(Web版 第13話)

魔法。


その特別な力は、使用する冒険者のレベルが高ければ高いほど、大きな威力、高い精度のものとなる。


また、発動できる「回数(量)」も、高いレベルの冒険者の方がより多い傾向にある。


レベルの低い冒険者の場合、わずか数回魔法を使っただけで、魔法がうまく発動しない状態に陥ることもあるので、注意が必要である。


なお、魔法がうまく扱えない状態に陥ることを「魔切れになった」「魔疲労を起こした」などと表現するが、一度ダンジョンから脱出し、体を十分に休めることで、再び使える状態に回復することができる。



俺はこんぼうを軽く振りながら、ダンジョンを進んでいた。


『次の魔物を倒したら、今日の探索は終わりにする』


自分の中で、そう決めていた。


目的は、『魔物との接近戦の経験を得ること』。


これまでの戦闘はすべて魔法で切り抜けてしまったので、「物理攻撃」が試せていなかった。


ガイドブックで事前に得た情報によれば、魔法は際限なく打てるわけではないらしいし、物理攻撃を試しておくのはやはり重要だろうと考え、ダンジョン探索を続けていた。


次に出てくるのがどんな魔物かはわからないが。


とりあえずこん棒でぶん殴って、どれくらいのダメージを与えられるか、自分の目で確かめよう。



『さて、どんな魔物が出てくるやら……』


今のところ遭遇しているのは、クソでか虫もどきばかり。


見た目の嫌悪感がすごいから、躊躇せず討伐できるという利点はあるのだが。


正直もう、虫は嫌である。


ここはいつから虫ダンジョンになったのか。


もっとこう……スライムとか。そういうダンジョンっぽい魔物は出てこないのか。

と、思いながら歩いていたら。


『来たっ……ん? おおー!』


思わずちょっと喜んでしまった。


現れた魔物が、「虫」っぽくなかったから。


そして俺が望んだ通り、「ダンジョンといえば」みたいな魔物でもあった。


俺の腰ほどしかない小さな体。


尖った耳、どことなく魔女の老婆みたいな顔つき。


『ゴブリン、ってやつだな』


イメージと少し違うのは、肌の色が緑ではなく、灰色っぽいことくらいだろうか。


ゴブリンは3体いた。


それぞれ手に、何か持っている。


よく見ると、2体が両手に石を、1体が木の棒を持っていた。


俺が近づくと、「ナー」「ナー」と変わった鳴き声をあげた。


『へぇ……ゴブリンって鳴くのか』と、そんな妙なことに感心する。


と。


「あぶっ……なっ」


いきなり一体が、持っていた石を投げつけてきたのだ。


大した速度ではなかったので、左手に装備したアームシールドでとっさに防いだ。


ダメージはなかったが、イラッとする。


俺は右手を空け、魔法を使った。


ボフッ。


「ギャッ!」


放った火の球は、見事、石を投げつけてきた個体に直撃。


「お返しだよ。で……もういっちょ」


ボフッ。


「ギャッ!!」


こちらもヒット。


食らったゴブリンはすぐに火だるまになり。


そのまま黒い煙となって、消失した。


そしてようやく、こんぼうの出番。


奇しくも残ったゴブリンは、木の棒を持った個体だった。


『最初から3体相手はきついかもしれないからな。慎重すぎる気もするが……油断してダメージを食らうよりはましだ』


「よし。いくぞ、小鬼野郎」


「ナァァァァァァァ!!」


仲間をやられ怒っているのか、残った1体のゴブリンが突っ込んできた。


鬼気迫るその様子に、一瞬、怯みそうになる。


が、頭の中は思ったより冷静だ。


『うん。これまでの戦闘経験が活きてる感じするな』


ゴブリンがぶつけてきた木の棒を、左手のアームシールドでガードする。


衝撃はほとんどない。大して力のある魔物ではなさそうだ。


『よし』


俺は右手のこん棒で反撃に転じる。


ゴブリンの全長は、俺の腰ほどまでしかない。


狙いをつけ、低い位置で、思いきりこん棒を振った。


ドゴォッ。


鈍い音がして、こん棒が魔物の胴体を捉えた。


「イギッッ」


短い声を上げ、ゴブリンが左へ吹き飛ぶ。


そのまま壁に激しく体を打ち付けて、ゴブリンは黒い煙となった。


『うん……物理攻撃も普通に通用するっぽいな。というかむしろ……』


こん棒をブンブンと軽く振る。


『思った以上の馬鹿力だった気が。レベルが多少なりとも上がってんのかな?……まぁいいや』


俺は地面に目を凝らす。特にドロップアイテムらしきものは落ちていなかった。


「あらら。残念」



というわけで、俺は探索を切り上げて、来た道を戻り始めた。


帰り道は、特に魔物とも人ともすれ違うことなく。


初のダンジョン探索(単独)は無事終了。



戦利品は、「D鉱石×4」。


はじめてにしては、なかなか悪くない戦果ではなかろうか。










◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


【読者の皆様へ】


お読みいただいているエピソードは「Web版」であり、書籍の内容とは大きく異なっております。


「もふもふ」「ちびっこ魔族」が登場するほのぼのスローライフ作品は、【書籍版(新連載版)】でお読みいただけます。


そちらを読まれたい方は目次を開いていただき、【書籍版・第一話】の方に移動されてください。


繰り返しのご説明、大変失礼いたしました。


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