(Web版 第12話)

ダンジョンを奥へ、奥へと進んでいく。


入場の際に、このダンジョンのマップを渡されてはいた(マップの代金は、入場料5000円に含まれているとのことだった)。


だが、あえてそのマップをリュックから取り出す必要性は感じなかった。


道が、ほぼ一本だからである。


マップを手渡された時にちらっと確認したのだが、「これマップいる……?」と思うほど、このダンジョンの分岐は少なかった。


マップに描かれていたのは、真ん中にくねくねと蛇行しながら伸びる一本道。そしてところどころに、短い脇道がちょろちょろ生えていて。


だからその脇道を無視して進めば、マップは使わずに済みそうだった。



ほどなくして、道の先から微かな音が聞こえてくる。


俺は立ち止まる。


『魔物……だろうな。間違いなく』


大きなダンジョンなら、他の冒険者という可能性も大いにあるだろう。


だが、いま、俺が入っているこのダンジョンに関して言えば、先に冒険者がいる可能性は限りなくゼロ。


なぜなら俺はダンジョンに入るとき、入口のおじいさんに直接聞いたからだ。


「今このダンジョンには、何人か潜っている人がいるんですか?」と。


おじいさんは首をふるふると振り、「ここのダンジョン、本当に不人気ですからねぇ。多くて、週に一人二人ですよ」と教えてくれ、カッカッカッと笑った。


おそらくあの感じでは、帰り道でもすれ違うことはないだろう。気兼ねなく探索できるから、俺としてはありがたい限りだ。



というわけで、音がするなら、十中八九、魔物。


先ほどの巨大カブトガニを思い出し、ちょっとげんなり。


だが、もうパニック状態からは抜け出していた。


おそらく大丈夫……な、はず。


『くるなら来い! (できれば見た目が、気持ち悪くないやつ!)』


曲がりくねった道の先から現れたのは。


『なぁぁぁぁぁんでだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』


またしても虫に似た魔物だった。



サソリみたいなハサミをしているが、サソリみたいな尻尾はついていない。


胴体は丸く膨らんでいて、色は気味の悪い緑色。


そして大きさは……やっぱりデカい。大型犬ぐらいある。


カチカチと、自慢のハサミを挑発するようにならしている。


俺はふぅーと息を吐く。


『大丈夫。さっきとは違って、俺はもう、自分が魔法を使えるってことを理解している。俺の経験したことが、俺を助けてくれるはずだ』


右手に持っているこん棒を、左手に持ちかえる。


魔法を使う時、必ず手が必要なのかといわれれば、おそらくそうではないのだが。


さっき魔法を発動した時に、『手から出す』というイメージの方が、なんとなく想像しやすかった気がしたのだ。



威嚇行為こそ続けているものの、一向に近づいて来ようとはしないサソリもどき。


やはりGランクのダンジョンにいるだけあって、大した魔物ではないのだろう。


『ありがたく、的にさせてもらうよ』


右手をサソリもどきに向け、魔法をイメージする。


『そうだ』


ふと思いつき、右手の形を変えてみる。


人差し指を伸ばし、親指を立て。中指以下を、曲げて、丸める。


銃の形。


そして心の中で、

『バンッ』

と呟いた。


ズガァン!!!!!


『…………ええぇ』


人差し指から放たれたのは、頭に思い描いた通り、電撃だった。


ただし、出力が……。こんなものをイメージしたつもりではなかったのだが。


思わず引いてしまうくらいの、音と衝撃。


食らったサソリもどきは、一瞬にして消失反応を起こした。



『うーん、周りに人がいないときはいいんだけど……。これからもし美都と一緒に探索することになったら、さすがに危ないよな。コントロールが利かないうちは、下手な使い方できないな……』


そんなことを考えていると、黒い煙の下から、ポロリと石が転がり出てくる。


「え……」


今度は紫色のD鉱石だ。


「わー、二連続!」


魔物がアイテムを落とす確率については、ガイドブックにもネットにも、明確なことは書いてなかった、はず。


二連続というのは、割とよくあることなのだろうか。


「よしよし」


どれくらいの幸運なのかは分からない。が、とりあえず嬉しい。


俺はリュックの中にそれをしまい、また歩き出した。



次に遭遇した魔物(ミミズみたいだった)にも、その次に遭遇した魔物(カブトムシの幼虫みたいだった)にも、俺は容赦なく、魔法を浴びせかけた。


試してみたのは、火、電撃、そして水。


結果として幾つかのことが分かった。


まず、水。


自分の顔くらいの水の球をイメージしてみたのだが、問題なく出すことができた。回したり、敵に向けて飛ばしたりも問題なくできた。


ただ、ぶつけた相手があまりダメージを受けている様子がなかった。びしょびしょに濡れるだけ。


量や形状を工夫すればいけるのかもしれないから、まだまだ改善の余地はありそうだ。


あと、飲んでみても変な味はしなかったので、ダンジョン内の水分補給は、魔法で解決できそう。


威力×、コントロール〇、補助機能◎(水分補給)といったところか。


そして電撃。威力◎、コントロール×。


最初より弱めることはできたが、弱くしすぎると「静電気が発生しましたね」くらいの現象しか起こらない。


そして反対に抑えていないと……危険。


魔物を倒すには強力な武器だが、仲間がいる時のことも考えて、もうちょっとセーブできる技術が欲しいなぁなんて思った。


最後に火。威力〇、コントロール〇。


使った魔法の中では、一番安定していた気がする。


狙ったところに、狙った大きさでつけられる感じ。ファイアボールを飛ばすこともできたし、直接相手の体に火をつけることもできた。


火をつけた相手にも、ちゃんと食らっている様子が見られたし、攻撃魔法としての実用性は高そうだ。


それに、補助機能についても。


ダンジョンの中は特に寒くなく、どちらかといえばほんのり温かい感じではあったのだが、万が一、暖を取りたくなったとしたら、火は間違いなく役に立つだろう。


そう考えると、火魔法は補助機能の面でも〇で、かなりバランスの良い魔法と言えそうだ。



『うんうん、これはいい感じだぞ……』


四体目の魔物(カブトムシの幼虫もどき)を倒した俺は、着々と自分の中にが積もっていくことを感じ、嬉しくなった。


ではなく、(経験したことで得られた知識)である。


主に自分が使用する攻撃魔法についてであるが、どんどん新しい気付きが得られるので、なかなかに楽しい。


そしてもう一つ、嬉しいことが。


魔物が落とすD鉱石についてである。


なんと討伐した4体の魔物すべてが、D鉱石を落としてくれたのである。


もはや運ではない気がした。


もともと確率高く落とすものなのかもしれないし、あるいはD鉱石を落とす上で、何らかの条件があるのかもしれないとも感じた。


とにかくその辺りの理由は不明だったが。しかし何はともあれ、D鉱石は換金できるのだということを考えると、自然と頬が緩んだ。



さて。


『そろそろさすがに帰ってもいいだろう』


四体目の魔物を倒した俺は、一度、そう考えた。


足も疲れてきたし、リュックにしまった時計(電池ではなくD鉱石で動くアイテム)を確認すると、入ってからもうすぐ2時間が経過しようとしていた。


だがもう一つだけ、どうしても経験しておきたいことがあった。


魔法にばかりかまけていて、完全に試す機会を失っていたのだが。


俺は、右手に握っているこんぼうを見る。


そう。


「打撃攻撃」であり、魔物との「接近戦」である。

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