第8話 きな粉の砂漠に花束を②
それはそうと、外の花は萎れてたみたいだった。
これって、やっぱりきな粉じゃ花が育つような栄養が得られないということ?
「雨が降らなくなったのじゃ」
おじいさんが理由を告げた。
「魔王が世界を変えてから、しばらくは遺跡の回りにも水があった。だが、それはすぐに枯れ……いや、水ではなく清涼飲料水が流れてくるようになった」
「凄いのが流れてるなあ。どれどれ?」
遺跡の裏手に川があるそうなので、見てみた。
なるほど、きな粉の砂漠の中を、コーラの川が流れている。
これでは草花は育たない。
それはそうと、ちょっと飲んでいこう……。
あーっ、スカッと爽やか!
生き返るー。
「ナリさん、めちゃくちゃごくごく飲みましたね。警戒とか無いんですか……あっ、どうせお腹の中で錬成するからお腹壊れませんもんね」
「そんな、私のお腹をヘンなモノのように言ってー」
でも、気になるのでチェック。
◯お腹の中
コーラ
入ってる!!
錬成できちゃうかあ。
どれどれ……?
お腹の前に再び光が生まれる。
そこから出現したのは……。
ペットボトル入りのコーラだった。
「お腹から錬成したものをまた飲む気にはなれないなあ……」
私はこれを、そっとコーラの川に戻した。
「なんかすっごいことしなかった……?」
後ろからおじいさんが、こわごわ聞いてきた。
「あ、私、ああいうふうに食べたものを錬成して別のものにできるんだよ」
「なんと。それは、食べ物ではないものでもいけるのかね!?」
「いけるねえ」
泉の周辺を吸い込んだり、インプを吸い込んだりしたのを思い出す。
だから、何だっていけるはずだ。
「だったら!」
おじいさんが走っていって、遺跡の壁をバーンと叩いた。
「こいつを吸い込んで、その錬成というのをしてくれんか! これはな! もともと、この辺りのシンボルだったんじゃ! 人間とリビングドールが集まって、そこに水を撒いて虹を作るための機械じゃった! じゃが、はるか昔に壊れてしまった」
なんだか思った以上にメルヘンな遺跡だった。
もともと砂漠だったというこの土地も、砂漠というよりは砂丘みたいなものなのかも。
人間が生きてた頃は、観光地だったとか?
「まるで人間というのを見てきたように言いますねえ」
トムが頭だか腕だか分からない部分をくいっと曲げた。
首を傾げてるんだろうか。
「でもこれは寄り道ですよ! ナリさん、僕らは魔王のところにまっすぐ行かないと! 救わねば、世界!」
グッと、さっき傾げた部分を巻いて握りしめるトム。
そこ、頭じゃなかったんだ。
摘んで持ち上げてみたら、「ウグワーッ」と悲鳴をあげた。
だからどっちなんだってばよ。
まあいいか、と遺跡の前に立つ。
これは大きいなあ。
一息には吸い込めなさそう。
「一旦バラバラにしないと……」
「バラバラに!?」
おじいさんが衝撃を受ける。
だって、大きすぎるでしょ。
さっき私が吸引したキャンディーの橋だって、大きすぎてバラバラにしないと吸えなかった。
バラバラなら全部吸えた感じだけど。
ということは……。
「ちょっと待っててね。トム、行くよ!」
ヒトデのトムを雑に懐に突っ込む。
彼、ポケットに入れるにはサイズが大きいので、ボレロのボタンに引っ掛けておくくらいしか無いのだ。
後は彼がしがみついてくれるので、落っこちない。
私の枕兼、旅の相方。
しっかりくっついててよ。
「もしかして、インプを探しに行くんですか!」
「そう! だって、たくさんいそうじゃない?」
「そりゃあもう! あちこちでインプどもが悪さをしてますよ! ほら、あっちにも!」
遺跡をちょっと西に移動したら、すぐに砂漠が途切れた。
やっぱりこれ、砂丘じゃない!
そして砂丘の先には丘があり、これを超えたら砂浜で海だった。
海は普通の海なのね。
さすがの魔王も、海くらい量があるものをスイーツに変えることはできなかったみたいだ。
そこで、インプが集まって何かをしていた。
あっ、浜辺でウミガメをいじめている。
本当にろくなことをしないな、インプは!
「こらーっ!!」
私は叫びながら、丘を駆け下りた。
「カメをいじめるのをやめなさい!!」
「なんだなんだ」
「うわあーっ、頭身が高い!!」
「妬ましい! いやキモチワルいやつめ!!」
「吸引!!」
私はキレたぞ!!
「ウグワーッ!?」
吸い込まれていくインプ。
「ウグワーッ!?」
吸い込まれていくウミガメ。
「ナリさんストーップ! ストップストップ!!」
飛び上がったトムが、私の唇をお尻で塞いだ。
ヒトデのお尻?
お陰で、吸い込まれる寸前だったウミガメが、ポトッと背中から落ちてジタバタしている。
「ごめんごめん。ついカッとなって」
ウミガメを元に戻してあげた。
「おお、このご恩は忘れません。私の背中に乗れば海の中にある海底都市リューグーへ……」
「なんか新しい話が始まりそうだけど、今はそれどころじゃないから後でね」
「えっ」
ウミガメをその場に残し、私は遺跡へと戻るのだった。
おじいさんが、ハラハラしながら待っている。
私の姿を見て、彼の表情が明るくなった。
「戻ってきたか! それで、どうなんだ! 何か、どうにかする方法を見つけたのかね!」
「もちろん! おじいさん、そこは危ないから避けててね」
「避ける……?」
訝しげな顔をしながら、遺跡から距離を取るおじいさん。
よーし、これなら巻き込まない。
私はお腹の中を意識した。
◯レシピ
インプミサイル
「錬成、インプミサイル! 吹っ飛べ遺跡ー!!」
光が生まれ、そこからインプミサイルが発射された。
狙いは正確、威力は抜群!
見事に炸裂したインプミサイルは、遺跡を木端微塵に吹き飛ばしたのだった。
これを見たおじいさんが、
「ウグワーッ!?」
と叫んで、バターン!と倒れてしまった。
ショッキング過ぎたかもしれない。
=================
眼の前の目的のために、フラグが立っても一旦スルーする女子、ナリ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます