第2話 わたしのお腹から錬成物が生まれます。②

 あの神様、私に言ってないことがあるのでは?

 この頭の花は?

 そしてこの異常な吸引力は?


 説明を求む!

 ……けれど、神様はどこにもいない。


「あんにゃろー! 騙したなー!!」


 天を仰いで吠える私。

 泉に映る私から、また何本か、すぽぽぽぽんっと花が咲いた。


 いけない!

 これでは私はハッピーな見た目になってしまう!

 旅が始まるどころか、ここに根付いてしまうんじゃないか。


 ここは……。

 神様の言葉を思い出してっと。


 私は、口から吸い込んだものをお腹の中で錬成する。

 確かそうだったはず。


 私は吸い込んだものはなんだろう?

 土。花。水。

 これらを混ぜ合わせてできるのは……。


 私の頭の中に浮かぶビジョン。

 あっ、私ってなんか、錬金術師みたいじゃん。

 なかなかかっこいいかも……?


 そう思った私のお腹が、カッと熱くなる。

 そして光りだす。


 お腹が熱くなって光る!?

 私は慌てて、お腹辺りのボタンを外した。

 一瞬遅れて、そこから光が放たれる。


「あ、危ない!! 危うく服が破れるところだった……」


 今私が持っているものは、この制服だけ。

 敗れてしまったら大変なことになるところだ。


 光は私の目の前で、ぐるぐると渦巻く。

 ふと、視界の端に表示が生まれた。


◯レシピ

 水

 土

 草花

 光


※造物主よ、名付けて下さい


「名付ける?」


 私は渦巻く光を見た。

 すると、頭の中に名前が浮かんでくる。


「ゴーレム」


 私が告げると、光が急速に形を得る。

 そして、その中から『アーイ!』と元気なお返事が聞こえてくる。


 光がどんどん小さくなり、代わりに土色の手足がニョキッと生えた。

 丸っこい胴体が出現して、最後に一筆書きみたいな顔が書かれた頭が出現。


「ぞうぶつしゅよー! ゴーレムとうじょうです!!」


 私の膝下くらいの大きさの、妙に明るい泥人形がぴょいーんと飛び跳ねたのだ。


「おお……おおお……。これが私の力かあ……」


 確かに、口から吸い込んだものがお腹で錬成された。

 そして錬成する前。

 お腹の中に吸い込んだものが入っていると、どうやら私はモノに影響されて変化するみたい。


 年頃の乙女としては、変化はしたくないなあ!

 さっきはつまり、私がゴーレム化しかけていたということだろう。


 ゲームみたい。


「ぞうぶつしゅよー! はな! はな! ぼくのあたまにはながさいています!!」


「ああ、そうだねー。花が揺れて愉快だねー」


 ぴょんぴょん飛び跳ねるゴーレムの頭を撫でると、花もゆらゆら揺れた。

 なんというご機嫌な姿だろう。

 彼を見てるだけで何も悩みがなくなる気がする……。


 ひとまず、一人きりだと不安がなかったと言えば嘘になる。

 旅の道連れが、自分で作り出したゴーレムだというのは運命か何かかも知れない。


「よし、行こうゴーレム」


「かしこまり!」


 おお、かわいいかわいい。

 ぴょんぴょん飛び跳ねて横を行くゴーレム。

 その度に頭の上のお花が揺れる。


「ところでゴーレム君」


 クレーターになってしまった泉の回りから、外に踏み出す。


「この世界について何か知ってる? 異世界って言うとファンタジー世界っていうのが定番だと思うんだけど……」


 言いながら、私は泉の外の世界を見回した。


 地面はふわふわ、まるでマシュマロのようで、白かったりチョコレート色だったり。

 木々はあれ、ビスケットか何か?

 空に浮かぶ雲は……綿だこれ。


「ふぁんしーです?」


「ファンシーだね」


 ゴーレムと私、顔を見合わせた。


「なにもしりませぬ、よのことわり」


「だよね。さっき私が作ったんだもんね」


 ゴーレムに色々聞こうとした私が間違っていた。

 この子、可愛いだけのマスコットだな?


 そして見ていると、だんだん乾いてひび割れてきている。

 いい陽気だものね。

 空を見上げると、太陽が二つあった。


 オレンジの太陽と、青い太陽。


「ぞうぶつしゅ、これでおさらば。はかなきいのち」


 そう告げると、ゴーレムはサラサラと崩れていった。


「ゴ……ゴーレムーっ! そっか、私が生み出したものは、制限時間があるんだ」


 一つ、自分の能力について詳しくなった。

 それはそうと、あのゴーレム、また作れるかな……。

 レシピって言ったっけ。


 視界の端を意識する。

 そうすると、横からステータス画面みたいなのが出てきた。


◯お腹の中

 空っぽ


◯レシピ

 ゴーレム(弱い)

 土+水+草花+光


 おお、なるほど……。

 私が今吸い込んでいるものと、これまで作ってきたレシピが参照できるみたい。


 ゴーレム、弱い……かあ。

 お日様に負けたもんな。

 確かに弱くて儚い命。


 諸行無常を感じる。

 そんな気持ちになりながら、ファンシーな世界を進む私なのだ。


 不思議なことに、やけ食いしたのは屋内のはずが、転生した私はいつものシューズを履いている。

 床がふわふわでも、石ころがあっても平気だ。


 この辺りは神様のサービスかも知れない。

 さて、一人旅になってしまったけれど、寂しくなったらまたその辺りの地形を吸い込んでゴーレムを作ればいいかな……。

 いやいや、またクレーターを作ってしまうのはどうだろう?


 うんうん言いながら歩いていると……。


「ひーやー!! 人形ごろしー!!」


 叫び声が聞こえてきたのだ。

 マシュマロの地面を、ボヨンボヨンと必死に逃げるのは……ヒトデのぬいぐるみ?


 その後を追って、巨大な飛行機のおもちゃに乗った奴らがやってくる。


「ヒャッハー! 逃げろ逃げろ! ぬいぐるみの魔王様に従わないやつは、中のパンヤをかき出してやる!」


 叫ぶのは、真っ黒な人影だ。

 見た目は二頭身で、真っ赤なたらこ唇だけが鮮やか。


 人形ごろし?

 ぬいぐるみの魔王?


 よく分からないが、多分これは私の出番なのだ。


=================


毎話ごとにシステムが明らかになります。

ここより、魔王編。

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