第12話 下れ、コーラの川を③

 仕立て屋さんが、再生した移動店舗を使って作業に取り掛かる。

 ペースが速い速い。


 すごい勢いで服が仕立てられていく。

 これって、一種の魔法みたいなものなのかもしれない。


 私はと言うと、制服を脱いで干している。

 水洗いしたいなと思ったら、なんとコーラを吸引すると糖分だけ錬成できることが分かり、時間差で水を錬成できたのだ。


 作り出した水でじゃぶじゃぶと制服をすすぎ、コーラを落とし、日に当てて乾かす。

 ううー、下着姿ではなんとも心細い。


「ふむふむ」


「トム、何がふむふむなの」


「ははは、ぬいぐるみの身では何も感じませんが、それでもナリさんがおきれいであることは分かりますよ!」


「お世辞言ってー」


 ヒトデの人をつっついたりなどした。


 作業の間、コーラカバが寄ってくることはなかった。

 目につくカバはみんな吸ってミサイルにした気がするし、きっと警戒してるんだろう。


 そのまま近寄らないでいて欲しい。

 無駄な争いは避けたいもんね。

 ところで、魔王の眷属みたいなのを吸い込んだりしても、殺生になったりするもんなのだろうか?


「どう思う?」


「ならないんじゃないですか? みんなミサイルにして絶滅させましょう!! うおおお、魔王軍絶滅! 魔王軍絶滅!」


 ヒトデのトム、魔王に関することだと言動がバイオレンスになる。

 あまり強い言葉を使うと、雰囲気がささくれ立つので、私はトムのお腹をむにむにするなどして時間を過ごすのだった。


「ウグワーッ! パンヤが」


「私の落下を受け止めておいて、パンヤ出てこなかったじゃない。ほんとは出ないでしょ」


「それは僕も不思議ですね。僕はとても頑丈だったのかも知れません!」


 こんなお喋りをしつつ、二つの太陽が世界の両端に差し掛かる、日暮れ。


「できた!! できましたぞー!!」


 仕立て屋のカバさんが飛び上がった。

 ついに完成!


「どれどれ……!? うっわー!」


 それは、ピンクと黄色で作られたカワイイ衣装だったのだ。

 黄色のシャツとスカート、ピンクのパーカー。

 フードにはなんかくりくりした目がついてるんだけど。


 そして、シャツのお腹部分がぱかっと開くようになって天、なるほど、錬成の勢いで開くからいちいちめくらなくていいんだな。

 これは私専用の衣装だと言っていいだろう。


「なんでこんな極彩色に?」


「染料が無かったので、生地のままの色ですよ。ワタクシ、素材の良さを活かしながらデザインするのが得意なんです。上等な生地ですから、コーラくらいでは痛みません。早速試してみますか」


「試す試す!」


 こうして、私とトムは仕立て屋さんの移動店舗に乗り込んだ。

 この店舗、軽トラに見えて水陸両用車両だった。


 コーラの川にざぶんと入り込み、明らかに焼き芋やさんっぽい煙突から煙を吹きつつ、ガンガン移動していく。

 なお、煙突には私の制服をくくりつけ、絶賛乾かし中。


「夜までに安全なところに行かなければなりませんからね。あなたには梅雨払いをお願いします!」


「任された!」


 前方から出てくるのは、コーラカバの大群。

 しかも、今までとは種類が違うみたいだ。


 コーラをしゅごごごごっと吸い込んで、玉にして吐き出してくるやつ。

 コーラをお尻から吹き出しながらジャンプしてくるやつ。

 コーラの波を起こして吸い込んでくるやつ。


 コーラカバの見本市だ。


「うおおおー! やってしまいましょうナリさん!!」


「よし、やるよ! 吸引!」


 キュイイイイイイイインッ!!


 どんなコーラカバだろうと、吸い込んでしまえば一緒だ。

 それに、コーラカバが吐き出したコーラの玉も吸い込めることが判明した。


 これを吸い込んで、コーラカバに「錬成!! コーラキャノン!」打ち返す!

 高密度のコーラをぶつけられて、コーラカバが「ウグワーッ!?」と吹っ飛んでいった。

 空中で星になって消える。


 あの星になっちゃうのは、魔王の眷属だって言う証なのかも。


 コーラをお尻から吹き出してジャンプするやつは、ちょっとあのコーラを吸い込みたくないなあ!


「ナリさん、空を飛ぶ相手には空中戦ですよ! 空気吸って!」


「い、いやだああああ」


「わがまま言わない!」


 トムに急かされ、私は空気を吸って膨らんだ。

 うわー、乙女をボール状にして飛ばすなんて、なんということだ。


 一刻も早くこの状況を終了させるため、私は空中で、カバをめがけてお腹の中の空気を全部ぶっ放した。


「ウグワーッ!!」


 空飛ぶコーラカバが破裂して、星になる。

 落下する私。

 だが、一度膨らんで恥を捨てたのだ。


 空気をちょいちょい吸って、ほどよい膨らみになりながら落下速度を軽減する。

 いやだなあ!


 最後は、コーラの波を起こすカバ。

 波に巻き込まれた移動店舗が、そのカバに吸われていく。


 こいつが凄く大きいのだ。

 小山ほどもある。


「ナリさん! このカバがデーモンです!」


「あ、そうなんだ! じゃあ今までのカバがインプってこと?」


 どうやらそうらしい。

 魔王の手下は、インプとそれを束ねるデーモンという組織になっている。

 この吸い込みカバをやっつければ、コーラカバはおしまいということ。


「うおおおー!! ワタクシの店舗を守ってくださいー!!」


「任せて! 仕立て屋さんの作ってくれた衣装の力、見せてあげる!」


 そのためには、吸い込むものを探さなくては、なのだ。


=================

コーラの川解放戦

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る