第31話 新しい侍女

「ミーシャさま。何か入り用なら、遠慮なくこの者たちにお申し出ください」

 ジーンが声をかけると、侍女が二人部屋に入ってきて、ミーシャに向かって丁寧にお辞儀をした。


「ユナと申します」

「サシャでございます」

 ライリーよりも少し年上の侍女のようだ。二人とも硬い表情をしている。

「ユナとサシャ、これからお世話になります。よろしくお願いします」


 お辞儀をすると、二人は驚いていた。顔を見合わせて少し困惑している。

「ミーシャさま、いつも言っているでしょう。侍女に敬語はいりません」

 こそっと注意してきたライリーに苦笑いを返す。

 よく身分を隠して街をうろついていたミーシャは、初対面の相手にはまず敬語を使っていた。その癖がつい出てしまった。


「少々手違いで今は二名ですが、すぐに侍女の増員をいたしますので、つかの間の間、ご辛抱をお許しください」

 ジーンは深々と頭を下げた。


「私にはフルラから連れてきたライリーもいますし、侍女はそれほど必要ありませんよ」

 薬の調合は危険を伴うこともある。人が多いと逆に不便だ。

「この部屋はそういうわけにはいきません。人員配置もありますし、陛下の様子も気になるので私もこれで下がらせていただきます」

「宰相さま、一つよろしいですか?」

 部屋を出て行く彼をミーシャは引き留めた。

「陛下は先ほども魔力を使っていました。何かあれば、知らせてください」

 リアムの体調が悪いのは一部の者しかしらない。言葉を伏せて伝えると、ジーンは目を細め「かしこまりました」と頭を下げた。


 ジーンが下がると、ライリーは肩の力を抜き、ふうっと息を吐いた。

「氷のような冷酷なお方だと聞き及んでおりましたが、心配しすぎだったようですね。ミーシャさまのこと、大切にしていただけそうで何よりです」

 ライリーは「ほっとした」と言って胸をなで降ろした。


「ミーシャさまは座っておやすみ下さい。私は荷物の整理……、あれ、持ってきた荷物はどこでしょう?」

 ライリーは広い部屋を見回した。馬車に乗せて持ってきた荷物は一つもない。

 ミーシャは、壁の前でじっと立つ、ユナとサシャに声をかけた。


「荷物を探すのを手伝ってもらってもよろし……探してきてくれるかしら?」

 敬語はやめたが、命令は無理だった。中途半端なお願いにユナとサシャはまたお互いの顔を見合い、そのあと頷くと静かに部屋を出て行った。広い部屋にはライリーと二人だけになった。




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