第17話 太陽が沈むピラミッド④
ピラミッドの床はホコリまみれ。
だけど、ガレキは全く落ちてない。
つまり、内部が壊れたりはしてないってことだ。
真っ暗だけど、暗視装置があるから問題なし。
天井は高くて、通路の幅もそれなりにある。
「壁はツルッとしてるし、明らかに文明が進んだ感じの構造物だよねえ」
謎だ。
「こんな巨大な建物が存在していたんですね。僕らリビングドールのサイズに合わせてあるように見えます。ということは……向こうの遺跡で、僕らを作ったのが人間だったなら、人間もこの建物を使っていたんでしょうね!」
「そうだねえ。なんのために使ってたんだろう。ピラミッドって言われてたけど……それって、私の世界だと王様のお墓なんだよね」
「お墓……? ああ、埋め立て施設のことですね」
リビングドールにお墓という概念はないらしい!
動かなくなったら、地面に埋めてしまうのだそうだ。
すると、リビングドールを構成する有機物が分解され、残った無機物は木の根が絡まったり、草花の土台になったりするとか。
私が今まで見てきた風景の中でも、ちょっとした丘とかはリビングドールの埋め立て施設だったりするそうだ。
なるほど、文化が違う……。
「僕らリビングドールはこういう大きな物を作れないんです。そういうイメージが出てこないので。決められた暮らしをきちんとして、丁寧に暮らすのがリビングドールなんですよ」
「ははあ、それで魔王に変えられても、反抗できないでぬいぐるみ村で生活してたんだねえ」
「そういうことです」
「あれっ? だったらどうしてトムは私についてくるの?」
「あっ、言われてみれば……。なんででしょうね?」
リビングドールってロボットみたいなものだから、エラーが起きてるんだろうか?
だとしたら、旅の道連れができたことは私には嬉しいけど。
一人旅はイメージするに嫌じゃないけど、それは観光旅行ならの話。
こういう命の危険がありそうな旅が、異世界初心者の私一人なんてゾッとする。
ヒトデのトムがいてくれて、本当に助かったなあ。
「あっ、ナリさん! 足元! 気をつけて下さい!」
「おっと!」
言われて気づいて、私は立ち止まった。
そこから先は、ゆるやかに下り坂になっている。
通路が終わり、恐らくピラミッドの中心にたどりついた頃合いだ。
広大な空間になっていた。
空間の中央にはものすごく大きな穴が空いていて、下り坂はそこに向かって続いている。
そして、穴をぐるりと囲むように、通行できる道が存在していた。
「あ、一応手すりがある。でもボロボロになってそうだなあ。えいっ」
「あっ!! ナリさんのチョップで手すりが割れた! なんということを」
「乙女の腕力で砕ける手すりなら、危なくて寄りかかれないじゃん。早く分かって良かった良かった」
「ナリさんの腕力は結構強めなのでは……?」
遠回しにゴリラパワーとか言われてる気がする……。
さて、トムとのやり取りはここまでに。
探索探索……。
なんとかして、空に掛かっているチョコエッグを取り除く手段を見つけないと。
私は慎重に、下り坂を進むことにした。
穴に落っこちないように……。
「ウワーッ」
コロリン、と転げ落ちたトム。
危ない!
「ちょっとだけ吸引!」
キュインッ!
とトムを吸い込んで、唇のところで止めた。
「もごもご」
「た、食べないでくださーい!」
「食べないよ!?」
トムをまたフードに戻した。
吸引、結構便利かもしれない。
さーて、穴の中には何があるだろう。
私はそーっと身を乗り出して覗いてみた。
真っ暗……ではない。
なんだか、モヤモヤとしたぼんやり光るものが底の方に渦巻いている。
強い光というわけではないから、穴の外まで漏れてこなかったのかも?
あれはなんだろう。
「ナリさん! 横に何があるようです!」
「ほんと? ほんとだ。なんか……操作盤みたいなのがある。真っ暗なのによく見えたね」
「ナリさんと一緒にいると、僕もナリさんと同じように夜目がきくみたいですね!」
それは不思議。
操作盤を見つけたのはお手柄だ。
立ち上がり、操作盤に取り付いてみた。
どれどれ……?
……壊れてるな。
表面の板も、触るとボロッと崩れたりする。
風化してるのだ。
「これは……やるしかないでしょう」
「はわわ、またナリさんのバイオレンスが炸裂するんですね」
「人聞きがわるーい!」
私は手すりのところまで戻り、「ていっ!!」手すりをチョップで割った。
そして頑丈そうなところを持って、操作盤まで戻り……。
「うりゃ!!」
操作盤を思いっきり殴った。
砕け、飛び散る操作盤の欠片。
「吸引!」
キュイイイイイイイイインッ!!
思いっきり吸い込む。
すると、残っていた土台まで吸引できたようだった。
どーれどれ?
◯お腹の中
操作盤の破片×たくさん
手すり
闇
手すりまで吸い込んでしまった!
まあいいか。
一緒に錬成すればいいや。
◯レシピ
太陽①操作パネル
「?????」
見慣れない言葉が出てきた。
太陽操作ってなに?
「ま、いいか! 作れば分かる! 錬成!」
私のお腹から、光が生まれた。
それが形を変えて、さっきまで土台があった場所に出現する。
太陽操作パネル。
そういう名前の機械が誕生したのだ。
土台のところに電源があったようで、そこからパネルが電気を吸い上げる。
というか、太陽操作パネルが誕生したことで、今までシャットダウンされていたピラミッド全体の電源が入ったみたいだ。
急に周囲に光が灯り始めた。
明滅するランプ。
横に走る光の線。
照明が瞬き、周囲は暗視装置じゃ眩しくて、とても見ていられないような明るさになる。
私は慌てて顔からそれを外した。
「ナリさん! なんだか絵が出ています! なんでしょうこれ」
トムが指し示したのは、パネルの上に出現していたモニターだった。
そこに、このピラミッドの構造が示されている。
世界の底を流れる、エネルギーラインというのがあり、これを打ち出すことで太陽とつなげる……。
ふむふむ。
「よく分かんないから、やっちゃおうか」
「ナリさん、慎重に慎重に……!」
「えーい!」
ポチッ!
「ウグワーッ!! 思い切りのよさ!!」
悲鳴を上げるトム。
だけど、何事もやる前から怖がってたら始まらないだろう。
私が押したボタンは適当なものじゃなく、操作パネルの中で一際強く光っていたものだ。
すると、光がパネルを流れ、そこから土台へ。
そして穴の底へと下っていく。
ゴゴゴッと何かが動く音がした。
光るモヤが、ゆっくりと開いていく。
あれは、モヤじゃなくてエネルギーラインをせき止める門だったのだ。
そしてモヤを通して見えていたのは、エネルギーラインの光だった。
それが今、穴を駆け上ってくる。
やがて……。
光が巨大な柱になって、私たちの眼前を上っていった。
近くにいるだけで暑い!
私は慌てて坂道を駆け上がった。
光はピラミッドの頂上から吹き出し、そこに引っかかっていたチョコエッグを直撃!
溶かし始める。
周囲は濃厚なチョコの匂いに包まれ、お腹がすかないはずの私は、腹の音の幻聴を耳にするのだった。
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ピラミッドの機能開放ですぞ!
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