記録12―平穏と冒険そして邂逅⑫―
住み慣れた土地を離れ外界に足を踏み入れる。
その事に意識したスピネルは心を弾ませていた。
「……ここを超えれば未開の地。
ここを通れば住み慣れた土地には当分の間は来れないだろうね。
でも覚悟を固めようとしたけど失敗したかな、
外界の土を踏むの緊張してきた」
境界線の前で佇んでいた。
否、スピネルは安全に暮らせていた土地から人類が支配する土地に足を踏むことを心から恐れて足踏みしていた。
別世界のような入口がアギトを上げて底なしの闇にいざなわんと狙いを定められた錯覚に堕ちる。
穏やかな日々が約束されし坩堝の魔界、後ろ髪を引かれる気持ちと孤独の恐怖も相まって振り払って自己を奮わせる。
本能的な恐怖に潰れない心。そんなスピネルの背後から凶弾が放たれる。
大気から微動にある魔法を第六感によって感知。
「これって、魔法の残滓ッ!?」
音もなく向かってきた銃弾を槍で迎撃しよう柄を握って抜いて構える。槍を構えるだけで薙ぎ払うとはしない。
何故か銃弾よりも射撃手に対して警戒をしながらも仁王立ち。
黙して佇んでいるだけのようにも見えた。
炸裂する至近距離に迫り、そしてスピネルの前に不可視の障壁が展開する。
そして炸裂して耳がつんざくような轟音が辺りを響かせた。
「よしッ!防げれた」
狙い迫ってきた燃え盛る銃弾を障壁の強度によって防ぐことに成功して安堵の息を吐く。新世代として創造された種族にはラチオストーンの恩恵を与えれないため媒介なしでは魔法を行使できない。
しかし得物である【魔力武器】が魔法の必要とされる手順とエネルギーを消費させて補うことで魔法を発動させた。
「誰ッ!?いえ、それよりもどうして狙うの。
ここには同じ境遇の同族しかいないはず、
どうしてこんな無意味なことをしようとする!」
飛んできた奥に向けてスピネルは激昂する。
疎らに立つ木の物陰から姿を現す襲撃者の正体は。
「やあやあ見事な手前だったよ。凛々しくて頼もしくなったね。おっと!すまない、すまない。
ちょっと試しに撃ちたくてねスピネル」
魔法ロープを全身を隠して現れた。
フード付きを目深にかぶっていて口元しか見えない。だがそれだけで十分だった。
ふてぶてしく現れたのは妙なほど威厳があふれる深みのある声。それに相反するように外見や背丈は幼い子供だった。しかもジークフリートの外見から判断するなら、その背丈からは六歳か九歳と推定を下されるだろう。
「あ、アナタは……
盟主ジークフリート様ッ!?」
「ふっ、しばらく見ないうちに
守るのは傲慢の表れだよ。何でもかんでも防御しない回避するようにね。
それとだな私は盟主なんて恐れ多い。ただの善き隣人のジークフリートにすぎないのだからね」
小さな子を諭すように注意をする優しい声音。
ジークフリートこと本名の
彼はここの住人では危険分子である人間である。
少年の皮を被った翁を前にしてスピネルは警戒や敵意を氷山する。剥き出さないのは坩堝の魔界を守護する者そして統治者だからだった。
「至れなかったところ肝に銘じます。……それでジークフリート様はどうして斯様なところでおられるのですか?」
「フム決まっておろう。
可愛い子供を見送るためよ。ここに住むすべてが私の子供であるからな」
「こ、光栄であります。
ただのエルフにすぎない自分なんかのために」
敬いながらもスピネルは違和感を覚えていた。
ジークフリートこと佐々木陸は、常人でなら気が狂いそうになる六千年という無限ともされる悠久の時を生きてきた長命者の一人だ。
長く生きられのはエルフよりも超える領域。
とはいえ自分よりも幼く見える少年が年配として接することにどうしても疑問をぬぐえないのだった。
「ほれ堅苦しいぞよ」
ジークフリート(佐々木陸)は両手でフードを後ろに払うように下げる。あらわになる顔立ちは坩堝の魔界を統べるとは思えない平凡的だった。整えられた黒の短髪と同色のおおきな瞳。
だが年相応の瞳には、感情の色が褪せていた積み重ねていた長い人生を物語るような瞳だった。
加えて何故かジークフリートは威厳を出そうと白髪のカツラと付けヒゲを付けているが子供が背伸びしているようにしかみえない。
「はい」
「フム、カンヒザクラは真っ直ぐで迷わない子であった」
「えっ、あの、ジークフリート様?」
「まあ、そのままで聞くがよい。
私にさえ詳しいことを何も告げずに旅立ったよ。
……不甲斐ない、危険を
苦渋に苦しみながら目を伏せたまま滔々と語り出していくジークフリート。スピネルはそれは違うと否定したかったがその場で安易に否定する場面じゃないと引っ込めた。
言葉が見つからなかった。
盟主の言葉は続く。
「そこに思想や信念があって人間たちも戦っている。だが罪も罰のない他種族を侵害していくことを正義と政治的な主張をする。
まったく、とんだ確信犯だよ」
確信犯、とはそれが正しいと信じて行う犯罪。
主にテロリストや必要悪と信じている犯人らのことで法律の場でよく使われる言葉である。
「で、でもジークフリート様は私たちを救った」
「慰めなくともよい。
それよりもスピネルよ、閑話休題だ。
見せてもらった魔力武器、とはいえ攻守ともに優れた〖
節約が必要、これを持っていきなさい」
そう言うと懐から取り出したのは円盤型の機械。
円盤型を珍しそうに眺めてから受け取る。
「あの、もしかして魔導器ですか」
「そうじゃあ。〖関門〗を常時起動するもの。
人間は不要なものではあるがスピネルは必需品であろう」
「あ、ありがとうございます。
そんな貴重な物いただけるなんて」
魔力武器にある貴重なエネルギーを温存するためには喉から手が出るほど欲しかった。
目を輝かせてスピネルは深く頭を下げて手のひらの魔導器を受け取るのだった。
「気にせんでよいのじゃ。もし辛くなれば、いつでもここを戻ってくるように。
境目を超えたからって戻らない決断なんてしなくていい。自縄自縛することは必要ないのだよ」
「ジークフリート様……」
おもむろにジークフリートは、その達観の境地に至った瞳を彼女が越えようとする道の先を向けた。
そこからは別世界となる。なんら比喩的なものではなく二人が立つ空と進むべき先の空は差異がある。空は群青色で晴れという景色は同じようで似ているにすぎない。
酷似した本来の世界が世界の景色、本来の景色をジークフリートは苦い顔で見つめる。
(坩堝の魔界の一部では人工的な朝日や夜にと意図的に回れている。けど世界は、ずっと正午で止まっている。
可愛いスピネルたち他種族にはこんな残酷な事実は言えない、言えるはずがない。……雨や雪の天候も含めて発生させているのは魔導器が稼働しているからで……
実態実験の成果による産物なんて)
ジークフリートもとい佐々木陸には人類を見限って他種族についた。罪滅ぼしとして世界がめちゃくちゃになる前を知ってもらいたい一心、それと防衛のため魔導器を積極的に
利用していた。
「私、そろそろ行きます。
必ず帰ってきます。あの、お世話になりました」
「……武運長久を祈らせてもらうよスピネル」
とつおいつ進めずにしていたスピネルは、揺るぎそうな心を灯らせて境目を超えた。
――イルデブランドと盟主ジークフリートに見送られたスピネルは地図を広げながら果てもなく歩いていた。
歩きつづけて数時間が経過する。
体幹時計から夜と告げる、だが外は明るいままだ。ここが仮初の世界からの外か……とスピネルは空を見上げながら
テントを張ろうとして、キィンキィン。
きしむ機械音の音に手をとめた。
地面に置いていた槍を手にする。
「……ッ!?」
樹林の中ならヒューマンは近寄らない。
開けた場所で焚き火したからとエルフは自分に叱責する。
後悔は後だ!と雑念を払う。開けた場所音が鳴る方へ睨んだ先には円柱形のロボットが複数なだれ込んできたのだ。息を呑むエルフ、数十体ほど魔導オートマトンの後ろから現れるヒューマン。乱れた髪、白衣を纏うのは中年の男性。
「あっはは。まさかこんな辺地に野生のエルフが迷い込んでいたとは。非常に運がいい。
運がいいぞぉぉぉーーーッ!!」
「うッ」
その男は目が血走っていた。
スピネルは狂気に気圧されながら一瞬で立ち直る。砕けそうになる心を奮い立たせて突撃を敢行するのだった。
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