第4話 空から降りてきた魔王②
ヒトデに案内されて、やって来たのはファンシーな村。
私の膝丈よりもちょっと高いくらいに屋根がある、たくさんの家が並んでいる。
家の角は丸められて、材質もふわふわもこもこのぬいぐるみ仕立て。
「あら抱き心地が良さそう」
手近な家をぎゅっと抱きしめてみたら、「ウグワーッ!」と叫びながらニンジンのぬいぐるみが飛び出してきた。
「ま、魔王の襲撃だー!! 俺の家が捻り潰されたあーっ!」
「あ、ごめん。私がハグしたんだけど」
騒ぐニンジンに声を掛けたら、彼はハッとして私を見上げた。
あ、ぬいぐるみニンジンの喉がヒュッと鳴ったな。
「と、頭身が高くてキモチワル」
「そのワードはやめろーっ!!」
ヒトデが走ってきて、ニンジンを殴り倒した。
そしてニンジンの首? 辺りを掴んで引き起こし、星型の端っこでぺちぺちビンタする。
「お前っ! そのワードをこの人に言ったら破滅だぞ!! 僕はっ! たった今それを見てきたんだからな!」
「ウグワッウグワッウグワッウグワッウグワーッ」
なんかすごい光景になってる。
「あの、ヒトデのトム君。私はそこまで心は狭くないから、悪意のない言葉には反応しないよ……。特定のワードに反応して相手を刈り取る殺人兵器じゃないよ」
「さ、さ、殺人兵器!」
怯えるニンジン。
こらっ、特定ワードにだけ反応するな!
「やめろっ、きさまー! 村を滅ぼす気かー!」
「ウグワーッ!!」
「あー! トム君! ニンジンの頭がくびれてる! 取れちゃう取れちゃう!」
大変な状況に、村の人々がワーッと溢れ出てきて、みんなでトム君を引き剥がそうとする。
だがこのヒトデ、すごいパワーでなかなか離れない。
「よし、じゃあ私に任せてもらおうかな」
進み出る私。
村人たちが、「あんたほどの人がそう言うなら……」と道を開ける。
妙に物わかりがいいな。
私はトム君の脇に触れると……「コーチョコチョコチョコチョ」
「あひゃ、あひゃ、あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
トム君はゲラゲラ笑い出し、ニンジン氏を手放したのだった。
その後、村人たちと顔合わせをする。
長老だというヒマワリのぬいぐるみが出てきた。
「あなたが……インプどもを全滅させたという頭身の高いお方ですか……」
「そうです。だけど、なんでみんな頭身の話をするの?」
「ぬいぐるみの魔王、パナンコッタ大王と名乗るそやつが空から降りてきて、この周囲を支配してしまったのです。やつは世界を自らの領域に変えてしまいました。我々リビングドールは、ぬいぐるみに。世界の姿は、ファンシーなお菓子や作り物に。そのため、この世界には三頭身よりも高い存在がいなくなってしまいました」
「おお……なんたる」
「言うなれば頭身が高いものを気持ち……モニョモニョと言うのは嫉妬です」
「ぶっちゃけたなあ!」
だけど、この世界がとんでもない状況になっていることはよく理解した。
「この人は凄いんだ! あのインプを飛行機械ごと吸い込んで」
「吸い込んで!?」
「背中から飛行機械を生やして」
「生やして!?」
「飛んで、インプどもの頭上から、インプと飛行機械をぐちゃぐちゃに混ぜた冒とく的ななんかよく分からないのを撃ち出してあいつらを全滅させたんだ! 破壊兵器!!」
「破壊兵器!!」
うわおーっと盛り上がるぬいぐるみたち。
「こらこらこらこら! 私はそんな物騒なのじゃなーい! 静かに! 静まれってばー!」
あまりに盛り上がったぬいぐるみたちは、同胞を空中に放り投げたり、お互いを地面にガンガン叩きつけ合ったりしておおはしゃぎだ。
テンションがおかしくない?
「本来、僕らリビングドールは理性的な種族だったんです。だけど、ぬいぐるみに変えられたことでみんなおかしくなってしまった。何がある度に、こうして盛り上がってしまう。やりすぎて中身のパンヤが飛び出したら、おしまいです」
「おしまい?」
ヒトデのトムが、悲壮感溢れる感じでうつむいている。
具体的には、星型の体がきゅっと曲がっている。
そっちがおなか側だったかあ。
「僕らはリビングドールなので、人形の修理の仕方は知っています。だけど、ぬいぐるみの修理の仕方が分からない……! このままでは、僕らは全滅です! もしかしてあなたは、えーと……」
「ナリ。練馬ナリだよ。そう言えばまだ名乗ってなかったっけ。残念ながら、私も手先はあんまり器用じゃないかも。一応、彼らを吸い込んで錬成することはできると思うけど」
「なんか違う何かに作り変えられそう……!!」
震え上がるヒトデ。
その感想、間違ってない。
「できるだけ使わないようにして、こうやってはしゃいでる彼らがはしゃぎ過ぎで死んでしまわないうちに魔王をなんとかしないといけないわけね」
「お願いします! 僕が魔王の城まで案内します!」
「うん、お願い。私、正直ふわっとしたモチベーションしか無いんだけど、村に来たらよくわかっちゃった。この人たち、あのインプと絶対戦えないでしょ。私、無抵抗な相手が一方的にやられるのって嫌なんだよね。舐められたら報復しないと……」
「報復! そうだ! これはリベンジですよ! 魔王に分からせてやりましょう!」
ぴょーんと飛び上がったヒトデのトムを、私はボレロのボタンに引っ掛けた。
よし、定位置。
「じゃあ行こうか、魔王の城!」
「行きましょう! 世界をぬいぐるみから解放するために!」
「行こう! 二股野郎をぶっ飛ばすために!!」
「二股……?」
気にしなくてよろしい。
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