【新連載版・第5話】穴
雷に打たれた――というのは陳腐な表現だが、本当に自分の体に雷が落ちたのかと思うほどの衝撃だった。
轟音、全身が何かに貫かれる感覚、そして全てが真っ白になり――衝撃は去った。
俺は恐る恐る、目を開けた。
「し、死んでない……」
どうやら自分の体は無事だったらしい。
空を見ると、何の変哲もない薄暗い空。
周囲を見回しても、雷が落ちたような痕跡はどこにもない。
とすると、今の衝撃は一体……と首を傾げたとき、気が付いた。
「え」
目の前で、俺と手をつないでいた少女と犬の姿が――半透明ではなくなっている。
幽霊……じゃない!?
「えっ、えっ!?」
手を離し、改めて彼らに触れる。犬をもふもふと撫でることもできるし、少女の肩に手を置くこともできた。
「本当に幽霊じゃない……じゃあ、迷子……?」
「××××××××××」
少女が話しかけてくる。さっきよりもはっきりと聞こえるようになったが、やはり日本語ではない。
すると犬が吠えた。
少女も嬉しそうに、犬に話しかけている。
なんか……やっぱり会話しているような。
いやいやそんなことより、この子たちの保護者を探さないと。一番近くの交番は。
「××××××××××」
「えっ?」
突然、道を歩き出した犬。
そして少女はその犬を指差し、それから俺の手を引いて、歩きはじめた。
とりあえず俺は、彼女の進みたい方へついていく。
先頭の犬は地面をくんくんとやりながら、迷いなく進んでいった。
「こっちにお父さんかお母さんがいるの?」
「××××××××××」
言葉は分からないが、少女はなんだか嬉しそうだ。
ひとまずそのまま、一頭と少女についていく。
すると彼らは、何もない道端で立ち止まった。
「××××××××××」
少女が、一頭の方に駆け寄っていく。
「ん……?」
そこにあったのは――黒い穴だった。
地面に開いた黒い穴。だがそれは、かなり奇妙なものに見えた。
「なんだこれ……」
間近で見ても奥行が分からないほどの、濃すぎる黒。現実感というものがまるでなかった。
地面に設置されたホログラムでも見ているかのような……
こんな穴、今までこの道で見たことがない。
少女は目の前の穴に、小さな手を差し入れた。
「!!」
少女が触れると、穴は、液体のように揺れた。
そして入れた手の先は、完全に見えなくなる。
「さ、触っちゃだめだ!」
俺は思わず、少女の手を掴み、穴から離した。
一頭と少女は、目を丸くした。
犬が吠え、少女が頷く。
少女は俺を見て、にこっと笑った。それから俺の手首をつかんだ。
「え、ちょっと待って。何、その顔。何するの?」
少女が穴の中に飛び込んだ。
「あ、ちょっ!」
少女の体が、穴に吸い込まれていく。
そして彼女に手を引かれた俺も。
わけも分からぬまま、穴の中に飲み込まれた。
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