記録2―平穏と冒険そして邂逅②―
それまでの魔法は架空の産物であった。
魔法は人の手で簡単に発現させる。親和性が高まり人類に欠かせないものへと広まる。
研究は進みメカニズムが確立。
ファンタジー産物にすぎなかったはずの魔法は現実の産物となり、また超常現象とも呼ばれる産物は人為的に引き起こせる。
『魔法を使えるようになれば退屈な人生はさらだ。
このチカラがあれば腐敗した世界を救える日々が待っているぞ』
『』
多くの人は力を得てこの考えに至った。
落下した隕石の一部でも触れるだけで魔法の過程をすべて網羅していき発現するようになる。
そして副産物として知恵を人類に与えていき好奇心に刺激された。魔法で
だがその好奇心が人類史で類をみない破滅と混沌の到来を告げるものであった。
――魔法の定義が成立してから
時代は嵐の如く過ぎてゆき最初に発見した人から数えて時代。
六千そして八十の年が経過――
「ほわぁー。フムもう朝であるか。
いやぁー、よく眠れた」
フワフワのペットから身を起こした少年。
地毛を染めたとは思えないほど自然でつややかな浅緑の髪。よく眠ったとは独り言をしたとは思えない彼の眼は眠たげだった。
そんな特徴的な髪の色をした少年の名前は
「朝なんて味わう心まだあったのか……我ながらおかしいことを呟くものよ。
もはや夜は迎えず変わらぬことこない時刻だというのに。
世界を魔法ですり減らした代償に凍結状態。あれから六千年となるか……六千年と経っても慣れないものだよ。ハッハハ」
誰もいない室内で彼は独白をつづけた。
ここで孤独に暮らしていた内ケ島はおかしくなり盛大に、愉快そうに、乾いた声で笑いを上げる。
この世界が法則を大きく変わってしまった。
魔法は人の手によって発動させる。それまでなら人の手では不干渉であったはずの“法則”が影響を及ぼすこととなり干渉する手段を手に入れた。
魔法のプロセスには使用者の事象を起こして欲しいと祈り望んだものへと形にして現象として改変させる。一つの現象として。現象の故意で起こしたものは特別な素質や資格も必要なかった。ただ落下した隕石である”ラチオの
さらに!真相にもっとも近くで深淵まで手を伸ばせる
(そのせいで世界が滅茶苦茶だがな)
魔法をイタズラに使い続けたことで事象の変化を対応することが出来ず世界の在るべきものは壊れた。
快晴の昼だった時刻をそのままに停滞となった。
――内ケ島は窓をおもむろに開けると気持ちのいい風が勢い室内に入るのを味わう。
「永久に移り変わらないものは存在しない。
夜も朝といった変化は失ったのだ。また訪れることありはしない決して……」
独白しないと心が保てない。
内ケ島は数千年も生きて変わらぬ無窮の空を眺めてきた。
もはや刻まれることをやめてしまった空を見つめる内ケ島の背からは新風が吹くことはなく哀愁が漂っていた。
風だけが寂しく彼の頬をなでていき生命を主張するように吹いていく。
「時を隔離されたのは人も同じ、成長することない身体も手に入った。
事実上の不老長寿がやって来た」
溜息を吐くと誰もいない室内で続ける。
「そのかわり生命の誕生はなく、背が伸びることや成人を迎えられなくなったが」
やるせない露悪的な呟き。
当初は太陽の異変にざわめいた。調査を行ったが問題がなかったと発表されていた。
他の惑星からだと軌道が問題なく正常に回っている。けっきょく時流と生命の流れが停滞したことは解明することなかった。
地球の景色すべてを写真に撮って中に飛び込んでいるような感覚。
「もう、やめいじゃあ。
生命に溢れた嘗てを見ることない。もはや望郷を懐かしんだって
独白するしかない。
重たいため息を吐いて窓を閉めだす内ケ島。
儂という
「歳を、取りすぎると生きる意欲が湧かない」
少年の見た目はどこからみても中高生だ。
仮に大人として信じるなら童顔としても大学生ぐらいだ。その容貌とは裏腹に精神だけが積み重ねていた。
彼の精神はとうに数千年も生きてきた。仙人のような時間を生きた。
世界が移り変わることを失ったように人類も失った。歳をとらず老化することのない、それは完成された不老長寿。
これには感涙に
変化しなくなる事は、幸福ばかりではなかった。
新たなる生命の芽吹きが停滞。
生命の誕生がなくなったことで人口は増えることはなくなり減る一方となった。それからは減少していくだけで止める術は無かった。いや唯一と発見したがそれは
内ケ島は顔を洗うとそのまま建物から出る。
ドアを開けてビュー、ビューと強風が襲う。
「そうだ。忘れていた」
体内に宿られた異質の力を練る。
魔法の発動だった。
内ケ島ウジマサの肌の上から視認のできない障壁を編み出して包み込む。
それによって荒々しい風を防ぎ、跳ね毛のある髪にも揺れさえもない。
「よぉ、来てやったぜぇハルピー。
今日も朝のトレーニングモードに付き合ってもらおうか」
手を挙げて快活な笑みの内ケ島。
木で切られた根元の部分だけ残った切り株の上に腰掛けていたスキンヘッドの男。
「…………フン、いいだろう」
閉じていた目を開ける。
鍛えられた屈強な身体を持ち上げるように立ち上がる。三十半ばほど過ぎたハルピーと呼ばれる男は武器を構えるのだった。
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