第16話 太陽が沈むピラミッド③

 暗視装置を使いながら、ピラミッドの周りを見て回る。

 一段一段がとても大きくて、乗り越えていくのは大変そうだ。


 私のような一般的な女子では難しかろう……。

 陸上男子くらいのパワーが欲しい。


「うーん、これは侵入が大変だぞお。外側から登っていくのも現実的じゃない……」


「なかなか難題ですね! 小さな階段や内側に入れるゲートなどがあればいいんですが……」


 私が首を傾げ、腕組みした上に乗ったトムも、多分首かな? と言うあたりをくにっと曲げた。


「ありますよ」


「だよねえ。やっぱりそういうのはある……あるの!?」


 怪獣フィギュアの人たちからいきなり言われて、私はびっくりだ。


「あるなら最初に案内してよー」


「そうですよ! このままではナリさん、風船のように膨らんで飛んでいくところだったじゃないですか!」


「トム、余計なことを言うな」


「飛べる!? ではその方がずっといいのでは……」


「膨らむのは私の美意識的に無理なので! なので!!」


 それに空には、風船になった私をつついて破裂させるような敵がいるかもしれない。

 これは自衛のため、慎重に動いてるんだよ、うん。

 私はそれっぽい理由を用意して納得した。


「なるほど、深い理由があったのんだなあ……。あえて飛ばない……そういう考えもあるんだな」


 怪獣フィギュアの人たちは深く頷き、それ以上は突っ込んでこなかった。

 ありがたい……!

 トムの千倍くらい乙女心が分かるな!


「こっちだぜナリさん。ぐるっと回り込んで行くとだな……ウグワーッ!!」


 あっ、怪獣フィギュアの人がぬれ煎餅の隙間に!

 拾い上げると、彼はひいひい言っている。


「元の体のサイズなら大丈夫なのに……! 俺らが自分の力でピラミッドに挑めない理由が分かってくるか!」


「よーく分かった」


 リビングドールはどうやら、本来はこの間のおじいさんのように、人間サイズらしい。

 それが魔王の力によって、小さなぬいぐるみやフィギュアに変えられている。

 彼らが住む家もまた、同じようなものに変化させられているから、一見して気付かなかったけど。


 遺跡はどうやら、魔王の力の影響を受けないようだ。

 この間の散水塔は大きかったし、ピラミッドはもっともっと大きい。


 私ですら侵入は厳しいなと思うサイズだから、フィギュアたちにはとても無理だろう。

 つまみ上げたフィギュアの人は、案内役ということで、ピラミッド攻略は私とトムがやることにしよう。


「僕もぬいぐるみなんですが、やっぱり連れて行かれるんですね」


「私の旅のお供なんだから、運命共同体でしょ」


 ということで、トムはフードの中に放り込んでおく。

 彼だって、枕になったり、ストレスが溜まったらむにむに揉んだりと大いに役立つのだ。

 それに話し相手がいるというのはとても大事。


「ここだここだ!! ここが小さい階段になってて、登っていける! 真ん中くらいに入口がある! だけどこの階段も、俺たちの姿じゃ登れない……!! 頼むぞ、ナリさん!!」


 怪獣フィギュアの人に頼まれ、任せろ、と力こぶを作るジェスチャーの私なのだ。

 ということで、怪獣フィギュアの人にはお帰り願う……。


 ちょっと歩いただけでぬれ煎餅にはまる人を、歩いて帰らせる?


「ちょっと我慢してね」


「おっ、何をする気だ? 俺を大きく振りかぶって……。おいやめろ、やめるんだ!」


「飛んでけーっ!!」


 私は彼を、他の怪獣フィギュアたちのところへ全力で投げた。

 こう見えて、授業でソフトボールをやっている時は、常にピッチャーだったのだ。


 ウインドミルよりも、スリングショットというこの投げ方が好き。

 ぶっ飛んでいったフィギュア。

 ソフトボールより軽いから、よく飛ぶなあ。


 あの体だし、地面はぬれ煎餅だし、落ちてもダメージは無いだろう。


「ウグワーッ」


「お帰りー」「お帰りー」


 着地したらしい。

 出迎えの声も聞こえる。


 距離にしたら大したことないんだな、ここ。

 トムやフィギュアからするとちょっとした旅行かもしれないけど。


 そう考えると、魔王がやってることってのは効果的な侵略なのかもしれない。

 小さくなりすぎて、遠征して魔王をどうにかする難易度が跳ね上がってるもんな。


「そうです。ここは頭身の高いナリさんにしか任せられないのです! さあ行きましょうナリさん! いざピラミッドの中へ!」


 うおおーっと叫びながら、ぶんぶん腕だか足だか分からないところを振り回すトム。

 元気元気。

 彼の気合に背中を押されながら、私は階段を登った。


 うん、通常サイズ。

 カンカンと足音がするから、ここも金属製だ。

 ビルの非常階段を登ってるみたいだな。


 もしかして、これってピラミッド型のビルだったりして?

 ありうる……。


 この世界、最初はファンシーなファンタジーだとばかり思っていたけれど、どうやらそうじゃないらしい側面がどんどん見えてきている。

 散水塔の中で、人間が生み出したリビングドールが次の時代の人間になったって絵があったもんね。

 そのリビングドールたちが、今はこんな小さなぬいぐるみとかに。


「待って。トムってもしかして、もとに戻ったら結構大きかったり?」


「180センチくらいですね!」


「私より頭一つ大きいじゃん!! 今はこんなに小さいのに」


「ウグワーッ! そこは頭ですウグワーッ!」


 案外元の姿のトムは、長身のイケメンかも知れないな……。

 今から好感度を稼いでおいてもいいかも知れないよね。


「ウグワーッ! 雑にフードに投げ込みを! は、外れた! ウグワーッ!!」


「あっ、トムが下に落っこちた! いけないいけない!!」


 拾ってあげる私なのだ。

 これで恩を感じてくれると嬉しいな……!


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優しみが理解できない女、ナリ……!


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