第11話 下れ、コーラの川を②

「ワタクシ、仕立て屋をしてまして」


「おおー」


 ドンピシャなのが来たなあ、と私は感心した。

 たくさんのコーラカバに埋もれていた、ビニールカバの人はリビングドールだったのだ。


 陸に上がって、彼のコーラを拭う……。

 拭う布がない。


 その辺りの草や木を吸引して。


 キュイイイイイイイイイインッ!!


◯お腹の中

 草類

 樹木類

 光


◯レシピ

 木綿の布


 繊維を取り出して、錬成!

 私のお腹の前に光が生まれ、そこから布が出現した。

 これでビニールカバを拭く。


 カバの仕立て屋さんは、私をじーっと見た。


「その力の原理がさっぱりわかりませんが、お腹の服をいちいちめくらないといけないので……?」


「そうなんだよー。不便なの! しかもこれ一つしかなくって」


「なるほど! ではワタクシの出番ですな!」


「凄い自信ですよ!」


 仕立て屋さんの勢いに、なんかトムの語勢も良くなる。


「仕立て屋ですから!! ワタクシプロですから!!」


「そのプロがどうしてコーラの川に……?」


 私は冷静なので、ちゃんと質問ができた。

 カバの仕立て屋さんは、ちょっとしょんぼりした風になる。


「話せば長いことながら……」


 長くなるらしい。


「そこにワタクシの移動店舗があったのですが、コーラの川が増えたので巻き込まれて流されました。以上です」


「簡潔!!」


 これ以上ないくらい分かりやすかった。

 つまり、コーラの川の底に彼の移動店舗が沈んでるわけか。


「店舗が必要?」


「はい。道具がもろもろありますから」


「なるほど……。だったらカバを錬成してコーラの川に潜れるものを作らないとね」


「ナリさん、気軽に錬成と言いますけどそんなにカバを使っていいものなんですか?」


「言われてみれば……。動物愛護上よくないかも」


 これに対して、カバの仕立て屋さんがニッコリ微笑んだ。

 ビニールなのに表情豊か!


「大丈夫です。一見してカバに見えますが、あれはコーラの川に最適化した魔王の眷属です。魔族です。動物じゃないので錬成しても構いません」


「あ、お墨付き! じゃあやっちゃおう。カバのみなさーん」


 私は声を張り上げる。

 すると、コーラカバが集まってきた。

 みんな好戦的で、ぐわーっと口を開けて私に噛みつこうと迫ってくるのだ。


「吸引!」


 キュイイイイイイイインッ!!


 大半を吸い込んだ。

 あっという間に仲間が消えたので、残ったコーラカバは口を開けたまましばらく固まっていた。

 そして慌ててコーラの中に逃げ込む。


「一回吸引すると、錬成するまではどうしようもないのに」


「ナリさんの力、知らないでいると無敵の吸引力にしか見えませんからね……。あ、ナリさんの制服が変化しますよ」


「あっ! カバを吸引したから、カバ仕様になるみたい」


 私の制服が、まるで潜水服みたいになった。

 あちこちカバっぽい意匠があるし、色がカバだ。

 手足とかかなり太いし。


「じゃあ、行ってきます」


「ナリさん思い切りがいいですねえ。行ってらっしゃい! カバにお気をつけて!」


「頼みますぞ、ワタクシの移動店舗ー!!」


 頼まれた!

 私はコーラの中を、すいすい泳いでいく。

 潜水服の横に、空気メーターがあって、これがみるみる減っていくのだ。


 無くなる前に移動店舗を見つけなきゃ。

 途中、コーラの中を泳ぎ回るカバに邪魔される。


 潜水服だと、錬成したら破けちゃわない?

 荒事は避けたい!


 でも、コーラカバも水中で口を開けると、無限にコーラが流れ込んでくるので噛みつく動きが遅い。

 私はゆるゆるとこれを避けて、コーラカバの目に指を突っ込んだ。


「ウグワーッ!!」


 コーラカバがじたばたしながら急浮上していく。

 目が弱点だったかー。


 妨害をやり過ごした後、空気の残りを確認。

 あとちょっとある……!


 私はコーラの水底に到着した。

 コーラだから透明度が低いなあ……


 一瞬でもこれをのけられれば……。


 ……はっ!!

 私の脳裏にいい考えが浮かんだ!


「カバミサイル!! ここで炸裂して!!」


 潜水服を破って、錬成カバミサイル!

 私のお腹の中のカバもいなくなったので、ただの制服に戻る。


 だけど、それと同時にカバミサイルが爆発した。

 コーラが吹っ飛ぶ。

 私も吹っ飛ぶ。

 コーラ底にあった何かも吹っ飛ぶ。


「うーわー!」


 何かと一緒に、私は岸辺に落っこちてきた。


「あぶなーい! ウグワー!!」


 柔らかいものがクッションになって、私を受け止めた。

 これはトムだな。


「ありがとうトムー!」


「パ、パンヤが出そう!!」


 これでパンヤ出ないの、相当に頑丈だねトム。


「うおーっ! ワタクシの移動店舗ー!! 粉々になってるー!!」


 カバの仕立て屋さんの叫び声が聞こえた。

 至近距離でカバミサイルの爆発を受けたからね。

 バラバラになってしまうのは仕方ない。


 だけど、ここには私がいる。


「任せて、仕立て屋さん! 吸引!! そして……錬成!!」


 吸い込んだ移動店舗の残骸を吸い込み、レシピを確認してから錬成した。

 すると……。

 私のイメージする移動店舗の形をした何かが誕生したのだ。


 これは……焼き芋屋さんかな……。

 石焼き釜のところが仕立て道具の格納庫になってる感じの。


「……全然違う姿になりましたが? あ、いや、道具は一通り揃ってる。やってやれないことはないですね」


 焼き芋屋の軽トラになった移動店舗。

 これを確認した仕立て屋さんが、オーケーサインを出した。


「じゃあ、これで私の服が作れる……!? 今ので、制服がコーラでベトベトになっちゃったんだけど!」


「やってやりましょう!」


「ナリさんが風邪をひく前に完成させねばですね!」


「風邪というか、べとべとなのがすっごく嫌なんだけどね!」


=================

移動店舗誕生である。

いよいよ、錬成用の衣装が作られます。


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