第20話 ガラスの海のマーメイド②
「立体映像の人魚だなあ。でも私をバッチリ見てたし、科学的なものじゃないのかもしれないし……」
うーん、と考える私なのだ。
「人魚とはああいうものなのではないのですか? 声は聞こえるけれど触れられない、歌声に誘われて海に入ったら、二度と戻ってこれないと聞いたことがあります」
「怖い怪異じゃない」
さっきの人魚は、声を出してなかったな。
で、トム曰く、海に入ったら戻ってこれないとは一体。
試しに、一歩踏み込んでみることにした。
先程と同じように、つま先にはカツンという感触が……。
あっ!
ねちょっとした!!
ガラスじゃない何かがそこに敷き詰められているぞ……?
しゃがみ込んで、指で掬ってみた。
これ……。
水飴では?
ガラスの海の真上に、水飴の海が生まれてる!
うんうん、確かに踏み込んだらネバネバに巻き取られて戻ってこれなくなりそう。
とんでもないことになってるなあ。
そして、なんとなくイメージ的に、水飴は和菓子。
つまり、和菓子化したガラスの海は、それそのものが遺跡だと言えるわけだ。
「でもトム。このネチョネチョの上を歩けると思う?」
「くっついちゃいますね。僕なら一発でアウトですよ。ぬいぐるみですから」
「コーラの川以上に危ないよね、これ。深さはたいしたことないけど……」
べっとりと足を取られて、転びでもしたら大惨事だ。
これは、水飴の海を渡る手段を調達しないと……。
多分、この先に再生させるべき遺跡があるのだから。
だけど、見渡す限りが粉砂糖の砂浜で……。
「インプでも来てくれたらなあ」
「いたな、頭身が高いやつめ!! 魔王様がお前を名指しで仕留めろと仰せなのだ!!」
「きたあ!」
インプがわらわらとやってくる。
なんと、砂浜の上を二足歩行の機械みたいなのに乗っているじゃないか。
足が広くなっていて、砂浜でも足を取られずに高速で走れるようになってるのだ。
ラクダの足の原理かな?
インプたちは、私が嬉しそうな顔をしたのでギョッとしたようだ。
だけどすぐに、「こ、虚仮威しだ!」「何の能力があるか分からないが、魔王様が警戒する遺跡を次々復活させているやつだぞ!」「お腹から何か出してデーモンを倒したらしい! あいつのお腹の正面に回るな!」
チームプレイで、私を包囲し始めた。
「ナリさん! あいつら、こっちを調べてますよ!」
「誰かがこの間の戦いを見てて告げ口したんだね……! だけど、吸い込むところまでは分からないみたい。それに見て、あの機械」
二足歩行で、砂浜を警戒に走り回る、インプを載せた機械たち。
あれって、どうにかしたら水飴の海を渡れそうじゃない?
「好都合! まとめていただいちゃおう!」
「ナリさんは前向きですねえ! それでこそナリさんです! やりましょうやりましょう! そしてインプは全滅だ!!」
トムが物騒になってきたので、ボルテージが上がったのだと分かる。
私も同じ気分だし。
「かかれえー!!」
インプが一斉に、私に襲いかかってきた。
私はこれを、空気を吸い込んで膨らみ、空に逃げるのだ。
「と、飛んだ!!」
「風船みたいに膨らんで飛んだ!!」
「乙女にあるまじき姿は一瞬! 空気を吐く!」
空中で溜め込んだ空気を吐いたら、ものすごい風が起きた。
インプたちが「ウグワー!?」となぎ倒される。
私は着地ざま、インプの機械を吸引した。
キュイイイイイイインッ!!
◯お腹の中
オストリッチマシーン
粉砂糖
まばゆい銀の光
光
◯レシピ
アメンボマシーン
「きたあ! 錬成! アメンボマシーン!」
レシピが浮かび上がった瞬間、私はもう錬成していた。
お腹から出現した光が、大きな塊になって水飴の海に着水する。
それは、六本の足を持った細い体のマシンだった。
なるほど、アメンボマシーン!
背中にのって、これですいすいと水飴の上を歩いていけるわけだ。
マシンの足は先端が広くなっていて、粉砂糖の力で浮力を得ることもできるようだ。
……どういう原理?
だけど、迷っている暇はない。
前に前に進まねばなのだ!
「あ、ついでにインプも吸引!」
キュイイイイイイイインッ!
「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!!」
まとめて吸い込み。
後々インプミサイルで使うかもしれないから、お腹の中に確保なのだ。
◯お腹の中
インプ×3
粉砂糖
まばゆい銀の光
光
さっきから、まばゆい銀の光ってなんだろう?
それに、アメンボマシーン、今まで錬成してきたものよりも明らかにスケールが大きいような……。
「太陽が復活したから、私の力が上がってたりする?」
「ありえますね! ナリさんは神を名乗る誰かが呼んだんでしょう。もしかしたらその人、この世界の意志みたいなものかも知れません。かつて世界が一度終わる時、世界中に避難せよ、脱出せよ、という声が響いたそうですから」
世界の意思かあ。
それに、世界が一度終わる時ってなんだろう。
アルケイディアには、まだまだ色々な秘密がありそうだ。
でも、今はまずアメンボマシーンを走らせなくては。
「アメンボマシーン出発!」
『スイスイー!』
返事があった!
アメンボマシーンの頭に、複眼みたいなのがある。
それがグリグリっと動いた。
六本の足がすいすい動き出し、水飴の海をスウーッと渡っていく。
本当にアメンボみたいだ。
「揺れないし、乗る幅もちょうどいいし、これは楽ちんだねえ」
「いいですね! 僕も乗ってみていいですか? え、落ちる? フラグですって? ははは、そんなことないですよ」
トムが私のフードからぴょいっと飛び降り……。
着地と同時につるんと滑った。
「ウグワーッ!! お、落ちるーっ!!」
「お約束だなあ!」
慌てて彼をつかみ取り、フードの中に押し込む私なのだった。
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ガラスの海をわたり、この先にある何かを探すのです
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