*リアム*
第67話 結界を見つめる男
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星一つない夜、雪は、静かに荒ぶっていた。
遮る木や建物がない川辺に立ち、男は仄かに碧く光る流氷の結界を眺めていた。
ざくざくと雪を踏み分け入ってくる音がして、ゆっくりと振り返る。
「来たか、イライジャ」
神妙な顔のイライジャ・トレバーが重い足取りで近づいてくる。背ばかり高くなった彼に、右手を上げてあいさつしようとしたが、肩に痛みが走りやめた。顔を歪めると、イライジャは心配そうな顔で駆け寄ってきた。
「オリバー大公。大丈夫ですか?」
自分より少し目線が高い男に、オリバーは笑みを向けた。
「私はいい。……リアムの身体、そろそろ限界だろう? こんな膨大な魔力を使う結界など作って。目覚めときは驚いたよ」
「申し訳ございません。止めたんですが、聞き入れてもらえませんでした」
「イライジャたちには苦労かけるな」
「いえ。陛下のためですから」
オリバーは苦笑いを浮かべた。
「まあ、いい。私が皇帝につけば、すべてが終わる。リアムをこの忌々しい血から解放する」
イライジャは静かにオリバーに頭を下げた。
「イライジャ。報告を」
「はい。以前侵入した経路は警備を厳重にしました」
「そうか」
「あと、あの場所に魔女が入りそうになりましたが、ビアンカ皇妃が現われ、追い払ってくれました」
「……魔女が入りこんだ? それは、偶然か?」
「はい。偶然、迷い込みました」
オリバーは腕を組んで考え込んだ。
「少し、急いだ方がよさそうだな」
イライジャは目を見張ったあと、戸惑いながら言った。
「ですが、まだオリバー大公のお身体が万全じゃありませんよね。……準備もまだ済んでおりません」
「急いては事を仕損じる。が、いい加減私もリアムに会いたい。その魔女にもお目にかかりたい」
オリバーは懐からサファイア原石を元に作った魔鉱石を一つ、取り出した。
指で掴み、しばらく輝き具合を確かめると、そのまま流氷の結界の中へ投げ入れた。
流氷には何の変化もない。
「イライジャ。準備は任せた。魔女は引き続き見張れ。……『彼女』の為にも」
「仰せのままに」
オリバーは流氷の結界に背を向けると、以前よりも動かなくなった身体を引きずるようにして雪の中を歩き出した。
そのあとをイライジャがついてくる。
ふと、オリバーは立ち止まると、一度空を見上げた。雪と暗闇を、慈しむようにしばらく眺めた。
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