第19話 ガラスの海のマーメイド①

 姿を取り戻した、村のリビングドールたち。

 なるほど、なんかロボットっぽい姿だ。

 人間に似てるのと、どう見てもロボなのだ!っていう見た目の人が一緒にいる。


 いやあ、でも、ちゃんとした頭身の人がたくさんいると落ち着くな……。


 彼らはわいわいと集まってきて、私を抱え上げた。


「我々の救い主、ナリさんを胴上げだ!」


「ナリさんありがとう!」


「ありがとうナリさん!」


「ナリさんわっしょい!」


「わっしょいわっしょい!」


 うわーっ。

 凄い胴上げだ。

 リビングドールはロボみたいなものらしくて、力が凄い。

 私が軽々と宙を舞う。


 あ、いや、個体差があるみたい。

 私を受けそこねた女の子型のリビングドールが、「ウグワーッ」と跳ね飛ばされて転がった。


「ナリさんのお尻に弾かれました」


「失敬な! 私のお尻はそんなに大きくない!」


「本当ですかあ?」


 トムが疑念を呈した。

 だまらっしゃい。


「ところでっ、みんなっ、聞きたいことっ、あるからっ、そろそろっ、胴上げっ、ストーップ」


 止まらない。


「止めないと吸い込むよ」


 ピタッと止まった。

 落下する私。


「ウグワー」


「ウグワーッ!」


 トムがクッションになったので無傷だった。


「あのね、私がこの世界に来た時、神様を名乗るケミストリって人がいたんだけれど。みんな知らない?」


「ケミストリ……!? それは、我々の造物主の名です」


「間違いなく、神ですよ」


 村人たちがうんうんと頷く。

 そっか、神様で間違いないんだ。

 この人口の世界っぽいところの神様なら……彼はもしかすると、人間なのかもしれない。


 また会って、詳しいことを聞かなくちゃ。


 その後、私は元通りになった村に招待され、久々に屋根の下でゆっくりと眠ることができたのだった。

 翌朝見た太陽は、銀色の方が明らかに大きい。

 日差しだって強い。


「このピラミッドを動かしたことで、太陽が大きくなってこの辺りが元通りになったでしょ。ということは……」


「もう一つの太陽を大きくしたら、世界を魔王から取り戻せますね!」


 トムが飛び上がる。

 唯一、ヒトデのままのトムだ。


「そうかー。そうなったらトムが人間サイズに戻るのか……」


 想像する、人間になったトム。

 なぜか、ヒトデのまま人間サイズになった姿を思い浮かべてしまった。


 いやいやいや。

 きっとイケメンに違いない。

 私がそう決めた。


「何か懊悩してますねナリさん」


「大丈夫、個人的な問題だから……!」


 こうして、私たちはピラミッドを後に再び旅立つのだった。

 村の人たちに別れを告げ、湿地ではなくなった地面をまっすぐ歩いて行く。


 乗り物が欲しいなあ……。

 ……と思ったら、またコーラの川にたどり着いた。

 ここで、はぐれたコーラカバを発見。


 カバは私たちを見ると、慌てて逃げようとした。

 こいつ、現場にいたな!


「吸引!」


 キュイイイイイイインッ!


 吸い込む寸前まで吸って、カバを引き寄せた。

 そして、彼をペタペタ触りながら囁きかける。


「私たちを載せて運んでくれたら見逃してあげる」


「カバーッ」


 コーラカバはコクコクとうなずいた。

 乗り物をゲットだ。


 トムと一緒にカバの背中に乗る。

 コーラの川を、ざぶざぶと進むのだ。


 歩くよりもずっと速い。

 川ならば障害物もないし、流れに身を任せて進んでいるから、ただ歩くよりも進行はスムーズ。


 昼過ぎ頃、遠くにキラキラするものが見えてきた。


「あれは……多分、ガラスの海かな。カバ、ここでストップ」


「カバ!」


 止まった。

 私はトムを抱えて、カバからジャンプ。

 砂浜みたいなところに着地した。


 足元がギュッと音を立てる。

 なんだこれ……?


 もしかして、粉砂糖……!?

 真っ白な砂浜がどこまでも続いていて、その全てが粉砂糖だった。


 これは洋菓子判定かなあ……。

 ということは、魔王の支配地域ということになる。


 カバに別れを告げ、尻をぺちぺち叩いてコーラの川に返す。


「ナリさん、約束はちゃんと守るんですね……! てっきり、お前は用済みだーって言って吸い込んで錬成するのかと思いました」


「それじゃ私が血も涙もないみたいじゃん!」


 トムは私を何だと思っているのだ。

 プリプリしながら、粉砂糖の砂浜を歩く。

 ギュッ、ギュッと音がする。


 たまに違う感触があって、粉砂糖の間に金平糖みたいなのが混じっているみたいだ。

 金平糖は和菓子だっけ……?


 むむむむ。

 お菓子の知識で、魔王と遺跡、どっちの領域なのかが分かれるんだよなあ。

 私はこの辺、詳しくないんだ。


 悩みながら、砂浜を歩いていたら……。


「ナリさん! ここから海です! 海……?」


 つま先が、カツン、と固いものに当たった。

 そこが海だった。

 ガラスの海。


 どこまでも広がるガラスの水面。

 そこに、海の映像が映し出されている。


 水は一滴もない。


「やっぱりガラスの海かあ……。これはこの上、歩いて行けちゃうね」


 一歩、ガラスの上に踏み出した。

 これ、分厚いガラスだ。

 私が乗ってもびくともしない。


 このガラスの下には、一体何があるんだろう……?


 そんな事を考えていたら、映像でしか無いはずの波間から何かが跳ねた。

 それは、ドットみたいな粒子をばらまきながら現れた。


 人魚だった。

 きれいな女の人の上半身と、機械の魚の下半身の。


「あ、ちょっとま……」


 彼女は私に微笑みかけると、また映像の中に飛び込んでいった。


 なんだったんだ。

 ただの映像? でも、私を見ていた気がする。


 ここが五つの遺跡の一つだとしたら、今の人魚はそれに関係していたりするんだろうか?


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コ◯ニーガラス面到着であります。

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