わたしのお腹から錬成物が生まれます。~やけ食い転生、なんでも吸い込み、お腹の中で錬成、いろいろ作って世界も救ってスローに旅します~

あけちともあき

第1話 わたしのお腹から錬成物が生まれます。①

「初めての彼氏が二股してて、しかも浮気相手を取って私を振りました! ガーン!! もうやけ食いするしかねえ!」


 状況説明は、以上。

 私、練馬ナリはUGWペイにチャージした金額全てを消費して、お店のスイーツを買いまくったのだ。


『ウグワーッ!』


 UGWペイが鳴り響き、チャージ金額がゼロになり。

 家に帰ってスイーツのやけ食いを開始する私。


「あのバカ男、許さない! くそーっ! 私の時間を返せーっ! あーっ、それでもスイーツは美味しいーっ!!」


 シュークリーム、エクレア、チーズケーキ、プリン、これをコーラで流し込み……。

 後の体重が怖いけれど、今から太ることを考えてやけ食いができるか!

 いや、できまい。


 大好物のシュークリームの特大版をガブッと食べ、飲み下したところで。

 私の意識はぷっつりと途切れる。


 ◆


 目覚めたのは泉のほとりだった。

 鼻孔を満たすのは、青臭い草の香り。

 スイーツのそれじゃない。


 私は起き上がる。


「あれ? 私はさっきまでやけ食いをしていたはずでは……」


 泉に顔を映してみる。

 眼力が強い、とよく言われる自慢の目。

 ちょいと吊り目気味だけど、なかなか形がいいんじゃないだろうか。


 鼻はちょっと高め、唇は薄からず、厚からず。

 髪の毛はコシのある長い黒髪で、これをよいしょっ!とポニーテールにまとめている。

 服装は……うん、やけ食いしてた時のまま。


 私立城星学園高等学校の制服、ボレロ姿。

 これ、可愛くて気に入ってるんだよね。


『目覚めたようだね』


 突然、後ろから声が掛かった。

 振り返ったら、そこにイケメンがあった。


 そう、あった。

 いた、じゃない。

 銀色の長髪で、虹色に輝く瞳を持った細面のイケメンがそこにはいた。


 おお、美しいー。

 だけど、イケメン過ぎて好みじゃないな。

 私はもっと俗っぽい方が好みだなあ。


『君、今失礼なことを考えたな?』


「い、いいえ、そんなことはありませーん」


 こいつ、心を読んだ……!?

 顔のいい妖怪サトリかよ。


『妖怪ではないよ。僕は神だ。錬成神ケミストリ。そしてここは、モノが溢れ、救いを求める世界アルケイディア』


「待って、いきなり固有名詞が溢れてきた。え? 神? 異世界? つまりこれは、異世界転生的な? どうして?」


『君は喉に食べ物を詰まらせて転生した』


「うわあ」


 なんてことだ。

 とんでもない転生の仕方をしてしまった。


『僕の探している条件に合致する転生の仕方だった。だから、僕は君の魂をこっちに引き寄せた』


「待って待って。特殊な情報が多い」


『ここに降り立った君は、既に新たな力を得ていた。だから僕は、君に頼もうと思う』


 ようやく理解できそうな話になってきた。

 この神様とやら、私に何かをお願いに来たのだ。


「頼もうって何を?」


『アルケイディアは今、たくさんのモノが降り注いでとても困っている。助けてやってくれないかな』


「モノが? 助け……? なんで私が」


『もちろん、タダとは言わないよ。世界を助けてくれたら、元の世界に戻してあげる』


「本当に!?」


 異世界に転生したよ、と言われても、あまりにもいきなり過ぎる。

 私には色々、現世に未練だってあるのだ。

 とりあえずやってやりたいことが、特に一つある。


『君を元の世界に戻すには、世界のチカラを使う必要がある。だけれど、世界は今、モノによって抑え込まれてチカラを使えない。君が世界を助けてくれれば、世界が君を助けてくれることになる。どうだい?』


「ウインウインってことか。うん、それならスッキリするかも。私、フェアな条件って好きなんだ。やるやる」


 私は快諾することにした。

 ここで迷っても、異世界転生してしまった現在、どうにもならないだろう。

 だったら、動いたほうがいい。


 ちょっとでも状況が変わるわけだし。


『では、君が元の世界に戻って望むことを聞いてもいいかな? その思いが強いほど、元の世界への帰還は成功しやすくなる』


「あの浮気やろうをぶん殴る」


 私は拳と手のひらを打ち合わせた。

 そうだ。

 やけ食いするより先に、そっちをやっとけばよかった!


 いや、今からでも遅くはない。

 やるのだ。

 そのために戻る!!


 私は決意していた。


『いいだろう』


 神様はちょっと引いた感じで、でも笑った。


『最後に君の能力を教えよう。それは二つ。万物吸引と、体内錬成だ』


「……? どういう……?」


『万物吸引は簡単な話だよ。その辺りのゴミから皮下脂肪から、食べ物や雲や土や風、なんでも吸い込んでしまえる』


「皮下脂肪吸えるのは便利かもしれない……」


『そして体内錬成。吸い込んだものを錬成して、新しいモノを作り出すことができる。これは君のイマジネーション次第だ。期待しているよ、練馬ナリ君。君の喉につっかえたものが取れた頃、きっと元の世界に戻れるだろう』


 それだけ言うと、神様は消えてしまった。

 あっ。

 そもそも現世に現れることができるなら、神様はどうして自分で世界を救わないんだか。


 いやいや、神様が自分で世界を救済したら、私が元の世界に戻れなくなっちゃうじゃないか。

 だけど、解せぬ。


 悶々としながら、私は立ち上がった。

 よし、これからやるぞ! と言う思いを込めて、深呼吸をする。


 すると……。

 私がの口の中に、周囲の草花や泉がキュイイイイイイインッと吸い込まれてしまったのだ!


「!?」


 驚愕する私。

 いきなり周囲一帯がクレーターになったんだけど!?


 そして、残った僅かな泉の水面を覗き込んだら……。

 映る私の頭に、ポンっと音を立てて花が咲いた。


 おいおいおいおい!?


=================


始まりました、新たなお話。

割りと緩やかな感じのロードムービーな、旅とスローと冒険の話です。

かなりハートが強いヒロインのお話をお楽しみいただければと思います。


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