第5話 空から降りてきた魔王③
二つの太陽が沈んでいく。
面白いことに、東と西に沈んでいくのだ。
だから、この世界の夜って、空の真ん中から始まる。
空を真っ二つに裂くように生まれた夜が、徐々に広がっていって明るい地平線をも闇に包み込んでいく。
なるほど、異世界だなあ。
夜となれば、キャンプをしないといけない。
幸い、地面はマシュマロになっているからふわふわだし、気温も常にほどほど暖かい。
一応、火を起こしたほうがいいのかな?
それに食事も……。
そこまで考えて、私は全くお腹が減っていないことに気がついた。
「あれ? この世界に来て結構な時間が経ったけど、全然お腹が減らない」
「ナリさんはインプを吸ったからお腹いっぱいなのではないのですか」
ヒトデがそんなことを言ってくるが、それってまるで人食いの理論ではないか。
「錬成して外に出したからノーカン! 私は頭が良くて同じ言葉を喋る生き物は食べないよ!」
「アッハイ」
かくかく頷くヒトデ。
とにかく、どうやら私は物を食べなくてもいい体になっているようだった。
それはちょっと助かるかも。
異世界で、いきなり食事が見つかる気もしないし。
だけど、夜になったら獣が出てくるかもしれないし、身の安全のために火は起こしておきたい……。
あたりを見回す。
火を起こせそうなもの……。
ビスケット製っぽい樹木?
緑色の装飾用モールっぽい草?
うん、きっと燃える。
「確か、火を起こすには……燃えるものを集めて、そこに火花をちらして、ふーふーと息を吹きかけて……さらに燃えやすいものを足す……」
じっとヒトデのトムを見る。
「ウグワーッ!? 火刑!!」
「燃やさない燃やさない。ごめんごめん」
気を取り直して。
緑の草がモールなら、中は金属の線だよね。
これをこすり合わせたら火花が起きそう。
回りの緑の毛は燃えるでしょ。
じゃあ問題ないじゃん。
問題は私がそれをコツコツやるの? ということ。
唯一の同行者であるヒトデは……。
「さーて、僕はもう寝ましょうかね! 夜更かしはぬいぐるみの毛艶に悪いですし!」
ポテンと転がっているし、そもそもサイズが私の懐に収まるくらいで、力仕事なんか到底無理。
その他は、私が作り出せる、儚い命のゴーレムくらい?
……待てよ。
作り出す、か。
それだ。
私は口を開き。
「吸引!」
キュイイイイイイイイン!
周囲の樹木や草花が吸い込まれた。
◯お腹の中
モールの草
ビスケットの木
マシュマロの地面
なんか、美味しそうな事になっちゃったな。
じゃあ、錬成行こうか。
イメージするのは、焚き火!
そこにビスケットとマシュマロ……?
あっ、雑念が入り込む……。
あらかじめ開けてあったお腹のボタンの隙間から、光が飛び出していく。
それは、みるみる間に、ごうごうと燃え上がる焚き火になった。
緑のモールが燃えてるせいか、火がちょっと緑っぽい。
体に悪そうだ。
そして、ビスケットの串に刺さったマシュマロが焚き火で焼かれている。
焼きマシュマロまで錬成してしまった。
◯レシピ
焚き火・焼きマシュマロセット
ごきげんなものが生まれてしまったな……。
お腹が減らない体になったと分かったのに、こんなレシピがある。
世界は残酷だ。
それはそうと、焼きマシュマロは美味しく食べた。
お腹が減らないことと、焼きマシュマロが美味しいことは両立するようだ。
ヒトデのトムを枕にして寝る。
この人、寝ていると全く反応しなくなるな。
ふかふかしていて、とても良い寝心地……。
◆
眩しい日差しで目が覚める。
いや、枕にしていたトムがじたばた動きながら「ウグワー!」と叫んでたので目覚めた。
目覚まし時計みたいな人だな。
「こんなところに寝転びやがって! 危機感のないやつだ!」
回りから声が聞こえる。
見覚えのある、たらこ唇な黒い影が複数。
「見ろよ! 頭身が高いぜ! なんてやつだ」
「くそっ、つまり魔王様の支配下に無いってことだな?」
「うらやま……いや、キモチワル──」
「吸引!」
キュイイイイイイイイン!!
綺麗さっぱりいなくなった。
「ウ、ウグワーッ! 恐るべき吸引力! インプどもざまあ!! 朝からスッキリ!!」
起き上がった私のほっぺたに張り付いて、トムが威勢よく叫んだ。
耳元で大声を出すのはやめていただきたい。
ぺりぺりっと剥がすと、トムのお腹に私のよだれの跡が……!
「ごめんね。もしかしたら錬成すると跡が取れるかも」
「遠慮しておきます! 川で洗うと取れます!」
ぶんぶんと頭なのか腕なのか分からない部位を振り回すトムなのだった。
それはそれとして、吸い込んだインプを錬成しておこう。
◯お腹の中
インプ×5
◯レシピ
インプミサイル
あ、これいいかも。
インプを混ぜて一塊にして……。
「ナリさん!! 大変です!」
錬成するところで、トムがどしーんとぶつかってきた。
「うわー!」
転がる私。
なんだなんだ!
「体を洗いに川に行ったら、まるで谷みたいになっています! そこに棒キャンディの橋が一つだけ掛かっていて」
「ファンシーだなあ」
「その上に、魔王の手先が! インプよりも強い……デーモンです!」
デーモン!?
インプよりも、明らかに強そうな響き。
トムを懐に入れて、橋まで急いでいくと、そこには確かにデーモンらしき影があるのだった。
見た目は真っ黒。
たらこ唇まではインプと同じ。
だけど、一つだけ違うのは……。
「四頭身ある……!!」
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