記録6―平穏と冒険そして邂逅⑥―

はやてと吹かれる木の葉のように駆ける姉妹。

追跡者をどうにかけむに巻かす。

脱走は無計画ではなく、姉のカンヒザクラは確実に逃走するため事前に計画。なんども試行錯誤をしては練り続けて密かに立てていた。そのお陰で厳しい雨で景色が白く染めても、周囲の地形を頭に入れてスムーズに迷わず進行していく。


(考えが及ばないほど熟考したから失敗する可能性は高くはない。考え抜いたプランでも改善できないのは、体力!)


実行して、ここからは体力がどこまで持つか。


「ぜぇ、はぁ。くるしい息が。

スピードダウンお姉ちゃん……ま、待って速いよ」


「そうか。そうよねスピネル小さいのによく完頑張ったよね。エラいエラい。

ここから私の背中に乗って行くから」


「ううん。そんなことしたら負担が増えるから駄目だよ。だから自分の足で歩くから。

着くまで、最後まで振り絞って」


「スピネル……本当に偉いと思うよ。

うおおぉーー!行くよスピネル。ここを突破するのは根性ぉぉぉーーッ!!」


「こんじょうォォォーーッ!」


頼らずに自らの足で行こうとする。踏んだ水溜りが跳ね返って服装を汚れるのを頓着せず。とにかく進めと鼓舞して奮い立たせる。

駆けて、走り、全速!

ようやくエルフ姉妹がたどり着いたのは目的地である長野県。


「や、やっと着いたのよスピネル!とうとうここまで……。

そう。ここまで、来れば追ってこられない」


「うやあぁーーッ!やっと着いたんだね!!

お姉ちゃん、ここがわたしたちの……楽園」


「そうだよ。そう!やっと……やっとだよ。

もう実態実験でされることや同族をあやめる戦闘しなくていい!もう安全圏。

ここから始めよう。私たち普通の生活をねぇ」


「うん。ここで普通の生活がまっている!」


エルフの姉妹たちは足を踏み入れようと進む。

そこは不遇に扱われてきた異なる種族の者たちが集まり住まう小国家。比較的に統治の数少ない場所のここは〖坩堝るつぼの魔界〗。

人々の娯楽や欲求を満たすために別の生命体を作り出すことになった世界。そこに住む生物は、あまねくそれらの生命は時の針を進めることをやめてから暫くしばらくのことだった。

次世代の生命を生まれること無い……。

人々はやりすぎた。

政府機関や軍隊を凌駕する魔法は、秩序と法律を破壊して地球を住まうには苦しい星となった。

生まれることのない生命の代わる新しい生命。それがゴブリン、ドワーフ、そしてエルフであった。

そして季節は移ろず年月だけが流れる。

――スピネル達はここで暮らして九年後。


「姉さんは言っていた……

明日よりも一年後の先をみる。

これがどういう気持ちで教えてもらったのか今は少しだけ理解しているつもり。

でも真意は、まだ霧に塞がったままにある」


レンガ造りの建築物。

築は何年かは過ぎているリビング。

木材のダイニングテーブルの前で椅子に腰掛けているスピネルは真向かいにいる男にそう語った。


「それは……なんていうか。また叙情的なことで」


反応に困りながら左の頬を痙攣けいれんして微苦笑をするドワーフの大男。

白の半袖シャツとダメージジーンズを身に纏っている。半袖からのぞく四肢ししは丸太のように太く屈強さをこれでもかと表す。

そのドワーフの名はイルデブランド。彼もスピネル、カンヒザクラと研究所から逃れた一人だ。

九年前にイルデブランドと連れて逃げなかったのはおとりとなってくれたからだ。

そのあと無事に逃げ延びた。


「いやぁー、そんなこと無いですよイルデブランドさん。

わたし真剣に考えているのに叙情的なんて」


不機嫌なのか照れているのか。

いや感情が綯い交ぜっただけだろうとイルデブランドはそう解釈した。


(あんなに病弱だったスピネルこんな成長するなんてな。時が経つのは早いものだ。

こんなに元気になって……)


「えっ?な、泣いているのイルデブランドさん」


「な、泣いてなんかない。僕は泣いていない!」


「アハハっ、そうですね。

イルデブランドさん感情にもろいですもんね。

あっ、卵焼き今日も絶品でしたよ」


「ハハッ、それはどうも。

もし娘がいたら……こんな温かい気持ちなのかもしれんなぁ。

僕をパパとそろそろ呼んでほしい!」


「うわぁー。考えさせてもらいます、っていうかイルデブランドさん二十代半。わたしとそう変わらない歳なのにおかしくないですか!?

ここは、お兄ちゃんと願望するところでは?」


「僕の心情的にはスピネルは子供」


「その理屈ですと姉さんのカンヒザクラも娘ことになりますよ。

それだと姉さんとつがいにはなれませんよ。

それでもいいのですかねぇ?イルデブランドさん」


「ぐっ、それは…………確かにこまる。

あとつがいなんて言葉を言うな。

婚姻関係になると言いなさいッ!」


明後日の方向へと視線を向けて応えるドワーフことイルデブランド。

ここで否定するのはしたくない彼の性格がよく表れる反応だった。そんな未来の義兄になるやもしれない羞恥に頬を染める姿をまのあたりにしてスピネルは生暖かい目と嘆息をした。

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