第3話 空から降りてきた魔王①

「た、たすけてえ~! 人形ごろし~!」


 ヒトデのぬいぐるみが、ひいひい言いながら走ってきて、私の足元でばったり倒れた。

 ぜいぜい荒い息をしている。


 人形?

 ぬいぐるみでは?


「うはははは! 魔王様の力でぬいぐるみに変えてやったというのに! 逃げ出せるほど生きの良いやつがいたとはな!」


 おもちゃの飛行機に乗った黒い人たちは、ビューンと私の前まで飛んできた。

 そして、やっとこちらに気付く。


「うわっ、なんかぬぼーっと突っ立ってるのがいる!」


「邪魔だ、どけ! なんか頭身が高くて気持ち悪いやつ!」


「気持ち悪いですと!? 女子にそれは禁句だぞ!!」


 私はカッと怒る。

 思えば小学生の頃、いじめられている級友をかばって私もいじめの対象になり、気持ち悪いと言われた瞬間に主犯をタックルで倒し、馬乗りになってパウンドしていた事がある。

 不思議とそれからいじめが消えて、主犯が学校に来なくなったけど、私はそれ以降、こういうちくちく言葉は許さないことにしているのだ。


「君、助けてあげる。詳しいことはあとで聞くね」


 私はヒトデをつまみ上げた。


「ウグワーッ!? そ、そこは僕の頭頂部です!!」


 あ、ごめんごめん。

 どこが頭か手足か分かんないや。

 ヒトデ君を懐に詰め込む。そうしないと、多分彼を吸い込んじゃう。


「この頭身が高くて気持ち悪いやつ、やる気だぞ!!」


「馬鹿め、魔王様の前にひれ伏すがいい、頭身が高くて気持ち悪いやつ!!」


「二度ならず三度も言ったなーっ!! 吸引!!」


 私は口を開けた。

 キュイイイイイイイインッ!!


 猛烈な音がする。


「な、なんだこれは!? す……吸い込まれ……逃げ……逃げられない! 飛行機が! 推進力が吸引力に負ける……ウグワーッ!?」


「い、インプ十六号~っ!?」


 黒いたらこ唇が叫んだ。

 私が飛行機ごと吸い込んだのは、インプ十六号だったみたいだ。


 ここで、視界の端にステータスが映る。


◯お腹の中

 おもちゃの飛行機

 インプ


『ピコーン! 一時的に能力を獲得します!』


「能力!?」


 突然視界にメッセージが表示されたかと思ったら。

 背中から、何かが左右に生えた。


 なんだろう?

 そう思ったら、私の体が浮いていた。

 翼だ!


 もしかして……吸い込んだもののチカラを、自分のモノにできたりするわけ?


「と、と、飛んだーっ!?」


 インプたちが叫ぶ。

 彼らの大きさは、私の半分くらい。

 だから、飛び上がりざま、近くの一人に体当りして転がした。


「ウグワーッ!?」


 インプが転げ落ちて、残ったのは飛行機。

 これを……。


「吸い込む……! あれっ、できない!」


 飛行機は通過していってしまった。

 どうやら、お腹の中に何か入っていると、さらに吸引することはできないみたい。


「だったら、こう!」


 高く舞い上がった空中で、インプと飛行機を混ぜるイメージをした。

 お腹が熱くなり、光り出す。

 どうもおへその辺りが光ってるんだけど、これはどうかと思う!


 また、慌ててお腹周りのボタンを外した。

 インプたちが、なんだなんだと私を見上げている中、お腹から発された光が塊を形作る。


◯レシピ

 飛行機

 インプ

 光


「イメージ! えっと、頭がプロペラのインプ!」


『武器インプ』


「ウグワーッ!?」


 叫びながら、頭がプロペラになったインプが出現した。

 それは、まるで大砲で打ち出されたみたいな勢いで、その場にいたインプたちを巻き込んで吹っ飛ぶ。


「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」


 飛行機ごとぶっとんだ彼らは、ボフンッ!!と音を立てると、火花を散らして消えてしまったのだった。

 後には壊れた飛行機だけが残っている。


「消えちゃった」


「お、落ちる、落ちる」


 懐でヒトデが騒いだ。

 ボレロのボタン部分にしがみつきながら、バタバタしている。

 そうだった! 飛んでいたのに、翼ごと錬成して外に出しちゃったんだった!


「うおわーっ! 落ちるーっ! なんか! なんか飛べるもの!」


 慌てて吸引する私。

 当然、回りには空気しか無い。

 だから、空気をたくさん吸った。


◯お腹の中

 空気

 光


 そうしたら……私の制服がポンっと膨れ上がった。

 まるで風船みたいな姿になる。

 私はゆっくりと、地面に降りていったのだった。


 おお……。

 風船みたいに丸くなった姿かあ。

 これは嫌だなあ。


 空気はあんまり吸わないでおこう。

 私のシルエットは、しゅるしゅると文字通り空気が抜け、元のものに戻っていったのだった。


「ふう……。ついカッとなってやってしまったけれど、何か大変なことに首を突っ込んでしまった気がする……」


「うおおー! インプ全滅! インプ全滅! インプ全滅!」


 私の懐で、ヒトデがエキサイトしている。

 もじゃもじゃ動かれると、とてもくすぐったい。

 摘んで外に出した。


「ウグワーッ! そこは僕の頭です!!」


「あ、ごめんごめん。なんか摘みやすいところに頭があるからさ」


 ヒトデは地面に降り立つと、私に向けてペコリと一礼した。


「助けてもらってありがとうございます、強いお方! きっとあなたなら、空から降りてきた魔王を倒せることでしょう!」


「話が飛躍しててわからないんだけど……!?」


「僕はリビングドールのトムと言います。魔王によって、僕たちリビングドールはみんなぬいぐるみに変えられ、世界はファンシーなものに変化してしまったんです。このままでは……世界は滅んでしまいます!!」


 外見がヒトデじゃなかったら、大迫力の一言。


「な、なんだってー!」


 私が反応してあげたら、ヒトデのトムはとても嬉しそうにもじゃもじゃ動くのだった。


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空気を吸うと膨らんで浮かべるようになるが、女子高生としていかがなものか、な姿になります。

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