第24話 太陽が登る山①

「次は……山ね! これはまた太陽と関係しそうじゃん。これを含めて、あと二つ遺跡を解放したらいいんでしょ? 楽勝楽勝!」


「ナリさん、慢心は危ない気がします!」


「そうかな? そうかも」


 私は気を引き締めた。

 調子に乗っちゃう性格だから、トムがたまに冷静でいてくれると助かるなあ。


『スイスイ!』


 アメンボマシーンがおしゃべりに加わりたそう。

 スイスイしか言わないんだけどね。


 彼が自分でものを考えていそうなのは、どうしてなんだろう?

 インプたちが乗ってきた二本足のマシーンが、実は意志を持ってたりとかしたのかな?


「なんでアメンボマシーンは意識があるんだろうねえ」


「それは簡単ですよ。僕らリビングドールと一緒です。ある程度複雑になったリビングドールは、自動的に自意識を持つんです」


「あ、つまり、私が何個も二本足マシーンをまとめてから錬成したから、アメンボマシーンは複雑になったってこと?」


「そういうことです! 二本足で歩けるくらい複雑なのをまとめたんですから、意識を持ってもおかしくありません!」


 そっかあ、この世界はそういう法則なのだ。

 図らずも私、生命を生み出してしまったのかもしれない……!


 つまりアメンボマシーンは私の子ども?

 おおー、愛着が湧いてきそう。


 マシーンの背中を、頭を撫でる要領でなでなでしたら、くすぐったがってグラグラと揺れた。


「ウグワー!」


「あっ、トムがまた放り出された! アメンボ、お願い!」


『スイスイ!』


 アメンボマシーンがターンして、トムを拾い上げてくれる。

 仕方のないトムだなあ。


「ふうー、助かりました。いきなり揺れたので」


「いきなり揺れたのは私のせいかも知れない」


「あっ、またナリさんですか」


 またとはなんだ。

 だけど、トムはよく落っこちる。

 移動中はフードじゃなくて、どこかに固定しておきたい……。


 あっ、いいところがあるじゃないか。

 私は胸元のジッパーを開いて、そこにトムを入れてちょうどのところで固定した。


「僕、際どいところに入ってませんか?」


「なんか暖かくてもこもこしててちょうどいいよ」


「ナリさんがいいならいいんですが!」


 何を心配してるんだ。

 ここならジッパーに挟まって、トムが落っこちないからバッチリなのだ。

 そんなやり取りを空の上でしていたら、山が見えてきた。


 山というか、瓦礫みたいなものの山というか。

 よくよく見たら、あれは……。


「あられだね。つまり、和菓子! 遺跡確定!」


 段々とこの世界に慣れてきたから、遺跡がそうじゃないかの判定が得意になっている気がする。

 今度もさっさと解放するぞー!っと、私はアメンボマシーンに降下をお願いするのだった。


 だが、そう簡単にはいかなかった。


『スイスイーッ!』


 アメンボマシーンが、慌てて上空に舞い上がる。


「なになに!?」


 彼にしがみついた私が見たのは、さっきまで私たちのいた場所を通過していく、大きな星型の何かだった。


『ええい、外したわね!! ちょこまか逃げちゃって! 腹が立つったらありゃしない!!』


 プリプリと怒っているらしき、女の声がする。

 それは、私たちと同じくらいの高さだ。


 ちょっと向こう、雲が浮いている辺りに、マントをたなびかせた人影が見えた。

 目につくのは、とびきり大きなハンマー。

 黄色とピンクで目に痛いくらい鮮やかなそれは、人が持つにしてはあまりにも大きい。というか、ピコピコハンマーに見える。


 頭からはチョウチンアンコウみたいな触覚が生えていて、キラキラ輝いている。

 先端についているのは、お星さま?


 で、そんな個性的な姿をしているのは、体の大きなむちむちっとした女だった。

 口紅をたっぷり塗ってるのか、唇が厚くてすっごく赤い。


「ウグワーッ! あ、あれはー!」


 胸元でじたばた動くトム。

 だけどガッチリジッパーでホールドされてるから安心。


「どうしたのトム。知り合い?」


「あれは、魔王です! 魔王パナンコッタが直接やってくるなんてー!!」


「なんだってー!」


 あれが魔王かあ。

 そう言われてみれば……。

 頭身が普通だし、真っ黒な影にたらこ唇でもないし。


 マントをたなびかせながら、自力で空を飛んでる。

 派手な武器まで持ってる。


 今まで会ってきたインプやデーモンとは、全然その姿が違うのだ。


『あんたが、あたしの邪魔をしてくれたやつよねえ? こんなちんけな世界、あっという間に征服して旅立てると思ってたらこれよ? あたしの邪魔しないでほしいわ!』


 鼻息も荒く、魔王パナンコッタは告げる。

 だがちょっと待ってほしい。


「あのー。征服してって言う割には、遺跡周りとか和菓子だし、なんかインプが入ってこれないしで、色々不具合があった感じじゃない?」


「おっと、ナリさんが痛いところを突きましたよ」


『スイスイ』


 トムも煽るねー。

 魔王はこれを聞いて、一瞬で顔を真っ赤にした。

 恥ずかしがったわけじゃない。

 激怒したんだ。


『お前らーっ!! 言っていいことと悪いことがあるのが分かんないわけーっ!? あたしが! こんなスペースコロニーで管を巻いてるのは、こんなとこにコロニーが浮かんでたのが悪いのよーっ!! お陰で惑星に降りれないじゃない!!』


「ここを放置してよそ行けばいいじゃん! みんな迷惑してるんだからね!」


『そうは行かないわよ! 魔王ってのはね! 一度根付いたら、そこを喰らい尽くさないと羽化できないの! 羽化しないとまた宇宙に飛び立てないの!!』


 魔王ってそういう仕組なんだ……?


『問答無用! あたしの邪魔をする小娘! ここでぺしゃんこにしてやるんだから!!』


「十分問答してたような……」


『お黙りーっ!!』


 こうして魔王とのバトルが発生してしまうのだ!


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ナリと魔王、ちょっと似た者同士かも知れない

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