第23話 ガラスの海のマーメイド⑤

 ハッと気づく私、天才。


「吸引!」


 と私とトムに染み込んだ水を吸い込む!


「ウグワーッ!」


 トムが吸い込まれそうな辺りでストップ。

 あとは水を生み出して……。


◯お腹の中

 回路の水

 ガラス端末

 屈折した光


 なんだか変な材料が混じってるぞ……?

 これで錬成できるのは……。

 ふと、私の目がアメンボマシーンに向いた。


 そう言えばこのアメンボ、羽が無いよね。

 アメンボは飛べるはず……。


◯レシピ

 アメンボウイング


「これだーっ! 錬成、アメンボウイング!」


 私のお腹からスポーンと出てきた光が、アメンボマシーンと合体した。

 そこに、格納できる透明なウイングが誕生したのだ。


『スイスイ!』


「おほー! これはすごいですよー!」


 アメンボマシーンとトムが小躍りしている。

 私もうんうん、と満足気に頷いていたら、視界の端で人魚がパッパッと手を振っている。


 ああ、ごめんごめん。

 操作盤のこと一瞬忘れてた。


「じゃあ、操作しちゃおうか。これもエネルギーラインっていうやつに繋がってるの? 繋がってるっぽいね」


 タブレット端末を見ながら、ちょいちょい操作する。

 操作盤の上に走る光が、ボタンの形を表しているようだ。

 ここにトムが乗ったから、さっきは水が出てきた。


 それはつまり、操作方法を知らずに適当に動かすと発動するトラップだったみたい。

 じゃあ、本当の操作方法とは……?


「操作盤の横にあるボタンを長押ししながら、表のボタンを押す……? 同時押しで長押しとか罠じゃん」


 かなり性格の悪い人がこれを作ったらしい。

 お陰でこの遺跡は変な操作をされることもなく、形と一定の機能を保てているのかもしれない。


「よーし、エネルギーラインに接続! ガラスの海の下にエネルギーラインがあるのかねー」


 今度はどんな光景が見られるんだろう……なんて思いながら、私は操作を開始した。

 すると、タブレットの画面に遺跡とその周辺図が映し出される。

 縦方向じゃない。横方向から、エネルギーっぽいオレンジの光が飛び出してきた。

 

 それはガラスの海に入ると、まるで毛細血管のように細かく別れ、遺跡に向かって進んでくる。

 そして、遺跡とエネルギーが出会う!


「何も揺れたりしないね?」


「そうですねえ? ピラミッドの時よりも穏やかな」


『スイスイーッ!』


 以上に気付いたのはアメンボマシーンだった。

 変化は入り口から起こった。


 ただのガラス張りのようだった遺跡が、そこからだんだんと見通すことができない、濃くて輝く青色に染まっていくのだ。

 映し出されるのは、海の中の光景。

 多分、この世界とは違う場所にあった、映像としての海だ。


 人魚はこれを見ると、嬉しそうに頷いた。

 そして、映像の中の魚たちに混じり、どこかに泳ぎ去ってしまう。


 あれは、この映像の中にいた人魚だったのか。

 遺跡が半分機能を失って、その中から飛び出したのだろうか。

 それで、誰か助けてくれる人が来るのを待っていたとか……?


 真実は不明だ。

 明らかなのは……。


「水飴の海が、普通の水になってくなあ」


 水飴の粘度がなくなって、あっという間にドロリと

溶ける。

 それはもう、水なわけだ。

 水は遺跡を中心にして揺らめき、海のような満ち引きを始めた。


 遠くでは、真っ白だった粉砂糖の砂浜が黄色く変化していっている。

 普通の砂浜になってしまった。


 そして何よりも大きな変化というと。


「ヒエーッ! ナリさん! 足元を見て下さい!」


 トムが飛び跳ねて驚いている。

 なんだなんだ。

 下を見た私も、びっくりすることになった。


 そこにあったのは、星空だった。

 ガラスの床を通し、ガラスの海を通じて星空がどこまでも広がっていたのだ。


 海の底に空が?

 ということはやっぱり、ここは星なんじゃなくてスペースコロニーだったんだなあ……!


 どこからか、ガラスの海の中に魚たちが戻ってくる。

 生きている魚が、すいすいと泳ぎ回る。


 人工の海なのだけれど、これはこの世界にとっては本当の海なのだ。

 透き通って見えていた宇宙は、すぐにわからなくなった。


 底面のガラスが青色に染まっていたからだ。

 こうして見ると、どこまでも深い水の底があるようにしか見えない。


 振り返ったら、上り坂になって海が続いてるんだけど。

 よくよく見たら、頭上まで海が続いている。


 うーん、スペースコロニー……。


「なんだか静かに元の世界を取り戻してしまったので、達成感が無いね」


「この間みたいな大きな変化があったら、遺跡が壊れちゃうじゃないですか」


「それはそうかも!」


 ガラスの遺跡だった。

 納得。


『スイスイー』


 アメンボマシーンが水上に飛び出して、スイーッと滑ってくるりと反転。

 私たちの前にやってきた。


「乗れって言ってる。じゃあ、次の場所に行こうか!」


「なんか羽が広がってますよ! 空を飛んで行くんですか!? ひゃっほー!! 空の旅だあ!」


 私たちが乗ったアメンボマシーンは、水面を凄い勢いで助走した。

 広げた透明な翼が、揚力をはらみ、ふわりと舞い上がった。


 いざ、次の目的地へ!

 解放する遺跡はあと三箇所なのだ。


 そうしたら……どうなるんだったっけ?



 遠く、魔王城。


 世界の支配を押し返され、魔王パナンコッタは怒りの声をあげる。


『何!? どういうことなの!? あたしがせっかく支配してやった場所なのに、どうして取り返されてるの!!』


「恐れながら魔王様、支配しきれず和菓子になってしまった場所が、支配を覆す鍵となる場所だったようです」


 デーモンの言葉を聞いて、パナンコッタはムキーッと憤慨した。


『なあにそれ!? あたしが悪いって言うの!?』


「い、いえそんなわけでは!」


『うるさいわよお前!』


 魔王はどこからかハンマーを取り出し、デーモンを横殴りにぶっ飛ばした。


「ウグワーッ!?」


 城の外へと吹き飛んでいくデーモン。

 残るデーモンたちは震え上がった。


『あたしがここで管を巻いているのも、星じゃなくてコロニーに降りちゃったからじゃない! これじゃあ、魔王として羽化できないわ! さっさと支配しきって飛び立たないといけないのに! 誰が邪魔してるやつがいるのね!』


 奮然と、魔王が歩みだす。

 魔王城の奥、薄暗い空間から、太陽の光が届く場所に現れたその姿は、豪奢なマントを纏った女の姿だった。


 巨大なハンマーを片手に、棘だらけのドレスとハイヒールを身に着けている。

 真っ赤な王冠からは、チョウチンアンコウの疑似餌のような触覚が生えていた。


『もういい! あたしが直接行くわよ!!』


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中盤戦、魔王が出てきますぞ!

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