9. ガールズトーク
シアンはふわふわ浮かびながら、能天気に言う。
「最後に100%にすればいいんだよ。それじゃ、予備の眼鏡を彼女に渡して」
玲司はそんなシアンをジト目で見て、ため息をつくと眼鏡を少女に渡した。
美空は眼鏡越しに見えるシアンに驚いていたが、
「シアンちゃんかわいぃのだ――――!」
そう言って嬉しそうにシアンの姿に近づいて握手の真似をする。
「ふふーん、ありがと!」
シアンは上機嫌にそういうと、デジタルのバラの花をポン! と出現させ、美空の髪につけた。
「お礼にこれをどうぞ。うん、美空に似合ってるゾ!」
美空はシアンの出したデジタルの手鏡をのぞき込みながら、キラキラと光の微粒子を振りまく真っ赤なバラの花に驚く。
「うわぁ、ありがと!」
満面に笑みを浮かべる美空。そして、
「その服、凄いかっこいい! 自分で作ったの?」
と、目をキラキラさせながら、ひらひらとしている腰マントを指で揺らした。
「もちろん! このひらひらがポイントなの。美空のワンピースも可愛いゾ!」
と、キャピキャピとガールズトークを繰り広げる。
「そんなことやってないで、次はどうするの? 大手町行けないじゃん!」
命を狙われている玲司は、能天気な二人にいら立ちを隠さずに言った。
「なによ! 分かってないわね! こういうグルーミングが女子には大切なのだ!」
「そうだゾ、そんなんじゃ女の子にモテないゾ!」
二人は呆れたように玲司を責める。
女の子たちに責められると弱い。玲司は気おされながら、
「わ、悪かった。でも、大手町への行き方、考えようよ。頼むよ」
と、泣きそうな顔で頭を下げる。
「そんなの地下鉄の線路歩けばいいのだ!」
美空は人差し指をたてながら、ドヤ顔でとんでもない事を言い出す。
「へ? 線路?」
「電車止まってるんでしょ? 道は危ないんでしょ? 線路しかないのだ」
美空は呆れたような顔で玲司を見て言った。
「いや、でも……、歩くの? 線路を? え?」
自分より腹をくくっている美空に圧倒され、玲司は言葉を失う。そんなこと全く思いつきもしなかったのだ。
「この先に地下鉄の保線用の入り口があるゾ」
シアンはそう言って地図を空中に広げる。
「あ、ここならこう行けば安全よ! ついて来るのだ!」
そう言うと美空はワンピースの
「え? はぁっ!?」
「何やってんの! 急いで!」
そう言いながら美空は裏庭の方へスタスタと走って行ってしまう。
「ま、待って……」
玲司は辺りを見回し、急いで柵に手をかける。
「お、おじゃま……しまーす……」
まるで泥棒になったような罪悪感にさいなまれながら、玲司は美空の後を追った。
そうやって裏道、小路、人の庭を
「玲司! ペンチ!」
美空は玲司に手のひらを差し出す。
「ぺ、ペンチね……。はい」
玲司はリュックから出して渡す。
すると美空はフェンスによじ登り、手際よく有刺鉄線をパチパチと切ると中へ飛び降りた。
え!?
白いワンピースはすでにところどころ赤さびなどの汚れがついてしまっていたが、美空はまったく気にしていないようである。
玲司は、お嬢様学校のJKが、どうしてこんなサバイバルスキルを身に着けているのか困惑し、立ち尽くす。
「ご主人様、急いで!」
お、おぉ。
シアンに催促され、あわててフェンスをよじ登った。
美空は建物のドアノブをガチャガチャと動かすが、鍵がかかっている。
「ダメなのだ……」
そう言うと、辺りを見回し、物置に走ると、ダイヤル錠をいじり始める。
「えっ!? 開けられるの?」
「静かにするのだ!」
美空は真剣な表情でダイヤル錠を引っ張りつつ、数字のリングを静かに回していく。その横顔は凛々しく、頼もしく、玲司は思わず見入ってしまった。
「ヨッシャー! 開いたのだ!」
美空は会心の笑顔で玲司を見た。
「おぉ、凄い……」
玲司は、まるで自分のことのようにグイグイと状況を切り開いていく美空に圧倒されながら、ただその美しく整った笑顔に釘付けになっていた。
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