第28話 魔王のお菓子工場①

 アメンボマシーンに乗って飛び上がる。

 空から見下ろせば、さっきの山が金属でできた、ビルみたいなものだったことがよく分かる。


 タブレット端末に出てた三つの遺跡。

 ガラスの海とビルみたいな山は解放したっと。

 残りは工場だね。


「最後の一箇所、行ってみよう!」


「行きましょう行きましょう!」


『スイスイ』


 そういうことになって、端末に地図を表示する。

 ピンチアウトすると、世界は細長い形で表されるみたい。

 画面をすいすい指で滑らせると、世界を一周できるのがわかった。


 うーん、地球が丸いのとは別の意味の一周だよね、これ。

 世界がドーナツ型をしてて、だから一周できちゃうんだ。

 そして、青空に見えるのは全て、ガラスの海だ。


 よーく見ると、ガラスの海のあちこちに、点々と島がある。

 あそこにも建物とかがあって、リビングドールが暮らしているのかもしれない。


 平和になったら旅をしてみたいなあ。


「工場は……と。ひたすら真っすぐだね」


 すいすいと空を飛んでいたら、山のあたりで火柱が上がった。

 魔王が戻ってきたんだな。

 で、私がいないところに腹いせに攻撃した。


 金属の山は頑丈そうだから、そう簡単には壊れないと思うんだけど……。


「壊されたら大変。急がなくちゃ。アメンボ、頑張ろう」


『スイスイ!』


 アメンボマシーンに急いでもらって、まっすぐまっすぐ突き進む。

 そうすると、この場所は私が召喚された箇所のすぐ近くなのだ。

 世界を一周してしまった。


 大きいようで小さな世界だなあ。


 そこには、ダイナミックなものが存在していた。

 屋根は斜めになった超巨大ウェハース。

 壁はプレッツェルが組み合わさって、窓は透き通った砂糖菓子。


 多分、これが工場だ。

 穴の空いたチョコバーみたいな煙突からは、甘い香りの煙がもくもくと吹き出している。

 工場の裏面からは、一定時間ごとに様々なお菓子がドバドバと出てきていた。


「これが、世界を覆い尽くしていたお菓子の供給源ですか!! 諸悪の根源ですよ、ナリさん!」


「うん。こんなファンシーな諸悪の根源あるんだなーってちょっと感心しちゃった」


 言うなれば、これは魔王のお菓子工場、といったところだろうか。


「自分で作ってたんじゃないんだねえ」


「外注でしたね」


『スイスイ』


 工場の裏手に降り立つ私たちなのだ。

 すると、これを見つけたインプたちが駆け寄ってきた。


「魔王様の工場に近寄る不審者め! 帰れ帰れ!」


 ここは普通にインプがいるんだ。

 魔王は遺跡に手出しできないんだと思ってたけど……。

 もしかして、順番にこの工場のように自分のものにしていくつもりだったとか?


 ありうる。


「じゃあとりあえず吸引」


「ウグワーッ!?」


 キュイイイイイイインッ!!


「インプミサーイル!」


 明後日の方向に撃ち出した。

 これで解決。


「インプを雑に退治するようになりましたね! 頼もしい!」


「いつもパターンが同じなんだもん。じゃあ中に行こうか!」


 お菓子工場内部に入る私たちなのだ。

 ここで、私はお菓子の正体を知ることになる。


 工場の中心に、炉みたいなのがある。

 そこが見覚えのある輝きを吐き出しているのだ。


 この輝きを、インプたちがトングで摘んでベルトコンベアーに乗せる。

 摘めるんだ、それ……。


 輝きは加工機械の下に運ばれると、プレスされてお菓子になるのだ。

 これ、エネルギーラインから得たエネルギーをお菓子の形にしているんじゃないか。


 世界がお菓子で満ちていればいるほど、太陽やガラスの海、花畑を正しく運営するエネルギーが無くなっていくわけだ。

 つまり、世界は元通りになれない。


「これは思ったよりも頭がいいかも」


「ほんとですね……! 狡猾なり、魔王! それでどうしましょう、ナリさん!」


「とりあえず吸引かな?」


「雑!」


 キュイイイイイイイインッ!!


「ウグワーッ!!」


 手近なインプを機械ごと吸い込んだ。

 そうしたら、エネルギーまで私の中に入ってきてしまった。


◯お腹の中

 インプ×3

 ベルトコンベアー

 トング×2

 プレス機

 エネルギー


◯錬成

 大型ケーキ


「あ、これはまずい! 機械ごとエネルギーを吸い込むと、私が機械と同じ働きをしちゃうみたい! お菓子になっちゃう!」


「なんですって」


 つまり、思考停止で吸引パターンは使えないというわけだ。

 頭を使わなくちゃいけない……!!


「これはナリさん、かなり不得意な分野ではないですか?」


「私だって頭使えるよ! 失敬な!」


 トムの指摘に、私はぷりぷりと怒った。

 今頭を使おうと思ってたんだから!


『スイスイ』


 まあまあ、と仲を取り持ってくれるアメンボマシーン。

 人間ができたアメンボだなあ。


 さて、それじゃあどうやって攻略していこうか。

 ガッチャンガッチャンと生産されるお菓子を前に、私は考え込む。


 ……考え込むんだけど、そんな暇は無いのだった。

 だって、私が吸引したのは工場のラインの一つ。

 いきなりラインが消えたんだから、異常を察知してインプが集まってくる。


「異常が発生しているんだが……? うぎょわーっ! ラインが一本なくなってる! な、な、なんじゃこりゃー!!」


 デーモンまで出てきた!

 私たちは慌てて、お菓子を作る機械の影へ隠れるのだ。


「危なー! 何も考えずに吸引しちゃだめだね」


「なまじ、今まで吸引が無敵すぎましたからね!」


 トムの言う通りだ。

 今回は頭脳戦で行くしかなさそうじゃないか。

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支配された遺跡、工場。

ナリの頭脳(?)が冴えわたるぞ。

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