第22話 ガラスの海のマーメイド④

「ほえー、中もガラスなんだね。青いガラスかと思ったら、周りが全部青いからそれが映し出されてて青いんだ」


「青い青い」


 トムが私の後ろをテコテコ走りながら、適当なことを言っている。

 そして、ガラスの床で滑ってステンと転んだ。


「ウグワーッ! ここは踏ん張りが効きません!」


「大人しく私のフードに入ってればいいのに」


「たまには自らの足で歩こうと」


 そこ、ヒトデの足だったんだ……?

 トムをつまみ上げて、フードに入れる。


「アメンボマシーンは全然滑ってませんね」


「そりゃあ、足が六本あるし、水飴の上をすいすい行けるんだもの。ガラスくらいなんでもないでしょ」


『スイスイ』


 アメンボマシーンもそうだそうだと言ってる。

 ガラスの遺跡は、他の遺跡みたいに朽ちてはいない。


 どうしてなんだろうと思ったら、壁面を常に水が流れ続けているのだ。

 汚れとかを、洗い流しているのかも。


 そして、水中を小さな魚みたいなものが泳いでいた。

 これは何かな?


 摘んで捕まえてみた。


「ナリさん、今躊躇なく素手で掴みましたね!? それがなんだか分からないのに凄い度胸ですよ! あと、なんでそんな速い生き物を一発で掴めるんですか!?」


「勘かな……? 私、ドッジボールでボール外したことないし」


 お陰で中学の頃は魔弾の射手と恐れられた。

 なんだその厨二っぽい名前。


 手の中の魚は、ピチピチしている。

 よく見たら、この魚は機械だ。

 水と機械の魚で、遺跡の汚れを落としているんだな、これは。


「だとしたら、この遺跡って普通に生きているんじゃない? 再生する必要ないかも」


「なるほど、言われてみればそうですよね。で、この遺跡ってなんなんです」


「そっか、それが分かってなかった。これだけ水を使ってるから、水のコントロールをしてる設備だと思うんだけど……。えーと」


 ピラミッドで手に入れた端末を取り出す。

 私の服は、収納もたくさんあるのだ。


 ポチポチと画面を触っていると、この遺跡らしい図面が出てきた。

 一本道に見えるけど、左右に道が分かれているんだな。


 ガラスの反射で、それが分かりづらくなっているのだ。


「操作盤は右だって。行こ!」


『スイスイ』


 トムはフードの中にいるから、声をかけるならアメンボマシーンだ。

 この子はなんか、まだまだ可能性を感じる。

 水の上を走る以外にも、アメンボって空を飛ぶじゃない?


 物思いにふけっていたら、曲がり角でガラスの板にぶつかった。


「あいた! 分かりづらいなあ……!」


「いい音しましたねー。ガラスが割れなかっただけでも良かったですよ」


「私の額が割れるかと思ったわ。だけど、本当にこれ、見づらいなあ。なんとかならない?」


 私が呟いたら、ガラスの壁の中をすいーっと泳いでくるものがあった。

 あの人魚だ。

 彼女は私の横までやってくると、ここがガラスの壁だよ、と言わんばかりに動き回ってみせた。


 あ、人魚が映らないところがある。

 そこが通路か!


 彼女に誘われて、私はようやく通路に入ることができたのだった。

 その先……。


「ナリさん、何かありますよ! 割れてます!」


「割れてる!? あ、ほんとだ……」


 操作盤と思しきものが、土台から砕けてしまっていた。

 そして、ガラスに挟まって、インプが乗ってた二足歩行マシーンが壊れている。


「インプは入り込めなかったけど、インプのマシーンは入ってきちゃったんだね。それで遺跡が無力化されたんだ」


「なるほど! だから遺跡が管理してるガラスの海が、魔王によって変えられたんですね!」


 理由は明快。

 自分が手出しできないものを、間接的な手段で壊す魔王なのだ。

 案外頭がいいのかも。


 人魚は壊れた操作盤の周りをぐるぐる回っている。

 そして、私をじーっと見た。


「うん、分かってる。直せってことだよね? 任せて。吸引!!」


 思い立ったらすぐ行動!

 キュイイイイイイイイインッ!!と吸込む私なのだ。


◯お腹の中

 ガラスの破片

 端末部品

 屈折した光

 水


◯レシピ

 新型操作盤


「操作盤出た! よし、錬成!!」


 私のお腹がピカッと光った!

 光がガラスに反射する。


「うわーっ! まぶしっ!」


「ウグワーッ!」


『スイーッ!』


 アメンボまで眩しがってるじゃん。

 そして、光はすぐに収まった。


 ガラスの中で使ったらいけないね、これは。

 だけど、お陰でちゃんと操作盤は再生したのだ。


 キラキラと煌く、カットガラスの遺跡操作盤。

 この中を、光ファイバーみたいなものが血管のように通っている。


 操作盤のボタンも透き通っていて、触れるとそこに光が生まれた。

 光はファイバーを通って移動していき、遺跡のどこかがピカッと光る。


「操作方法とか……あった。この端末、なんでもあるなあ。私の手が塞がっちゃうから、トムが操作盤を使って」


「了解です! とーう!!」


 トムは操作盤の上に着地した。

 その勢いで、ボタンが押される。

 私たちの頭上から、ドジャーっと水が降り注いだ。


「ぎゃーっ!」


「ウグワーッ!!」


『スーイ』


 自分だけ避けるアメンボマシーン。

 び、びしょびしょになってしまった……!!


「トムーッ!?」


「うひょーっ! これは不可抗力です! 僕は悪くありません!」


 しっとり濡れた体でも、元気にジャンプして訴えるトム。

 そんな私たちを見て、ガラスの中にいる人魚がくすくすと笑うのだった。

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ミラーハウス的な感じです


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