第32話 侍女ライリーの諫言

「静かなお二人ですね」

「これから仲よくなっていけばいいわ」

 不安そうなライリーを励ますために言葉をかけた。すると彼女はミーシャをきっと睨むように見た。


「それよりもミーシャさま。とんだ自己紹介になりましたね。さすがです」

「……そうね。ええ! こんな予定ではありませんでしたよ」

 ミーシャより年上のライリーは容赦なく主を叱る。小言の熱が上がる前に逃げようと、雪だるまがある出窓に移動した。


「側近方がいる前で、陛下に向かっていきなり結界を解け、なんて言うからですよ」

 逃げるミーシャの背に向かって、侍女は容赦ない言葉を浴びせてきた。まともに食らってしまって足を止める。

  

「だって、流氷の結界が想像以上の規模だったんだもの」

 窓の外に見える、氷の川を指さして訴えた。


「魔力の使いすぎで陛下の顔色は悪くて、手は氷のように冷たかったの。あんなことしてたら身体おかしくなる。なのに誰も止めない。私がお願いしてたところで聞いてくれない。頭にかっときて……」

「皇帝に向かって、かっとならないでください」

 侍女の指摘はもっともだ。言い返せないで口を噤んだ。


 開口一番、結界を解けと言ったのは、今すぐにでも魔力の放出を止めた方が良いと思ったから。

 そばで使える侍従たちはリアムの体調に気づいているのか、知っているのならどう思っているのか、知りたかった。


 薄々気づいてはいたがどうやらリアムは、平然を装うのが上手のようだ。

 皇帝の体調が悪いことがばれると思い、焦ってミーシャの発言を止めに来たのはジーンだけ。他は、皇帝を侮辱したと怒りの目を向けてきた。


「ミーシャさま、私の主はあなた様です。陛下を心配されるお気持ちはわかりますが、自分の事は差し置いて立場を危うくするのは、ほどほどにお願いします」

 留めの一言だった。完敗だ。彼女の心配が伝わってきて悲しくなり、下を向く。


「ごめんなさい。みんなを煽ったり、不安にさせるつもりはなかったの」

「……ええ。私はわかっておりますよ」

「ライリーの立場もあるよね。守るといったそばからこれじゃだめね。今度からもっと気をつける」

 ライリーはミーシャの側によると、そっと背に触れた。


「私たちはグレシャー帝国の中枢に居るんです。あえて諫言させていただきました。私はミーシャさまの味方です。されることを止めるつもりはありません」

「うん。ありがとう」

 ミーシャが顔をあげて笑いかけると、ライリーは不安を隠すように笑った。



「さて、我々の荷物が見つかるまで、用意してもらったドレスの確認をいたしましょう!」

 ライリーは気を取り直すように言うと、広い部屋を見回した。離れた場所にジーンが言っていた隣の衣装部屋に続くドアがある。彼女は広い部屋を移動し近づくと、中へ入って行った。

ほどなくして「ひっ!」とライリーの叫び声が聞こえた。

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