記録4―平穏と冒険そして邂逅④―
彼の朝やることのルーチンとしている鍛錬。
六千年ほどの弛まぬ鍛えていくことは自己鍛錬もあったが他にも理由はあった。
時差的な感覚のズレで調子外れとなること。
時の流れが止まった中を生きている彼は毎日に欠かせていない日課をサイクルとすることで頭や魂をそれを理解させるために必要な儀礼的なものだった。
「よし、これぐらいでよいだろう。
朝の訓練はこの辺にしておこう。
戦闘モード終了せよハルピー、そらそろ耕した畑の収穫したい。
タスクを移行。農業システムにと起動」
腕に身につけた白銀の盾〖ディジションアップ〗を真横に振り払うような動作。すると盾は粒子へと大気へと流れる。
複数の粒が拡散していき霧散した。
「了……解。いたしました」
破壊の威力を直撃したオートマトンは音声に支障がきたす。ぎこちなく応答と立ち上がる禿頭の巨漢ハルピー。大剣を背に戻して畑の方へと足を前へ向けて進んでいく。
「どうも無理しすぎたか……稼働の限界までは遠くないか。皮肉かな、ロボットが壊れる姿に見出せるのは滅びの美学。
けれど人間はその壊れることも滅びの概念が薄れた。それを教えて学べるのが人ではない人工的なもの。……生きる美しさを放つこともない」
健気に与えられたタスクを達成しようとする歩いていく機械の背を眺めて胸中に去来するのは。
内ケ島ウジマサが遥かな在り方となったことの哀愁感に浸かる。いつ失ったのか。
その悲痛な噛み締めるような顔をしたのは一時的で変貌した失ったものに振り払う。
それからハルピーの背には肌が剥がれている。
――戦闘で受けた傷が……もとい鉄製なのだから損傷と呼ぶべきだろうなぁ。
内ケ島は苦さの思い出をまたも浸かりそうになり振り払うようにして後を追う。
「なおせるか。ハルピーは旧式ロボット、搭載しているAIはいずれは自我を持ち人類に反旗をひるがえすとか職業の入れ替わりなんて危惧されていたが……」
シンギュラリティという言葉があったなあと内ケ島は懐かしむ。
「いまやその魔導オートマトンが人の支えになってしまうなんて。当時の儂が……いや人々はそんなこと想像もつかなかっただろう」
ボソッと嘆きのまざった独白をこぼす内ケ島。
ハルピーという親しみをこめて魔導オートマトンを特別な名として名付けた自立機動兵器。その動力源となっているのは、およそ手のひらしかないサイズのラチオの碧落石。
その欠片に魔法の行使するためのエネルギーが凝縮しておりコアにしている。
それだけでは膨大な量で他に回すには足りない。それを克服させたのが魔法エネルギーであるジェネシスエネルギー。大量の消費を抑えるため、動作を細かく精密かつ人間のように近づいて流れる動きをさせるために多数に張り巡らせる必要がある。
その代替として化学のエネルギーの擬似的な魔法原動力で動かしている。
そういった経緯で魔導オートマトンは魔法と化学でない混ぜったハイブリッドである。
「さあ、ハルピー
「んっ。ああ、気を使わせてしまったか」
「気にするな」
戦闘モードから畑を耕す機能へと移行モードのハルピー言動は著しく変わる。
今の魔導オートマトン〖ハルピー〗は荒々しい戦士から人当たりがよく廃業せざるえない元戦士と設定にしていた。
「さて儂も畑の仕事するか。ハルピーは、あそこのナスとニンジンを採ってくれ。
もう収穫時期はずだろう」
「はい、分かりました内ケ島さま」
畑を耕すことも日々の流れる一つのルーチン。
当然ながら富士山の山頂には畑なんてあるはずが無かった。それ以前に高所である剣ヶ峰には火山活動による保水性の低さに低温などから野菜どころか植物が育つには適さない地である。だがそれを魔法で畑を包ませて解決させた。
ここを
あまり強引な手段を取ったリフォーム。
無理やり栄養のある土地を豊かな自然にと変化させて野菜やくだものを収穫するといった生活を暮らしていた。マイホームとして利用している剣ヶ峰の測候所へ帰った。
もし誰かがこの現状をしれば度肝を抜いて神聖な場所を罰当たりなと叱責や底の見えない精神に呆れていたことだろう。
採りたての食べ物をすべてハルピーに任せる彼は自室として利用している奥へと入る。
これだけを齎した魔法の到来した世界には置かれていなかった本棚の中から一冊のハードカバーを取り出すとソファーに腰掛けた。
脱力してイスの背凭れに深くもたれながら内ケ島が手にした本は〖魔術に覚醒されし新人類〗という
「生活と社会まで溶け込んでしまった魔法という便利な
それによって幻想を抱くほどの価値は急暴落した。なんだって誰でも使えるような魔法なんかにトキメク奴はいない。
スマホの普及率の高い国でスマホを持っているだけでチラホラされるなんてマニアレベルだ」
ここには内ケ島しかいないというのに説明するような口調で独白することをやめることない。
するとギギっとドアが軋む音が聞こえて振り返ることなく彼はハルピーに労いの言葉を送る。
振り返らなくともドアを開けたのはハルピーだと知れたのは住居しているのは彼がよく知るからだ。
「それでは役目をすべて終えましたのでスリーブモードへと移行させてもらいます。
よろしいでしょうか?」
「ああ、好きにしろ」
「はい」
なんとも温かみもない会話だろうか。
どこか自虐的になる内ケ島は苦笑をこぼす。それは短い笑みで、すぐ本の中に没頭するのだった。
「おいハルピー。
そうか今日のノルマ達成して眠っているか。
だが今日は
それから懐かしみながら数分後に船を漕ぐ。、そして前後に揺れていた眠気に抗われず誘惑に喫した内ケ島は眠りに落ちるのだった。
――そこは地獄の光景だ。
燃えている。苛烈に、果敢に、鮮烈に。
そんな地獄でもあり混沌の狭間にいる俺の手のひらで命が途絶えようとする大事な仲間の一人であった女の子が言った。
『私たちの分も生きて』―――
「――くっ、悪日にもほどがある。
夢ぐらいは良い夢だけをみせてくれないのか」
魔法よりも夢を見るようになった魔術の物語を紡ぐ本を閉じると元の棚になおす。
そのあと内ケ島は別の本を取り出した。そして執務机のイスを引いて腰をおろすと本をめくる。
その本は専門的な魔法を工学にとした学術書、ページあちこちに
「諦めるわけには、いかないからなぁ。
旅団の唯一、生き残ってしまったからには研鑽を重ねないとならないんだ!
哀愁と郷愁に駆られながら内ケ島は、ながく長い間に時と労力を費やして魔法の解明せんと研究するのであった。
その姿は風が寂しく吹くような孤独の姿。
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