(Web版 第18話)

銃の形にした手、伸ばした人差し指から放たれる電撃。


宙に浮いていたスライムドーナツとやらは、黒い煙になって消える。


『Fランクダンジョン……Gランク以上に魔法が制御できない……!』


手を開くと、微かに震えていた。


すると美都が駆け寄ってきて、その手を握った。


「えっ……」


「動かないで」


俺の手首に、細い指を当てている。


それから美都は、俺の額にも手を当てた。


驚いたが、ひんやりとして心地良い。


「頭痛とか、気分悪くなったりとかしてない?」と美都が言う。


「あ、ああ……」


美都は俺の額から手を離した。


「良かった……。だめだよ、あんなに強い魔法使ったら!魔疲労を起こしちゃうよ」


「あ、いや、狙ったわけじゃないんだ」

俺は首を振った。

「まだうまいこと、魔法の出力が制御できてないっぽくて……」


「え……そうなの!?」

美都があわあわと慌てる。

「ご、ごめんなさい! 私、知らなくて、軽い気持ちで『魔法見せて』なんて言っちゃった」


「あ、いや。いいんだ」


どう考えても、説明してなかった俺が悪い。美都のせいでは全くない。


「どうしよう。一旦、帰ろうか」美都が不安げな表情で言う。


俺は首を傾ける。「でも……まだ入ってから、30分も経ってないよな?」


このダンジョンの入場料は3800円。美都は学生だから500円引きで3300円。あんまし変わらない。


ダンジョン前に立てられていた説明書きには、「探索推奨時間:2時間」と書かれていた。


自分でも貧乏性だとは思うのだが……もったいない気がしてならない。


自分だけならまだしも、美都にも払わせてしまっていると考えると。なおさら胸が痛む。


「だけど……」と逡巡する美都。


「俺なら大丈夫だよ。頭も痛くないし、熱が出てる感じもない。

ほら、ぴんぴんしてる」


体をひょこひょこと動かす俺。


コミカルな動きで美都の笑いを誘ったつもりだが、彼女は心配そうな顔を崩さなかった。


「本当に大丈夫?」


「おう、ばっちりだ」


「ほんとにごめんね。圭太さんが魔法使えるって分かって、私、すっかり舞い上がっちゃって……」


「俺の方こそ、すまん。もしかしたら制御できるかなって思ったんだが」


「ううん。じゃあ、もう少しだけ探索に付き合ってもらってもいい?」


「こちらこそ」


というわけで、ダンジョン探索は続行だ。



「おっ、またドロップしてる」


スライムドーナツを電撃でぶち抜いたところに、D鉱石が転がっていた。


俺は魔法を使わずに、それを手で拾い上げる。


『ドーナツ型だ』


得られたD鉱石は、討伐したスライムドーナツを思わせる形をしていた。


しかし透明な水色だったので、いわゆる普通のドーナツっぽくはない。


「すごい、2連続!」


美都がぱちぱちと手を叩く。


「D鉱石ってどれくらいの割合でドロップするもんなんだ?魔物倒しても、毎回じゃないんだろ?」


「そうだね、ドロップ率……の話は、ダンジョンを出てからでもいい?」

美都が言葉を濁すように言う。


『ん? 何か説明しづらいことでもあるのかな』


俺はそう思いつつ、「ああ、もちろん」と頷いた。


それから「ほい」と、拾ったドーナツ型鉱石を美都に手渡す。


回収した資源は、ダンジョンを出てから半々にしようと事前に話し合って決めていた。

何人かで探索をするときは、それが基本的なやり方らしい。


「はーい」


美都はドーナツ型鉱石を受け取ると、「わお、きれいだねー」と目を細めた。


それから腰に下げた巾着の中に、それを大切そうにしまった。

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