第30話 生まれ変わっても迷惑な存在
「夜はあなたさまのお披露目会を兼ねた歓迎パーティーです。ドレスや装飾品の類いはこちらで準備させていただきました。この部屋の隣が
ミーシャは、急に思い出した。
リアムの体調ばかり気になって、歓迎パーティーのことを忘れていた。
輿入れまでの準備期間が三ヶ月と短いのはグレシャー帝国からの要請だった。支度金はすべてグレシャー帝国が持つ。身一つでいいから早急に来て欲しいと言われため、ドレスや装飾品の類いはほとんど持ってきていない。
「宰相さま。パーティーの件ですが、私、どうしても参加しなければいけませんか?」
ミーシャの言葉にジーンは目を大きく見開いた。
「もしかして、出たくないと申されるおつもりですか?」
「はい。できれば……」
彼は間髪入れずに「だめです」と言った。
「フルラ国の公爵令嬢が陛下のお妃になる。陛下の御代はさらにより安泰だと、迅速に国内外に知らしめる必要があります。これはとても大事なことです」
「ですが、私は……」
仮の妃だ。本当の目的はリアムの治療。完治すれば、フルラ国に戻る身。
ミーシャが国に帰ったあと、リアムの未来と、名に傷がつくのは避けたい。
「私は、婚約者で、正式な妃にはまだなっていません。それに……魔女ですよ? 炎の鳥は今後治療で見かける事が増えるのでお披露目しましたが、私自身は表だって出る事は控えたいです」
ジーンは難しい顔をしながら首を横に振った。
「陛下のそばで治療するならば、ミーシャさまのお披露目も必要ですよ。世間の魔女の評判を心配しているのなら、なおさらです。人は知らないものを畏れるもの。ミーシャさまが先ほど炎の鳥をお披露目してくださり、みんなが炎の鳥は怖くないと見て知った。むやみに畏れなくていいと理解した。それと同じ事をするだけです」
ミーシャは目を泳がせたあと、下を向いた。
自分がどう思われようとかまわない。ただ、リアムの印象が魔女のせいで悪くなるんじゃないかと心配だった。
なるだけ目立たないでいるつもりだったけど、状況がそれを許さないならしかたない。
この期に及んでまだ及び腰の自分を叱るとミーシャは顔を上げた。
「わかりました。陛下のため、治療の間は彼の妃候補として努力いたします」
――俺に、断る権利は?
彼はもともと婚約に前向きじゃなかった。ミーシャに断ってもいいと言っていた。妃として迎え入れてくれたのは、治療に前向きになったからだと思っていたが、違った。
ミーシャがここへ来た目的はリアムの治療だが、彼の本当の目的はオリバー大公殿下の脅威から、クレアにそっくりなミーシャを守るためだった。
……おそらくリアムは、クレアの石碑前で襲ってきた敵の目的が、クレア魔鉱石についての情報を求めてだと、最初から知っていた。それを指示した黒幕も、オリバー大公殿下だと目星をつけていたから単独行動をしていた。
初めてミーシャ・ガーネットを見たリアムは驚いていた。危機感を覚えた彼は対応せざるおえなくなったから、ミーシャの仮の婚約話に乗ったのだろう。
ミーシャはぐっと奥歯を噛みしめた。
リアムは子供のころからやさしかった。今も自分を差し置いて守ろうとしてくれている。
一方のクレアは、生まれ変わっても彼を困らせているだけだ。
迷惑な存在にしかなれない自分が悔しかった。
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