第6話 空から降りてきた魔王④

「ああーん? 魔王様の城に通じる、赤いキャンディーの橋を渡ろうとする不届き者がいるなァ」


 デーモンは、どこが目だか鼻だか分からない感じなんだけど、それが私をじろじろと睨んだ。

 そして、ハッとする。


「お……俺よりも頭身が高い……!? バカな……。魔王様に認められ、特別に高い頭身を得ている俺を超える……!? ま、まさかお前は、魔王様の影響下に無いというのか……!?」


「なんだかシリアスな質問してきてるけど、基本的に頭身が問題なんだね」


「魔王が何もかも頭身を下げてぬいぐるみみたいにしちゃうの、インプやデーモンも不満を感じてるらしいです」


「うわっ、何かあったら下から突き上げをくらうじゃん」


「聞こえているぞ! 我ら魔王軍の人間関係についてあらぬ噂をするのはやめろ!!」


 気にしてたらしい。

 でも、色々話してくれそうだ。


「ねえ、魔王ってパナンコッタって言うんでしょ? 空から来たってどういうことなの?」


「ふん、魔王様についていらぬ憶測をされても堪らんからな。いいかよく聞け! 魔王様は、宇宙より現れ、この星を羽化のための繭とするため降り立たれた! この星のチカラ全てを吸い上げた時、魔王様は真の魔王となり、再び宇宙へと羽ばたくのだ! もちろん星はおしまいだ!!」


「うわーっ! 星に寄生する虫じゃん!」


「なんだとー!! ゆるさーん!! かーっ!!」


 怒ったデーモンが、こっちに駆け寄ってきた!

 しまった、怒らせてしまった。

 これ以上の情報は得られないみたい。


「よし、じゃあ仕方ないな! 錬成!」


 私はシャツをめくりあげてお腹を出した。


「むっ、お腹が!! ウオッ光ってる!!」


 デーモンが反応した光るお腹から、スポーンと真っ黒な塊が出現した。


「錬成、インプミサーイル!!」


 たくさんのインプを一塊にし、ミサイル状に変化させた錬成物だ。

 これが、後ろからゴゴーッと火を吹いて、デーモンにぶつかった。


「ウグワーッ!?」


 爆発に吹き飛ばされるデーモン。


「やりましたよナリさん! 一撃だ!!」


 めくりあげられたシャツの上で、トムが踊った。

 私がシャツを戻したら、ストーンと下まで落っこちる。


「ウグワーッ」


「乙女のシャツの上で踊ってはいけない」


 地面にベターッと広がっているトムをつまみ上げ、再び胸元に入れた。

 ボレロって、ボタンひとつでジャケットを留める服なんだけど、ここにトムがちょうどフィットするんだよね。


 吹き飛んだデーモンまで近づいてみることにする。


「ふ……ふふふふふ……」


「うわっ、まだ動く! そっか、消えてないもんね」


「まさか、何もないところから破壊兵器を作り出してぶつけてくるとは……。魔王様にとってお前は脅威となりうる存在だろう……」


「結構元気だね。凄く喋る」


「しっ、余計なこと言うとまた情報が途切れますよ!」


 そうだった!

 トムに注意されて、私は慌てて口を閉じる。

 そして、ジェスチャーでどうぞ、続けて、と示した。


「だからお前にはここで死んでもらう! キャンディーの橋は、俺が死ぬことで一緒に崩れ落ちるようになっているのだ! ぬわーっ!!」


 あっ!

 ぬわーって断末魔を上げて消えてしまった!


 そして、キャンディーの橋にひびが入り、崩れていく。

 あ、いや。

 キャンディーってベタベタするものだし、ちょうど昼間だから太陽でちょっと融けていたみたいだ。


 お陰で、崩れかけのキャンディーはぺったりとくっついて崩れなかった。

 なんだかなあ……。


 私は悠々と橋を渡り終えた後……。


「吸引!」


 キュイイイイイイイイイインッ!!


 キャンディーの橋を吸い込んだ。

 あまーい!


◯お腹の中

 キャンディーの橋

 光


◯レシピ

 キャンディーの橋(真)


 真、だって。


「よーし、錬成!」


 吸い込んだキャンディーが、光の中から再生する。

 それは、真っ白な可愛い橋の姿をしていた。


 じっと見ていると、太陽の熱でも溶ける感じがしない。

 光を一緒に吸い込んだから、熱に強いキャンディーになったみたいだ。


 でも、なんとまだ私のお腹の中にキャンディーがある。

 大質量の物を吸い込んだから、しばらく残っているとか?

 それとも、何か法則性があるんだろうか。


「どうなんだろう?」


「おや? ナリさん、指先が伸びてません?」


「そお?」


 トムに言われて、手をひゅんと振ってみた。

 すると、指先がとろけたキャンディーみたいに、にゅーっと伸びていった。


「うわーっ!!」


 そして、伸びたキャンディー指がビスケットの木にぺったりとくっつき、今度はもとの長さに縮み始めた。

 私の体が引き寄せられる。


「あー、これは面白いかも! くっつく指先で移動できるみたい」


「吸い込んだものが、ナリさんの能力になるんですね! そう言えば、空気を吸い込んだときも風船みたいな姿になって浮かんでましたもんね」


「あの姿にはなりたくない……!」 


「でも便利ですし、空気はどこにもありますよ。好き嫌い言わず膨らみましょうナリさん!」


「いやですうー! なんで私を膨らませようとするの!」


 懐のトムをポフポフと叩きながら、私は再び指先を振った。

 伸びたキャンディの指が、離れたところにある、一際大きな木にくっついた。

 近づいていく勢いで、私の体がポーンと跳ね上げられる。


 おやっ!?


 一瞬だけ、遠くに黄色い地面が見えた。

 あれって、砂漠?

 この向こうに、一面の砂漠が広がっているみたいだ。


「この先が魔王城なんじゃなかったの?」


「魔王は、城との間に色々な仕掛けを用意して近づけないようにしているのです。あれはきっと、きな粉の砂漠です」


「むせそう……!!」


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能力の新しい使い方が判明なのであります

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