記録5―平穏と冒険そして邂逅⑤―

――現在からさかのぼって九年前

つぶてのように篠突く雨。光が差し込まない曇天。

暗い、、空の下に振り落ちる雨滴うてきで地面の緑は濡れる。泥濘となる緑地で足を取られながらも必死に逃げようとする姉妹がいた。


「はぁ、はぁ……もう少し。もう少しだよ。

楽園に着くまでの辛抱だからねスピネル」


「ぜぇ、ぜぇ……うん。お姉ちゃん」


桃色で同色の髪を揺らす姉妹。

暴風で激しく樹木はゆすぶれてギギっと今にも倒れそうな音で軋み立てる。

世界が止まってから太陽と月の恩恵を受け無くなった。日本にいるときでの外は晴れやかで昼間で天候はそれで停止した。だが現に荒れ狂う暴風雨となっているのは理由があり、局地的という一部になるが天候を魔法で発生することは出来る。

しかし魔法の効力が切れるまでで霧散すれば元通りの天候へと戻る。

そんな事情をまだ知らぬ二人の姉妹は、ある新潟県にある研究所から脱走している最中だった。

ここで捕まればアザが出来る殴打または骨が砕くまで折檻せっかんさせられる。

それを過去に試みて失敗した被験者を見てきたからこそ十二分に知って見たからこそ姉は命がけで走っていた。

逃走中の姉妹は平凡な容姿ではなかった。

それは絶世の美貌を誇るとかでの容姿の美しさではなく根本的なものによる。幼い姉妹は耳が異様なほどに長いのだ。

つり上げたような細長く伸びた耳。

ゲルマン神話の起源を持つとされるエルフ。

その伝承などで伝わる架空の生物。

幻想の生き物エルフをモデルとして開発されて経緯から次世代エルフの姉妹だった。

そのゲルマン神話や他の紡ぎだした物語にはどれも属さない存在。

妹のスピネルは振り返った。握る手には微かに震えている。促して引いてくれる姉の手のまま走り続ける。その手を決して離すまいとスピネルは強く握って途方もない道をひた走る。

スピネルは濡れた土に足を取られる。


「きゃあッ!」


「スピネル危ないッ!?」


地面は滑りやすく、いつ転倒してもおかしくない。

大事な妹が斜面に落ちそうになり咄嗟とっさに手を伸ばした姐のカンヒザクラ。

なんとか引いて戻すと妹のスピネルは身を翻して恐怖から逃れるようにハグする。

それを姉は受け止めて優しく背をなでる。


「うわああぁーーッ!助かった。……あ、ありがとう助かったよ、お姉ちゃん。

こんな足でまといでごめんなさい」


「何を言うかスピネル。足でまといなんてそんなわけがないよ。ほら急ごう」


「うん!」


素直にスピネルは頷いて返事をする。

姉のカンヒザクラと手また掴んむと険しい道々を横断していく。

この雨は研究所から作られた機械によって魔法の雨を人為的に降らせて逃走を困難とさせている。けれどそんな悪辣な雨なんかには姉妹は負けずと、がむしゃらに足を動かし希望の地へと向かわんと前に前と進み出す。

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