!

 エネルギーを吸い込みそうになると、トムとアメンボが走っていって、トングで横にどかせた。

 あのトング、一体何でできてるんだろう……。


 よそ見をしたら、そっちにいたトムとアメンボを吸い込みかけた。


「ウグワー!」


『スイスイー!』


「あ、ごめんごめん!」


 吸引はストップ。

 二人はコテンと地面に落ちた。

 我ながら、危険な能力だなあ……。


 ここで、お腹の中のものを確認する。


◯お腹の中

 ベルトコンベアー×3

 トング×4

 プレス機×3


 ちょうどいい感じで、エネルギーとインプを弾けた。


◯レシピ

 (素材が足りません)


 何かできそう。

 だけど、素材が足りてない?


 一旦ストップしたから、これ以上吸引はできなさそうだし……。

 よし、外に出しておこう。


 私は決断すると、吸引の逆をイメージした。

 錬成しないで、そのまま出すってできるのかな。


 そう思ったら。

 できた。


 口からビューっと猛烈な風が吹き出したと思ったら、吸い込んだはずの機械がごちゃごちゃに積み上がった状態で、工場の一角に出現したのだ。


「戻せるんだねえ……。これは便利かもしれない」


 新しい能力に気付いてしまった!


 =================

頭脳は外部委託!

吸引戻しをマスターし、ここからは探索、調査フェイズなのだ


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