第29話 南向きの明るい部屋


「みなさん、大丈夫ですか?」

 二階の回廊でつい、話し込んでしまった。ミーシャはごめんなさいと言って慌てて炎の鳥を呼んだ。護衛のそばにはかがり火があり、そこから小鳥サイズの炎の鳥が数羽飛んで来てくれたので、宰相や侍女、護衛兵の周りを飛んでもらう。


「このくらいの寒さ、平気です。我々は氷の皇帝にお仕えしているのですよ。慣れております」

 ジーンの唇は青く、歯はガタガタと鳴っている。炎の鳥に手をかざし、暖を取っている姿はとても平気そうには見えない。みんなを温めようと、近づこうとしたら、リアムに腕を掴まれ止められた。


「陛下、手を離し……」

「君は大丈夫か?」

 心配そうに見つめられて、わけがわからなくて首をかしげた。


「俺のそばにいる令嬢が一番、寒さに晒されている。気づかなくてすまない」

 申し訳なさそうにする彼の顔を見て、はっと思い出した。まだ、リアムに伝えていない事があったと。だがそれはあとにしようと、とりあえず笑みを向けた。


「私は寒さ対策済みなので大丈夫です。それより陛下。この雪だるま、せっかくですが私が長く持っていると溶けてしまいます。急いで部屋に案内してもらってもよろしいですか?」

 リアムは雪だるまと侍従たちを見ると頷いた。

「わかった案内する。雪だるまは、俺が持とう」

「それはだめです!」

 ミーシャは雪だるまを掴もうとするリアムの手から遠のけた。捕られないようにぎゅっと抱きしめる。


「これはもう、私の雪だるまです。自分で持っていきます。それよりも早くお部屋へ案内してください」

 リアムは出した手を引くと、そのまま先を歩き出した。ミーシャは歩き出す前に一度、振り返った。


「みさなんは暖かくなったら来てくださいね!」

 ジーンやライリー、近衛兵の周りには炎の鳥が数羽集まってきている。ライリーは慣れているが、グレシャー帝国の人が怖がっていないか少し不安だったが、先に炎の鳥をお披露目したのがよかったらしく、そこまで怖がっていない。

 大丈夫そうだと確認してから、急いで前を向き、リアムのあとを追った。



「令嬢はこの部屋を使って」


 ミーシャは大きな窓ばかりの南向きの明るい部屋へ案内された。異様に広く、調度品はどれも品のある高そうな物ばかりで、ぱっと見た印象は絢爛豪華な部屋だ。

 天蓋付きの大きなベッドと難しそうな本ばかり並ぶ棚。そばの大きな暖炉には薪がたくさんくべられていた。ミーシャについてきた炎の鳥は暖炉が気に入ったのか嬉しそうに火の中へ飛び込み、遊びだした。

 ミーシャは暖炉から一番遠い、涼しそうな出窓のそばに、雪だるまを飾った。


 ばたばたと廊下を走る音がして振り返る。

「っ陛下。……自ら、案内を勝手出るほど、ご寵愛されるのはよろしいことですが、……そろそろ一度、執務室へ戻りましょう」

 どうやら走ってきたらしい。ジーンは息切れしながら部屋に入ってくると、リアムに向かって進言した。


「ジーンさま、陛下を長く引き留めて申し訳ございません……」

 炎の鳥で温まり、さっきより顔色がよくなったジーンにミーシャは近づくと、頭を下げた。


「令嬢、ジーンに頭を下げる必要はない。それより長旅で疲れただろう。今はゆっくり休むように」


「ありがとうございます」

 リアムにも一礼すると彼は「またあとで」と言い残して、素っ気なく部屋を出て行った。


「……またあとで?」

 ミーシャは、リアムの姿が見えなくなると頭を上げて呟いた。


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