第7話 きな粉の砂漠に花束を①

 きな粉の砂漠。

 きめ細かくて凄くむせそうだなあ……と思っていたけれど、そもそも砂漠も砂のキメが細かいから、むせるんじゃないか?

 そこまで考えて、問題なしと言うことになった。


「ナリさん、吸引してなにか作ればいいんじゃないですか」


「あ、そっか」


 懐のヒトデに教えられる。

 こう言うときこそ、自分の能力を活用しなくてどうするんだ。


 私はきな粉を吸引する。

 キュイイイイイイイイイン!!


◯お腹の中

 キャンディーの橋

 きな粉

 強い光


◯レシピ

 きな粉避けの傘


 妙なのが生まれそうだぞ。

 強い光というのは、今まさに頭上で、二つの太陽がすれ違うところだからかもしれない。

 これが、この世界アルケイディアの真昼なのかな。


「まあいいや。とりあえず錬成! 日焼けするのも嫌だし!」


「ははあ、ナリさんに日焼けを気にする女子らしさが」


「あるよ!?」


 生まれてきたのは、赤白ストライプのおめでたい傘。

 日傘になるし、吹き付けてきたきな粉をくっつけて、私のところまで届かないようにしてくれる。

 これは便利だ。


 ざくざくときな粉を踏みながら、砂漠を渡る私なのだ。


 きな粉であるせいか、砂漠だというのにそこまで暑くないな……。

 いや、日傘のおかげだろうか?


 きな粉を使ってゴーレムも作れるかな?

 またあの可愛いゴーレムを生み出してみたい。

 だけど、儚い命だしなあ……。


「ナリさん! ナリさん!」


 代わり映えのしない道行を、色々思索にふけりながら歩いていたら、トムの呼びかけで我に返った。


「なになに? どうしたの?」


「ナリさん、あれ!」


 ヒトデが私の懐から身を乗り出し、腕だか頭だか分からない部分で指し示す先。

 そこには、きな粉の丘に埋もれるようにして、やっぱりきな粉色をした不思議なカタマリがあった。


 あれはなんだろう?

 そして、カタマリの回りに別の色彩がある。


 緑だ。

 きな粉の砂漠に、緑。


 カビかな……?

 

「カビじゃないわい!!」


 向こうから声がした。

 いっけね、声が出てた。


 そこには、なんと人間の姿をした老人がいた。

 彼は私を見て、目を丸くして驚く。


「な、な、な、なんとーっ!! ファンシーの大地に、まだ人間がおったとは……!!」


「驚くのは私だよ! おじいさん、なんで人間の姿をしてるの? あ、リビングドール?」


「うむ。この世界における人とは、リビングドールを指すのじゃ」


 よく見ると、関節部分とかが機械っぽい。

 きな粉が入り込んで大変だろうなあ。

 そう思ってたら、おじいさんは片足でジャンプしながら、関節に入ったきな粉をトントントンと叩いて追い出していた。


 すぐに出るのね。


「古いリビングドールは隙間も大きくなるので、案外こういう対策ができるんです」


「トムのお陰で変な知識を得ちゃったな」


 それはそうと、近寄ってみれば緑色のものが、きな粉に生えたカビではないことが分かる。

 これは……草だ。

 外の世界では装飾用モールになってしまっている草が、ここにはある。


「どうしてだろう……? 魔王がここには来なかったの?」


「いや、魔王は来たんじゃろうな。だからこそ、ただの砂漠がきな粉の砂漠に変えられてしまったのじゃ」


 おじいさんが遠い目をしてつぶやく。


「じゃが、ここには遺跡があった。わしは遺跡の中に潜っており、魔王の力から逃れられた。そしてこの草花も、わしが持っていた種から生えたものじゃ」


 そんなおじいさんの目が、私をじーっと見て固まった。


「……関節が分かれてない。ど……どういうことじゃ」


「ご老人、彼女はナリさん。僕らリビングドールとは違う種の人間なんです」


「な……なんじゃとお!?」


 おじいさんが驚いて小さくジャンプした。

 着地したら、全身の関節からきな粉がザーッと流れてきた。

 まだそんなに入ってたのか。


 彼は「おお、体が軽くなった」とか言いつつ、背後にあるきな粉色の構造物に向かっていった。

 扉がある。

 あれが遺跡なんだろう。


「私たちも行ってみよ」


「はい! あのご老人が元の姿のままであること、魔王の力が及ばないこと……。何か秘密が隠されていそうです!」


 トムは洞察力が高いなあ。

 とても助かる。

 私はまあまあ野蛮だからね。


 足元がきな粉の砂漠から、青々とした草原に変わる。

 そこで私は気づいた。


 おじいさんは草花と言っていた。

 だけど、この草原にはただ一つの花もない。


 草もちょっと萎れていて元気がなく、ただここに生えているだけで必死、という感じ。

 なんとかしてあげたいな。


 そう思いながら、私は遺跡の扉をくぐった。


「古来! 我らリビングドールは上位存在によって生み出された!」


 おじいさんが声を張り上げて、天井を仰いでいる。


「継ぎ目のない体を持つ、異なる人間! それが我らを生み出した!」


「ナリさん、よくある与太話ですよ。リビングドールは天地開闢からずーっとリビングドールだって言うのが最近の定説です」


 トムが囁いてくる。

 色々な話があるんだね。

 だけど、おじいさんに続いて天井を仰いだ私は、言葉を失った。


 天井はガラス張りのドームになっていて、張り付いたきな粉の隙間から二つの太陽が輝きをもたらしている。

 そして、ドームを囲む壁の曲面に、壁画が描かれていたのだ。


 そこにあったのは、工場の絵だった。

 人間たちが工場に入っていく。

 工場の機械から、人形が生まれる。


 人形が立ち上がり、人間たちと会話し始める。

 人間と人形が手を取り合う。


 街が燃える。

 人間たちが燃える。

 何もなくなる。


 機械だけが残って、機械は人形を生み出し始めた。


 そういう絵だ。

 これは与太話なのか。

 それとも、アルケイディアの過去の姿なのか。


 判別はつかなかったけれど、この世界がファンシーなだけの存在ではないと、私は確信したのだった。

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世界の姿が見えて来て、物語も動き出しますぞ



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