第10話 下れ、コーラの川を①

「ありがとう、ありがとう! これで花畑が復活するじゃろう……! 魔王め、見ておれ! ここから世界を花畑で包んでやるのじゃ! 魔王の世界を花畑で支配仕返してやるー!!」


 おじいさんがヒートアップしている。


「頑張ってね! あ、なんか落ちてくる」


 遺跡の一部が外れて、下に落っこちてきた。

 おじいさんの目の前にズドーンと落下したので、笑っていたおじいさんが固まった。


 少ししてから、「ウ、ウグワーッ!? いきなり死ぬところじゃったー!!」と叫ぶ。


「なんだろう。再生させたけど、まだ作りが甘いところがあったのかな? それとも……」


「ナリさん! これ、遺跡の部品じゃないですよ。形がぜんぜん違う!」


「ほんとだ。これってなんていうか……船?」


 ちょっとボートっぽい形をした板だ。

 遺跡の一部として錬成したみたいだけど、もう一回錬成すれば……。


「一度出したものをもう一回吸い込むんですね」


「トム! 言い方あ!」


 ということで、板を吸引する。

 ついでに、花畑の一部ときな粉も吸った。


 キュイイイイイイイインッ!!


「わしの花畑ーっ!!」


「ちょっとくらいいいじゃない。どーれどれ!」


◯お腹の中

 ボート

 花畑

 きな粉

 光


◯レシピ

 お花のボート


「よーし、錬成!!」


 ピカッと光って、生み出されるのは大きめボート。

 船の回りはきな粉っぽいのがついていて、コーラの川にザブンと入ると粉のパワーで浮いた。

 うわあ、すっごい炭酸が出てる。


 中には花畑みたいに緑が敷き詰められていて、座り心地が良さそう。


「じゃあおじいさん、私たちはこれで! 元気でね!」


「お、おう! お前さんがたも元気でな! これからどこに行くかはしらんが、行く先に幸いがあるようにな!」


「生き残ってくれよ! 僕たちがこれから魔王をやっつけるんだからな!」


 トムが威勢よく、私の頭の上でジャンプした。

 そうしたらポニーテールにぶつかって、ぼいーんと弾かれた。


「ウグワーッ!」


 飛んでいったトムが、コーラの川にポチャっと落ちた。


「ウグワーッ!」


「あーっ、コーラ染みちゃう、染みちゃう」


 慌ててトムを拾い上げたら、ボートの上の重心が変わったせいか、船が動き出してしまった。


「あーっ、オールがない! オール無いじゃない! 作るの忘れてた! ストップ! ストーップ!」


「ウグワーッ!? ナリさん力入れて絞るのやめてー! パンヤが出る! パンヤが出ちゃう!」


 大騒ぎしながら進んでいく船を見つめながら、なんかおじいさんだけ感動してるみたいな表情なのだった。


 しばらくボートに揺られながらコーラの川を下る。

 これ、どこまで続いているのかな。


「これで魔王の城まで一直線ですね!」


 舳先に載せられて虫干ししているトムが、グッと、頭なのか腕なのか分からない部分を曲げて宣言した。


「いやいやいや、違うでしょ」


「違うんですか!? まさかナリさんには、まだ何か遠大な計画が」


「新しい服を手に入れるの。全てはそこからだよ」


「服ぅーっ!?」


 なんだその声は。

 いいじゃないか。


「私の制服、これしか持ってきてないんだから。何かのはずみで破けちゃったら悲劇でしょ。えっ、吸い込んで錬成すればって? その時の私、裸じゃん! ということで、錬成を使っても破けない服を作ります。川を下ってればそれっぽい材料もあるんじゃない?」


「なんという個人的な理由……!!」


「私は徹頭徹尾、個人的な理由でしか動いてない!」


「な……なんという……! あ、でも言われてみればそうですよね」


 お分かりいただけたようで嬉しい。

 和解した私たちは(トムが諦めたとも言う)、平和的に川を下っていった。


 まず発見したのは、水辺(コーラ辺)でコーラを飲むカバみたいな生き物だ。


「あれの毛皮は……。服じゃなくて鎧になっちゃうよな」


「ナリさん、いきなり動物を見て服にすることを考えないで下さい!」


「ごめんごめん。つい」


 カバみたいな生き物はぼーっと私たちを見送る。

 あれ、なんなんだろうなあ。


 少し進むと、コーラの川幅が広くなってきた。

 これ、もっとコーラの水量が増えるってことがあるの!?


 もう、見渡す限りコーラなんだけど。

 そしてコーラの中を、さっきのカバみたいなのが泳ぎ回っていた。


 彼らは私のボートを見つけると、ワーッと寄ってきて、ガーンと体当たりを始めた。


「わー!」


「ウグワーッ!!」


 またトムが落っこちそうになったので、慌てて拾い上げて懐に押し込んだ。

 まだしっとりしてる。


「こ、攻撃的ですよこいつら!」


「仮にコーラカバと呼んでおこうかな。カバって結構、怖い生き物だって言うもんね。だけど私も、ここで船をひっくり返されるわけにはいかない! だって、これしか服が無いから! コーラまみれはごめんだよ! 情け容赦のない吸引!!」


 キュイイイイイイイインッ!!


 周囲のカバを次々吸い込んでいく。

 すぐ目の前にいる仲間が消滅し、カバたちが驚愕して止まった。


◯お腹の中

 コーラカバ×8

 コーラ

 光


◯レシピ

 カバミサイル


「よし、錬成カバミサイル!」


 吸い込んだカバをミサイルにした特大のがぶっ放された。

 カバたちが吹っ飛んでいく。


「ぶ、物騒! 吸い込んだ生き物すぐにミサイルに変えるのどうなんですかナリさん!」


「緊急事態だとそうそう思いつかないんだってば! 既存のアイデアの焼き直しだよ!」


 こうしてカバを退けたら、カバの影から木片みたいなものが流れてきた。

 そこに、誰かがしがみついている。


「お……お助けえ~!」


 それは、喋るビニール製のカバのおもちゃだった。


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炸裂、カバミサイル!


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