第18話 太陽が沈むピラミッド⑤

 チョコエッグが降り注いで大惨事!

 なのはまあいいとして。


「良くないですよ! ナリさん! 外から阿鼻叫喚の悲鳴が聞こえてくる気がするんですが! ナリさーん!」


「そんなことより、見て、トム! 光の柱が空に上がってチョコエッグを溶かしたから、青空が見える。それに……」


 外に飛び出した私たち。

 頭上に、ぐんぐん近づいてくるものがある。


 あれは……太陽の一つだ!

 それが、ピラミッドの直上まで引き寄せられてくる。


 これは、銀色の方の太陽。

 よく見たら、吹き上がる光と同じ色をしてるじゃん。


 光と太陽が重なり、太陽はむくむくっと大きくなった。


 ……あれ?

 思ったよりも、太陽の高度は低い?


 ピラミッドから多分……何百メートルとかそれくらいの距離にあるみたい。

 だったらあれって、太陽じゃないんじゃないの?


 私が考えている間にも、世界に変化が起きつつあった。

 太陽の強い光が降り注ぐと、ぬれ煎餅だった大地が変化していくのだ。


 それは、ちゃんとした湿地。

 緑茶じゃないちゃんとした水と、ぬれ煎餅じゃないちゃんとした地面。

 緑色の草まで、もりもり生えてくる。


 和菓子だった木々が、ちゃんとした木になる。

 世界が戻ってきたのだ。


 ちょっと向こうで、うおーとか、わー、とか聞こえてきた。


 怪獣フィギュアがいたところだ。

 そこに、ちゃんとした人間の姿の人たちがいた。


「も、戻った! 姿が戻った!」


「やった! 頭身が上がってる!」


「魔王の力が解けたんだ!」


 わあーっと盛り上がっているではないか。

 これは大変。

 どういう原理なんだろう。


「ねえトム」


「どうなんでしょうね」


「あっ、トムがヒトデのままだ!!」


「なんでなんでしょうね!?」


 謎だ。


 怪獣フィギュアの姿から解放された人々が、こっちに笑顔で走ってくる。


「ありがとうございます、ナリさん!」


「あなたが太陽を蘇らせてくれたんですね! ありがとうございます!」


「まさか、遺跡にこんな力があったなんて……」


「大きな穴が空いてて危ないから、みんな近寄らないようにしていたんです。まあ、穴から落ちてもモヤモヤっとした網みたいなもので止まるんで、上がってこれるんですが」


 村の人たちも、ピラミッドの中がどうなっているかは知っていたらしい。

 だけど、操作盤が壊れていたもんね。

 私がいなければ、このピラミッドは再起動しなかっただろう。


「なんていうかこれ……。ファンタジーじゃなくてSFって感じがするんだよねえ」


「えすえふ?」


 トムは分からないか。

 というか、この世界には存在しない概念かも。


 私は村の人たちを率いて、再びピラミッドの奥へ向かった。

 内部が光り輝く、明るいピラミッド。


 村人たちは大いに驚いている。


「こんなに通路が明るいなんて……」


「まるごと、魔法の建物だったんだなあ」


「魔法なんて迷信だと思ってた……」


 口々にそんな事を言っている。

 多分、リビングドールたちの間では、魔法みたいなものも存在しないんだろう。


 あったとすれば、彼らに降り注いだ魔王の力か。


「みんなは、このピラミッドで何か見つけたりとか気づいたりとかしなかった?」


 私が問うと、村人たちが一斉に首を傾げた。

 そして、めいめい何か思い出して話し始めたり、家に戻って何かを持ってきたりする。


「これ、落ちてた板なんですけど。曇ってますけどこう言う半透明なのは珍しくて」


「へえ、タブレットじゃん。……そう言えば、透明な板って散水塔でしか見てないね。この世界、ガラスとかプラスチックを作る技術が無いんだ」


 気づきを得る私。


「ナリさん、こっち、落ちてた棒なんですけど、凄く固いのに先端が丸いから、何に使うか分からなくて」


「タッチペンじゃん!」


 色々見つかるぞ。

 せっかくなので、これらは吸引した。


 キュイイイイイイイインッ!!


「おおーっ!!」


「本当に吸い込んだ!」


「お腹の中どうなってるんでしょうね!」


「レディ相手にセクハラだよ!」


 受けたなあ。


◯お腹の中

 壊れたタブレット

 タッチペン

 光


◯レシピ

 世界端末


「どーれ! 錬成!」


 光がポンっと生まれた。

 それは、真新しい端末とタッチペン。


 端末が光り輝き、操作盤も呼応するように光る。

 すると、端末の画面に何かが映った。


 ドーナツ型の図形だ。

 その中で、二箇所の点が光っている。


 拡大してみると、一つは花束の形をした建物。

 もう一つは、ピラミッドの形をした建物。


 散水塔と、ここじゃん。

 そこが光ってる。

 で、あと三箇所、光が消えている点があった。


 それぞれの点の下、ドーナツ型の図形の中心近くを、光る太い線が流れている。


 画面に文字が表示された。


『コロニー・アルケイディアの爆発を回避しました。一時的な回避に過ぎません。あと三箇所のエネルギーラインを解放して下さい』


 よく分からないことが書いてあるなあ。

 ……もしかしてこの世界って、ドーナツ型をしていたりするわけ?


 スイーツに変えられてしまった世界がドーナツ型って、よくできている。

 私はちょっと笑いながら、残る三箇所を拡大しながら調べてみた。


 ふんふん、水のないガラスの海と、金属でできたビルみたいな山と、工場ね。

 目的地は決まったみたい。


「ナリさん、我々は世界の真実の姿を目にしているのかも知れません!」


 トムが興奮気味にまくしたてた。

 うん、と私も頷く。


「少なくとも、ここが星じゃないって分かった。星じゃないところに魔王が来て、一気に世界を変えちゃったら、そりゃあ大変だ。……はて、じゃああの神様ってなんだったんだろう?」


=================

世界の姿が明らかになるのです

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る