(Web版 第17話)

「圭太さん、魔法使えるの!!?」


俺が使った魔法に驚く美都。


ダンジョン知識がうろ覚えなせいで、「あれ?俺なんかやっちゃいました?」系主人公になってしまった俺。


俺が使えたぐらいだし、ダンジョン内だと魔法が使えるのは当たり前のことをだと思っていたのだが……どうやら違うらしい。


「違うよ! レベル25以上の中級冒険者であっても、実戦レベルの魔法が使えるのは全体の5%未満って言われてるくらいだし……」


「そ、そうなのか?」俺は慌てて、ダンジョンのガイドブックで見たはずの情報を思い出す。「で、でも、なんか有名な冒険家が、想像力さえあれば魔法は使えるみたいなこと……」


「あっ、オリバ・ルーツの名言かな。それ」


「あっ、そう。たぶん、そんな名前の人」


美都がむー、と何か悩んでいる顔をする。可愛い。


「オリバ・ルーツのあの言葉はね……『みんなもできるよ、頑張れ!』みたいな感じで受け取るべき言葉だと思うよ」


「……え?」


「なんて言えばいいのかな……。まずオリバ・ルーツって、とんでもない逸話が数え切れないほど残されている、ダンジョン界きってのスーパーヒーローなの。

世界屈指の難関ダンジョンに一人で半年ぐらい潜ってたとか、自らの鍛錬のために素手でドラゴンと格闘してたとか」


な、なんじゃそりゃ……。


「同時代に現役だった著名な冒険者たちでさえ、皆、口を揃えて、『あいつは冒険者じゃない。ただの化け物だ』って言ってたくらいなんだって。

とにかく伝説級の人だから、そりゃダンジョン界隈での人気は高いし、彼の言葉が取り上げられることはよくあるんだけど……」


そう言って、美都は肩を竦めた。


「彼の常識が普通の冒険者に当てはまるかっていったら、全然そんな事ないんだよね。

オリバが言った『魔法は想像力だ』っていう話……たしかに魔法が扱える人にとってはそうなんだろうけど、大抵の人にとってはそうじゃないんだよ」


「そ、そうだったのか……」


「うん。だから圭太さんが魔法使えるの、すごくびっくりした!」


子犬みたいに生き生きした表情で、美都が俺を見上げる。


ぴんと立てた耳や、ぶんぶん振っている尻尾が見えるかのようだ。


俺はぽりぽり首をかき、美都に答える。


「やっぱ反転ダンジョンのおかげなのかな?」


すると美都は、首を捻った。


「んー、たしかに反転ダンジョンがレベル上げに役立ってるのは間違いないから、完全に無関係ってわけじゃないと思うんだけど……でも、そもそも『魔法が使えるようになるかどうか』については、ちょっとまた別問題かもしれない」


「そうなのか?」


「うん。魔法ってね、ちょっと特殊なの。レベル5で使えるようになる人もいれば、レベル50になってもうまく使えない人がいたり。

基本的には、レベルが上になるほど、うまく使えるようになる確率が高くなるとは言われてるんだけど。

人によってね、なぜか使えるようになるタイミングが全然違うんだ。私はあまり好きじゃないけど……才能とか、センスとか、そういう風に言われることもあるよ」


「へぇ……」


「あ、あと『覚醒条件』みたいなものがあるんじゃないかっていう意見も、最近の研究では有力視されてる」


「覚醒条件?」


「うん、『魔法が使えるようになるきっかけ』みたいなことなんだけど……」と美都は言いかけて、急に口を閉じた。


「?」


「話は一旦、後回しだね」


美都の視線の先には――魔物。


丸い輪っかの形をした……スライム?


「スライムドーナツだ」と美都が呟く。


あっ、そのまんまな名前でした。


「ねぇ、圭太さん」


「ん?」


「魔法って……他にも使えたり、する?」


美都がスライムドーナツから目を離さずに言う。


警戒心を維持しつつも……ちょっとウキウキしてない?


「ああ、まぁ……」


「あっでも、あまり大きいものじゃなくてもいいからね。魔疲労起こすといけないし……」


「お、おう」俺は頷き、咳払いをする。「分かった」


俺は一歩前に出る。


俺が現在使える魔法は……たぶん4つ。


一つ、物体を動かす。吹き飛ばしたり、引き寄せたり。


最初に出会ったカブトガニは吹き飛ばしたし、さっきはドロップしたD鉱石を引き寄せることができた。


ただカブトガニは一発で倒せなかったし、たぶん威力はそんなにない。


二つ、火魔法。これはさっきやった。


三つ、水魔法。これも威力が微妙。たぶん、ドーナツスライムにかけてもびしょびしょになるだけ。


となると消去法で、残るのは一つ。


『でも威力がなぁ……』


俺はスライムドーナツに目を向けたまま、「すまん、ちょっと離れててくれるか」と美都に伝える。


「あ、うん」美都の足音。「オッケー」彼女の声が、少し遠くなった。


『よし』


俺は自分の右手で、銃の形をつくる。


なんとなく不安で、その腕を左手で支える。


『えー、集中だ、集中』


と、スライムドーナツがふわふわと揺れて、地面から浮き上がった。


『わぁ……なんだ、こいつ』


不安定に空中で揺れている。


そのさまを見て、『UFOみたいだなぁ』なんて思いつつ、俺は指で狙いを定める。


『威力、弱。威力、弱……』


そして胸のうちで、小さく呟いた。


『バンッ』



ズガァァァァァァァン!!!!










……もうやだ。

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