第15話 太陽が沈むピラミッド②

 怪獣フィギュアの村に到着。

 相変わらず、ちっちゃくてカワイイ家が立ち並んでいる。


 トムの村はぬいぐるみハウスばかりだったけど、こっちはビニール風船細工の村なんだね。

 ブニブニと揉んだら、そこから住民が「ウグワーッ! 私の家がブニブニされたー! 敵襲ー!!」と叫びながら転がり出てきた。

 いけないいけない。同じパターンだ。


「戦士ナリ! 家をあまり揉むと破けるかも知れませんので!」


「我々はビニール風船を補修する手段を持ちません!」


「あ、ごめんごめん」


 こっちの人たちも変えられてしまったことで、このままでは滅びを待つばかりの状態にあるのだ。

 魔王の支配はこうやって、人々から余裕とかを奪っていくのかもしれない。


「ナリさんは初めて見るものは、とりあえず触るタイプですよね」


「そうかも。なんか気になるんだよねえ」


 あとは、とりあえず吸い込むという選択肢もありかもしれない。


 私がやって来たことで、集落の住人たちがワイワイと集まってきた。


「おお、頭身が高い」


「魔王にやられていないということは、魔王を倒せるかもしれないお方だ!」


「どうか、その高い頭身で我らをお救いくだされ……!」


 この世界の価値基準、頭身の高さが本当に重要なんだね……。


「ねえみんな。詳しい話を聞かせてもらえないかな。どうしてここは真っ暗なの? 今もたいまつがあちこちにあるから、かろうじてモノが見えるけど……。コーラの川はちゃんと明るかったよ? これじゃあ、昼か夜かも分からない」


「それはですな」


 怪獣フィギュアの一体が口を開いた。


「話せば長いことながら、この地域の空に巨大なチョコエッグの半分が乗っかっているのです」


 一言で説明できちゃってるじゃん。

 そっか、あの空の真っ黒さはチョコエッグの中身だったのか!


 思った以上にものすごくずさんな真相だった。


「でも、チョコなんでしょ? 太陽の光で溶けたりしないの? この世界の太陽って二つもあるのに」


「それがですな……。太陽の輝きは今、とても不規則になっていると思われるのです。ちょうど、この湿地の空を通過する時、太陽はその輝きを弱めます。というのは……この地にあるピラミッドが、太陽の力を調節する効果を持っていたからなのです」


「ピラミッドが? 太陽の力を調節?」


 不思議な言葉が飛び出してきた。

 調節できる太陽って、それじゃまるで、人工物じゃない。


 この世界の人間はリビングドールで、でもその前に本当に人間が存在していて、滅びてしまった後にリビングドールが人間と呼ばれるようになって。

 魔王がお菓子やファンシーで覆い隠してしまった大地には、かつての文明みたいなものが沈んでいて。


 そして、太陽はピラミッドで強さを調節できる。


 この世界そのものが、作り物みたいな。


「いいや、後で考えよう! それで、そのピラミッドって……?」


「はい、案内します! 幸い、この地には魔王の手下がやってこれないので……」


「どういうこと? どうしてやってこれないの?」


 さっきから疑問ばかりだけど、とにかく不可思議な新情報が多いのだ。

 これに怪獣フィギュアたちがすぐ答えてくれる。


「ご存知ないですか? 和菓子化した地域では、魔王と魔王の眷属はその力を大きく落とすのです。どうやら……ピラミッドがあったお陰で、この地域は和菓子化して魔王が手を出せなくなったようなのですが」


「ふむむむむ」


 分かるような、分からないような。

 私は首を傾げながら、ピラミッドまで案内されていった。


 とにかく、この地域は暗い!

 ピラミッドは大きな建物らしいけれど、その姿が確認できないから、大きいかどうかも全く分からないのだ。


「暗いところでも見えるものが欲しい! ……それっぽいの無いかな?」


「それっぽい吸い込めるものですね! 皆さん! 何か暗いところでも見えそうなガラクタはないですか!」


 トムが呼びかけるけど、その呼びかけ内容は意味不明じゃないかな?

 怪獣フィギュアたちも理解できず、わいわいと騒いでいる。

 そして、騒ぎながらもピラミッドに到着したみたいだった。


 真っ暗な中、たいまつで照らされる範囲にぼんやり浮かぶ金属の壁。

 ちょっと上の方でかくっと曲がり、これが四角いブロックだと分かる。

 それが積み上がっているなら、確かにピラミッド。


 ピラミッド周辺は、幸いなことに雑然としていた。

 無機物のゴミみたいなのがたくさん転がっていたのだ。


「やった! これで何か作れる! みんな、離れててね。そうしないと吸い込んでわけがわからないものに錬成しちゃうから」


「アヒー」


 怪獣フィギュアたちは震え上がり、私の周りからサーッと離れていった。

 恐れすぎでは。


「じゃあいきます。吸引!」


 キュイイイイイイインッ!!


 吸い込む無機物。


◯お腹の中

 双眼鏡の部品

 ぬれ煎餅

 ネジ

 レンズの破片

 闇


◯レシピ

 暗視装置


「いけた! 錬成、暗視装置!」


 必要な材料が揃うと、レシピに表示されるっぽい?

 私のお腹の前に光が生まれ、そこからメガネ型の錬成物が出現した。


 一見すると、花粉症用のメガネみたいなんだけど。

 これを掛けてみたら、視界がパッと広がった。


 闇の世界が、白黒でどこまでも見通せる世界に変わったのだ。

 見える見える。


 そして、見上げると分かる。

 ピラミッドだ!

 金属製の巨大なピラミッドがそびえ立ち、その頂点に……チョコエッグの半分が引っかかって揺れているのだった。


 ……あれを引っ掛けて落とせば、世界に光が戻るのでは……?

 私は訝しんだ。


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この世界はSFではないのか……?

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