14. 柔らかなふくらみ
全力疾走で疲れてうまく力が入らない。
ハァハァハァ……。
しばらく息をつき、
「せーの!」
渾身の力を込めてマンホールをこじ開ける。
しかし、マンホールは鋼鉄の塊だ。想像よりはるかに重い。あれだけ力をこめてもわずかに動いただけ、とても開かない。
「くぅぅぅぅ!」
再度全身の体重をかけてみる。
しかし、開かない。玲司は焦りで汗がだらだらと湧いてくる。開かなければ人生終了なのだ。
「何やってんのだ!」
美空が追い付いてきて一緒にバールを押し込む。
「せーの!」「そぉれ!」
ふんわりと甘酸っぱい美空の香りが漂ってきて、発達途中のやわらかな胸が腕に当たるが、そんなことにかまけている場合じゃない。
少し動いた。あとちょっと!
「うぉりゃぁぁぁ!」「そぉれ!」
ガコン!
ついに蓋が開いて中の様子が顔を出す。
「よっしゃー!」
玲司はズリズリとマンホールをずらし、その
はぁっ!?
「くぁぁ! どれ? どれだよぉ!!」
玲司はシアンに聞いた。
「えっとねぇ……、ダメだ。データにはないなぁ。昔の写真見ると黒なんだけど、この黒とは太さが違うゾ」
グォォォォン! ブォンブォォォン!
静かなオフィス街に爆音が響いた。
「あちゃー……」
シアンが額に手を当てる。
玲司は真っ青になった。もう全部切ることなんてできない。どれか選んで挑戦するしかない。しかし、どれを?
まさにロシアンルーレット。間違えたらひき殺される現実に玲司の心臓はバクンバクンと音を立てて鼓動を刻んだ。
「青なのだ!」
美空は曇りのない目で青いケーブルを指さす。
「え? なんで?」
「いいから早く!」
キュロキュロキュロ!
暴走車が向こうのビルの角を曲がってやってくる。もう猶予はなかった。
「美空は正しい! これ、言霊だからね!」
玲司は、なぜか湧いてくる涙で揺れる青いケーブルめがけ、渾身の力を込めてバールを振り下ろす。
キュロロロロ! ブォォォン!
真っ赤なスポーツカーが最後の角を曲がり、視界をかすめ、突っ込んでくる。
玲司には、まるでスローモーションを見ているかのように全てがゆっくりに見えた。
渾身の力をこめ、振り下ろされるバール。
ガン!
バールは青いケーブルを直撃し、めり込む。
手ごたえはあった。
「逃げるのだ!」
美空が玲司の手を取り、急いで街路樹の方へと引いた。
轟音をたてながら迫ってくるスポーツカー。引っ張られる玲司。
直後、間一髪スポーツカーは玲司の身体をかすめ、通り過ぎていった。
しかし、玲司は段差につまづき、転がって、美空を巻き込んでいく。
「うわぁ!」「ひゃぁ!」
石畳でできた歩道の上をゴロゴロと転がる二人。
イタタタタ……。
あちこち打ったが最後は柔らかいクッションに受け止められた玲司。
甘酸っぱい柔らかな香りに包まれる。
こ、これは……?
目を開けると柔らかなふくらみが……。なんとそこは美空の胸の上だった。
「ちょっと! 何すんのだ!」
ビシッと鉄拳が玲司の頭を小突く。
あわわわ……。
急いで体を起こすと美空は胸を両腕で隠し、涙目になって玲司をにらむ。
「ご、ごめん。不可抗力だよ。今は緊急事態。ねっ!」
「このエッチ!」
美空の渾身のビンタがバチーン! と玲司にさく裂した。
ぐはぁ!
「もう! 油断もすきも無いのだ!」
プンスカと怒る美空に玲司は圧倒される。
「ゴメン! ゴメンってばぁ!」
「もう知らない!」
プイっとそっぽを向く美空に玲司は言葉を失う。
殺されそうになり、ビンタを食らう、もう散々である。
「ほらほら、遊んでないで早く行くゾ!」
シアンはじゃれあう二人を見ながら呆れた顔で大きく息をついた。
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