第13話 下れ、コーラの川を④

 コーラの川を吸い込む、デーモンカバ。

 デーモンって全体的に、インプより頭身が高い。


 よく見たら、このカバはリアルなカバにかなり近いかもしれない。

 肌がコーラの泡の色なだけ。


「しゅごごごごごー!!」


 コーラを吸い込むカバ!

 こんなに大量のコーラ、飲み込んで大丈夫なんだろうか。

 と思ったら、お尻から出ている。


 きたなーい!!

 許せない!!

 私は激怒した。


 システム上仕方ないからって、お尻から出すんじゃない!


「仕立て屋さん、こいつの正面に回らないで! ぐるぐる周りを走って!」


「了解です!」


 軽トラな移動店舗が、ざぶざぶとデーモンカバの周りをめぐり始める。

 私の戦い方は簡単。


 デーモンカバの周りに集まってくる、コーラカバを吸引!


 キュイイイイイイイインッ!!


 これをカバミサイルにしてデーモンカバにぶつける!


「ウグワーッ!?」


 ミサイル一発じゃ倒れない。

 凄く頑丈なやつだ。

 だけど、ミサイルを当てるとコーラの流れが止まる。


 そうすると、コーラの渦みたいなのがあちこちにできて……。

 そこから沈んでいた何かが浮かび上がってくるのだ。


 青い色をした箱みたいなのが出てきた。

 これはなんだろう?


「あ、これ、僕らがリビングドールだった頃によく使っていた脱水機ですね! ハンドルをぐるぐる回して脱水します」


「そうなんだ! じゃあもしかして、このコーラの川はリビングドールたちの街だったのかな……?」


「そうかも知れません。あっ、ナリさん! デーモンカバが体勢を立て直しました!!」


 いけないいけない!

 おしゃべりしてる暇は無かった。


 私はとりあえず、脱水機を吸い込んだ。

 これ、何かに使えるかな……?

 いやいや、使えるじゃないか。


 目の前に、コーラを飲み下しては排出しているカバがいるのだ。

 幾らコーラを出しても、体にはたくさんのコーラが含まれているだろう。


◯お腹の中

 コーラ

 カバ

 脱水機

 闇


◯大型脱水ローラー


「よーし、錬成!!」


 こちらに向き直り始めたデーモンカバめがけて、私は生み出したものをぶっ飛ばした。

 大型脱水ローラー!

 それが、デーモンカバの鼻先にぶつかる!


「もがーっ!!」


 デーモンカバが叫び、怒り、ローラーを鼻先で押しのけようとする……。

 でも、ローラーの本番はここからだ。


 ローラーの左右には、コーラカバが設置されていた。

 彼らが、必死にパタパタと走り始める。

 するとローラーが回転する。


「!? ウ、ウグワーッ!?」


 デーモンカバ、ローラーに巻き込まれていく!

 その巨体に含まれたコーラが、どんどん溢れ出してきた。


 昔の洗濯物は、こうやってローラーで物理的に脱水してたらしい。

 その勢いで、デーモンカバのコーラを脱水するのだ!


 めちゃくちゃにコーラを抜かれたデーモンカバは、へろへろでぺちゃんこになって飛び出してきた。

 これがコーラに着水したら、また元のデーモンカバに戻るかもしれない。


 私は思いっきり、空気を吸い込んだ。


「飛んでけ!!」


 錬成されるのは、猛烈な突風!

 それがぺちゃんこデーモンカバを巻き込んで、遥か彼方へと吹き飛ばしていった。


「ウグワーーーーーーーーッ!!」


 叫び声が聞こえる。

 そして、遠くで、パチーンと音がしてたくさんの火花みたいなものが見えた。

 この世界の火花は、星の形をしてるのだ。つまり、デーモンカバはやっつけられたらしい。


「よっし!」


 親分であるデーモンカバがやられたのを見て、コーラカバたちは慌てて逃げ出した。

 コーラの川から上がって、バタバタと陸地に走り去っていく。


「うおおおお! デーモン粉砕! デーモン粉砕!! 最強! 最強!」


 まーたトムがヒートアップして、私の服の上で飛び跳ねている。

 服の上……?

 あ、パーカーのフードに入ってるのか!


 これ、フードじゃなくてトム入れかも知れない。


「トム、見た目はファンシーなお星さま型だけど、時々発言がバイオレンスになるよね」


「眼の前でバイオレンスな勝利をみせつけられると、流れていないはずの血が沸き立ちますね」


「バイオレンスな勝利!」


 一体なんのことかしら。


「いや、お見事です! これでコーラの川は平和になることでしょう! ナリさんがこうして、次々にデーモンをやっつけてくだされば、魔王が直々に出てくるしかなくなりますから」


 仕立て屋さんは機嫌よく、軽トラのアクセルを吹かした。

 コーラの川を快調に進む。

 もう、邪魔をする者なんていない。


 時間は完全に夜。

 さっき吸い込んだ中に闇が入ってたし。

 派手な労働をした後は、疲れて眠くなってくる。


「ワタクシが運転しますから、ナリさんは寝ていてください。世界にはナリさんの助けを必要とする人たちがたくさんいます。ワタクシは世界を旅しているので、それがわかるんです。そこまでお連れしますから……」


「そう? じゃあ、お言葉に甘えて……」


 私は移動店舗の助手席に座ると、すぐに眠ってしまった。

 フードに入っているトムが、いい枕になる。

 むぎゅう、とか聞こえたけど気にしない。


 夢の中に入る途中、仕立て屋さんのつぶやきが聞こえた。


「世界は魔王によって変えられてしまいました。太陽が登らなくなってしまったところもあります。そこを救うことができれば、世界を巡る二つの太陽は本当の輝きを地上に届けてくれるでしょう。どうか……湿地のピラミッドを解放して下さい……!」


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次なる目的地がポップアップ!


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